昨今の金利上昇が診療報酬のマイナス圧力に
間も無く暮れる2024年は金融経済を取り巻く環境が大きく変化した。株式市場では34年振りに日経平均が最高値を更新し初の4万円乗せを果たす一方、異次元と言われた金融緩和策が転換し、金利上昇が顕著になった1年であったと言える。特に、後者については直接・間接を問わず影響が有った医療関係者が多かったのではないだろうか。
例えば、受診する患者の視点に立つと、住宅ローン金利の上昇は家計を圧迫するというマイナス面が強調されている。だが、その一方で生命保険については、金利上昇と比例する形で予定利率が上昇し、将来の受取額の増加が見込める他、払い込みに関しても保険料が安くなるケースが多くなって来た。勿論、現時点では僅かだが預貯金の利息収入も増える。マイナス面だけではない。
医療関係者にとって、個人の住宅ローンと同様、病院建設や機器購入等で借り入れが有る医療機関は金利負担増加のデメリットが生じる。反対に、コストアップを招いていた物価上昇が落ち着けば、経営を安定させる要因になるので、ストック、フローの両面で金利上昇が経営にどう影響するか見極める事が重要になりそうだ。
医療全般で気になるのは、診療報酬への影響だろう。間もなく25年度の予算編成が山場を迎える。金利上昇の傾向が出て来た昨年は、財政制度等審議会の財政制度分科会がまとめた意見書で診療報酬について「マイナス改定が適当」と盛り込んだ事が注目されたが、今後もマイナス改定圧力が続くとの見方が専らだ。
22年度に診療所の経常利益率は平均で8・8%と中小企業平均の3%より高いという財務省のデータも有り、「金利上昇→国債利払いの増加→財政悪化」の構図から、今後同省からのマイナス改定圧力が強くなる可能性が有る。金利が上昇し国債の利払い費が急増する懸念が有る以上、同省は抑えられるものは抑えたいというのがホンネだろう。
医療ツーリズム、インバウンドを誘う要因になるか
昨今の円安を背景に、インバウンド需要が引き続き旺盛な状態が続いているが、コロナ禍以前と以後で、その景色が少々変わっている事に気付く。以前は、中国人の所謂「爆買い」が目立っていた。それが、外国人観光客で最近目立つのは、欧米系や中国以外のアジア系の人々。実際、統計で見ても23年の訪日外国人、インバウンド消費額は、19年に比べてそれぞれ約80%、約110%に回復していたのが、中国人観光客だけに絞ると、約25%、約45%しか回復していない。
その要因としては、日中関係の悪化が挙げられている。福島第一原発の処理水の影響も無視出来ないだろう。だが、中国人観光客が鈍い動きとなる理由は、こうした政治の話だけではない。政冷経熱と以前は言われていた様に、政治関係が悪化しても経済交流は活発化して来た経緯が有る。そう、肝心の中国経済が悪化し、庶民の中で海外旅行をする余裕が有る人が少なくなっているのだ。デフレリスクが高まる中で政府の対応が鈍い中国では経済不安が広がっており、25年にはインバウンド需要の起爆剤となる関西万博が有りながらも、以前の様な中国人による「爆買い」はとても期待出来そうにない。
では、アフターコロナで何がインバウンド需要を喚起するのか? 再び注目されているのは、医療ツーリズムだ。日本の医療に対する信頼は元より厚く、ホスピタリティへの評価も高い。更に円安で訪日のハードルは兎に角下がっている。だが現場としては笑ってばかりもいられない。と言うのも、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が24年9月、政府に「病院経営の危機的状況に対する救済措置・財政支援の要望」を提出する位、日本の医療機関の経営は逼迫している。超一流の医療と超一流のサービスを求める外国人富裕層の期待に応える外国語対応や、文化的・宗教的習慣の違いへの配慮等がこの状況で十分に成す事が出来るのか——健全な病院経営が成り立って初めて「おもてなし」にも気が回る、という経営者の声が聞こえて来る様だ。
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