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未来の会

トランプ氏の勝利で見えた米国

トランプ氏の勝利で見えた米国
世界は戦々恐々、日本は右往左往

米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が圧勝し、世界中に大きな衝撃を与えた。日本も自民党凋落の混乱の中で、この情報に接し、右往左往している。それもそうだろう。刑事被告人として多数の裁判を抱える中での勝利は世界を驚かせた。同時に、世界からは米国の民意や政治に対する疑問が投げ込まれ、米国の司法制度に対する国際的な評価の低下も同時に引き起こした今回の大統領選。刑事被告人が総理大臣になる事など有り得ない日本が右往左往する姿は当然だ。それにしても今回の米国の「民意」は誰にも読めなかったに違いない。この結果を見ると、それだけ多くの国民は疲弊していると言う事なのか?

トランプ氏が掲げる大胆で独自の政策が民意として評価され、民主主義を守る事を全面に押し出したハリス氏は、民意として少しお上品過ぎたのか。拮抗した選挙戦を制したのは、最後の最後までトランプ流を貫いたからなのか? 悲鳴にも近い声が世界中から沸き起こったこの勝利。トランプ氏は米国民の支持を再び集めた事で、影響力と求心力が健在である事を世界中に示した。又、11月5日に実施された米国の連邦議会選挙でもトランプマジックが大きな変化を生んでいる。これ迄「ねじれ議会」と言われていた上院・下院の議席数で、トランプ共和党が上院で3議席を獲得し、53議席で過半数を獲得、下院でも共和党218議席、民主党208議席(11月15日現在)となり、両院で過半数を取った事は、トランプ氏にとっては最高の結果となった。トランプ氏は、第1期では「ねじれ議会」のお陰で徹底的に邪魔をされた事から、「政策遂行には議会の過半数が必須」と痛感し、それを記憶に留めていた。今回、トランプ氏が凄かったのは、自身が大統領選で拮抗し続けている中に在りながら、苦戦する上院議員の選挙区に入っている事でも分かる。ウエストバージニア州のジム・ジャスティス議員とモンタナ州のティム・シーヒー議員が新たに議席を獲得して53議席とし、逆転した。共和党が上院・下院の過半数の議席を得た結果、提出する政策に民主党の反対は力及ばずとなり、全ての政策は通過する。トランプ流政治が王道となるケースが随所に見られるに違いない。

米国大統領に就任する為の資格はシンプルに3つ

米国の歴史に於いて、現職の大統領が刑事訴追された事例は無い。又、刑事被告人が大統領選に出馬したケースも無い。米国の憲法は大統領になる為の資格は「米国生まれである事」「35歳以上である事」「14年以上米国に住んでいる事」の3つとシンプルだ。よって刑事被告人である事が大統領への立候補の妨げにはならない。仮に大統領が有罪になり刑務所に収監されたとしても、大統領の地位は維持出来るという法律を持つ。トランプ氏は刑事被告人として大統領に就任する初めての大統領となる。ニクソン氏もウォーターゲート事件で辞任した後に刑事訴追される可能性が有ったが、フォード大統領からの恩赦でそうはならなかった。トランプ氏も大統領就任後に恩赦を受けるのではないかと言われているが、それは無い。大統領には恩赦権が付与され、特定の犯罪の有罪判決を取り消したり、減刑したりする事は可能だが、これは「連邦法違反の犯罪」に限定されている。トランプ氏が起訴されている案件等はニューヨーク州の「州法違反」であり、恩赦が適用される事は無い。

トランプ氏が掲げる「アメリカ・ファースト」というスローガンの下では、内向きの政策が再び強調され、経済再建と国内雇用の保護、移民制限等に注力する姿勢が鮮明だ。その過程で、イーロン・マスク氏を始めとする大富豪達が彼のキャンペーンに巨額の資金を提供した事でも注目が集まった。特にマスク氏の支援は単なる資金提供に留まらず、経済政策の実施に於いても影響を及ぼす可能性が高いと言われる。マスク氏がトランプ新政権で閣僚入りする話も飛び交い、経済政策に於ける財界と政府の結び付きがより強化される事が予測されている。これ迄も巨額献金者はいたが、最後の一線を越える事は無かった。しかし、トランプ氏とマスク氏の2人は互いの欲に貪欲だ。過去に例の無い政治体制が生まれるかも知れない。こうした状況下で、日本はトランプ政権とどの様に向き合うべきなのか。今後の外交・経済・安全保障政策上、極めて重要な課題だ。

今後の日本の経済・安全・外交政策は?

先ず、安全保障政策を見る。ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮の連続ミサイル発射問題、中国の台湾有事と東シナ海問題等、過去に経験した事が無い程の緊張感の中に日本は在る。

今程「惰眠からの目覚め」が必要な時は無い。

日米安全保障条約に基づく同盟関係の維持と強化は、今の日本にとって必須だろう。日本は長年、米国の防衛支援を受け東アジア地域の安定と平和に貢献して来たが、昨今の情勢は一変している。そんな中でトランプ氏の「アメリカ・ファースト」の方針が復活する。当然の如く同盟国への負担要求が再び強まる可能性は高い。特に駐留米軍の経費負担や自衛力の強化は今後より求められる筈だ。日本は自国の安全保障についての役割と責任を一層認識し、独自の防衛力を強化しつつ、アメリカとの協力関係を深める姿勢が更に必要になる。

又、日本は東アジア地域での安定を確保する為、韓国や豪州等、他の米同盟国とも連携を強化し、多国間での防衛協力を進める必要が有る。東アジア地域での軍事的緊張が高まる中、日本はアメリカを軸とした同盟関係を基盤としつつも、地域の安定を率先して守る役割を果たす事が求められるだろう。具体的には、ミサイル防衛システムやサイバー防衛能力の強化、海上防衛力の充実等を通じて、自衛隊の能力向上が求められる筈だ。

次に経済面を見てみると、トランプ政権の内向きの経済政策は日本企業にとって大きな影響を及ぼすと予測される。嘗てトランプ氏が大統領を務めていた際、自由貿易協定の見直しや関税引き上げといった保護主義的政策が進められ、日本の輸出産業、特に自動車産業は大きな影響を受けた。安倍首相がいたにも拘らずだ。今後も保護主義が強化される場合、日本企業は米国市場への依存度を下げ、アジアや欧州等、新しい市場への進出を加速させる事でリスクを分散する必要が出て来るかも知れない。又、日本の経済成長を維持する為には、国内の製造業の強化やイノベーション推進による競争力向上も欠かせない。特に再生可能エネルギーや半導体等の先端技術分野では、日本はアメリカと協力しながら国際的な競争力を確保する事が求められる。

最後に外交政策を見ると、この再選で日米関係は再び試される事になるだろう。トランプ氏は対中国政策で強硬な姿勢を取る事は容易に推測出来る。当然ながら米中関係の悪化が予測され、これに伴い、日本は米国との関係を基盤としながらも、独自の外交路線を模索するタイミングが来るかも知れない。特に台湾問題や南シナ海での領有権問題は更なる緊張を生み、日本は地域の安定を確保する為に、周辺国との対話を深め、対立の激化を回避する為の外交努力を強化する必要に迫られる。又、北朝鮮の核開発が再び表面化する可能性がある為、日本としては、独自の外交イニシアチブを持って地域の安全保障に貢献する姿勢が求められる日が来るかも知れない。その時には、これ迄培って来た日本外交が持つ各国との友好関係が功を奏する事を願う。

更に、日本にとっての課題は経済安全保障の分野でも散見されるだろう。イーロン・マスク氏の様な影響力有るテクノロジー分野のリーダーが政権に関与する事で、米国は半導体や再生可能エネルギー、AI技術といった戦略分野での強化を図る事が予想され、日本もこれに歩調を合わせた協力関係を深める必要が生じそうだ。特に日本は経済的な基盤強化と技術革新を通じて、米国と対等なパートナーシップを築き、互いの利益を確保する事が求められる。今後日本が取るべき姿勢は、日米間の信頼関係を強化しつつ、戦略的な利益を追求し、たとえトランプ氏の方針のぶれが激しくとも同盟関係を維持し、米国と協力して東アジアの安定に寄与する道だろう。「戦後80年。今ほど混沌とした世界は誰も見た事が無い」と言う英国の学者の言葉が気になる。

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