患者が地域で生きて行く拠り所を目指して
255 大内病院(東京都足立区)
東京都足立区に位置する大内病院は、1958年の開院以来、精神的な問題に悩む地域の人々を支えて来た。同院は、「自分の暮らしに戻るための入院医療」と「生き心地のよい地域づくり」を両軸に、地域全体で支える精神ケアの実践を目指し、その実現の為、①いつでも、誰にでも対応出来る医療体制の構築、②ストレスの無い院内環境の整備、③リカバリーの伴走、④診療とケアの質向上、⑤地域での暮らしの支援、という5つの柱を掲げながら、現在は平成医療福祉グループの一員として「じぶんを生きる を みんなのものに。」というミッションの下、2024年迄に病棟を一新。理想の医療環境作りに取り組んでいる。
新病院のエントランスと外来診察室の待合には、病院が目指す地域の形を表した絵画が設置された。この作品には、精神疾患の有無に拘らず、様々な人々が地域の中で安心して暮らす様子が描かれている。病院はその中で中心的な存在としてではなく、入院や外来、デイケア等を通じて支援する地域の一要素として描かれ、「病院のコンセプトがよく伝わる」との声も寄せられている。
又、入院患者の動線上に在る食堂とスタッフステーション沿いの廊下には、特注のショーウィンドウを設置。同グループの障害者支援施設「PALETTE」の利用者による作品を展示している。竣工後に行われたオープニングイベントでは、新しい病院をモチーフにした絵をプリントした巾着袋がノベルティとして来場者に配布され、好評を博した。作品を目にした患者からは「病棟が華やかになった」「自分の作品も飾りたい」という意欲的な感想も出ており、創作活動への動機付けにも繋がっている様だ。
建築面でも特徴的な工夫が施されている。60年以上に亘る増改築で複雑化し、老朽化していた建物群を、病院機能を維持しながら段階的に建て替えるという大規模なプロジェクトを実施。隣接する公園の緑と対比を成す煉瓦色の外壁には、大小様々な家型のニッチを設け、「大内→おうち→家→みんなの家」という言葉遊びを表現した。同時にこの設計は、病棟内部の平面に凸凹の変化をもたらし、空間的な奥行きの創出や、患者それぞれの居場所作りにも一役買っている。
内装は木目調を基調とし、病室の家具には機能的に許容される範囲で市販の木製品を採用する等、出来る限り家庭的な雰囲気を演出している。スタッフステーションは、日中はドアと窓口を開放する事で患者と同じ目線で向き合える様工夫されており、6階のスタッフルームは職種を超えて協働出来る開放的な空間となっている。カウンターの高さは、スタッフの安全性を考慮しながらも患者との対話がし易い寸法となる様、病院関係者による入念な検討が重ねられた。
大内病院は、アートの力と建築デザインを効果的に活用する事で、従来の精神病院の印象を払拭した、温かみの有る医療環境を実現している。
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