コロナ対策・エネルギー対策を口実に、予備費が5年で20倍に急拡大
令和4年度一般会計新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書が承認された。2年遅れの事後承認である。
予備予算は憲法第87条で「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる」と規定されており、同2項では「すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない」と規定されている。財政法第24条にも同様の規定が有る。予備費はあくまで予備であるから使途が限定されるものではない。しかし、予備費の中でも予め国会の議決を得て一定の範囲で使用される特定目的予備費というものも有る。掲題の本調書は特定目的予備費に関してのものであり、新型コロナウイルス感染症や原油高・物価高対策費用として約7兆円、ウクライナ情勢緊急経済対策費用が約1兆円計上されている。
2022(令和4)年のコロナ対策予備費は5兆円が盛り込まれたが、行動制限も既に解除されている中であり、立憲民主党はコロナ対策として早急に実施すべき施策が有るのであればそれに振り向けるべきだと主張、日本共産党は国民生活と社会経済の強化が求められているが予備費で対応するのはその場凌ぎであると非難した。
22年4月にはウクライナ情勢に伴う原油価格や物価の高騰等に対応する為の経済対策が策定され、使途拡大によって5兆円の予備費が計上された。「新型コロナウイルス感染症に係る感染拡大防止策に要する経費その他の同感染症に係る緊急を要する経費又は原油価格・物価高騰に伴うエネルギー、原材料、食料等の安定供給対策に要する経費その他の原油価格・物価高騰対策に係る緊急を要する経費以外には使用しないものとする」と目的を特定する使途を補正予算で改正したが、年度中に使途を変更する事は前代未聞の事である。
22年の予算委員会では立憲民主党がコロナ予備費の使途は物価高対策に迄広げられ、公共事業関係費等を上回る規模の予算が事実上政府に白紙委任されようとしているとして政府の手法に疑問を呈した。日本維新の会も補正予算の半分以上を先行支出している予備費の補塡に充てている事を問題視し、予備費に対する考え方を正常に戻すべきだと求めた。日本共産党はコロナ対策としての予備予算が予見し難い予算の不足とは到底言えないとして巨額予算の計上を否定した。
野党各党の抗議も実らず国会の承認を得ず予算計上
たがの外れた巨大予備費の膨張に更なる拍車が掛かっている。予備費が予見出来る事態に対して使われるようになり、それが肥大化して行くと財政民主主義の原則が守られない。特定目的予備費だとしても経済対策まで拡大すると使途は事後承認である事から政権の都合で勝手に何事にも使用出来てしまう。予備費の巨額化、特定目的予備費の目的の解釈の拡大は国会の機能を軽視し国民を愚弄する行為なのではないだろうか。
22年10月の第2次補正予算ではコロナ・物価予備費の増額3兆7400億円、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費の1兆円が計上された。予備費が2度も増額される事は過去に一度も無い。結果的にコロナ・物価予備費の総額は9兆8600億円となり、20年度コロナ予備費の予算額である9兆6500億円を上回った。コロナ・物価予備費とウクライナ予備費という2本の特定目的予備費が同時に盛り込まれるのも初めての事だ。日本維新の会は予備費の例外的な措置を止めるべきだと指摘した。各会派共に、予備費の使途拡大と増大は国会での審議を回避する手段となりつつある事を指摘している。この頃、政府は予備費の使途について議事録の残らない理事懇談会にて最低限の説明を行うに留めている。
ウクライナ対応予備費はヨーロッパへのエネルギー供給の影響を鑑みて1兆円を計上した。22年度コロナ・物価予備費は、予算額9兆8600億円に対し、地方創生臨時交付金や燃料油価格激変緩和対策事業等に7兆814億円余が使用され、残額は2兆7785億円余となった。自治体が国から交付された予備費を何に使ったかを特定する事は容易ではない。4月にはコロナ対策費であった特定予備費を補正予算では名称変更してガソリン高騰に対する施策に使えるようにした。ならば4月の時点で予算された予備費については目的外使用になるのではないか。一方、ウクライナ予備費1兆円は使用されなかった。膨らんだのは予備予算だけではない。予備予算の残額も大いに膨らんだ。予見出来ない事態に備える予算だからと言って済ませるのはあまりにも浅慮に過ぎる。
野党は政府の事前決議の例外である予備予算の巨額計上を、財政民主主義の原則に反し議会軽視である事を繰り返し指摘して来た。20年度を境にそれ迄の10〜20倍の規模に急増し無制限に拡大し続けている。18年には5000億円以下であった予備予算が22年には約10兆円の規模となっている。
安倍政権、菅政権、岸田政権に於いて予備予算の規律は失われ巨大化した予備予算が既成事実化されている。例えば、22年特定目的予備予算で計上したウクライナ予備費で全く使われなかった1兆円が翌23年でも大寒波が来た時の備えという理由で1兆円が継続して計上されている。23年の会期中にもウクライナ予備費は使用される事無く補正予算で5000億円を減額する事となった。その後もウクライナ予備費は使わず年度末の残額は5000億円のままである。
使用細目は次々年度に公開、使用目的の拡大解釈も
コロナ・物価予備費とウクライナ予備費という2本の特定目的予備費の合計は10兆8600億円の巨額予算に膨らんだ。政府の経済対策である財政支出約39兆円程度及び事業規模約71・6兆円には4・7兆円程度の特定目的予備費が含まれている。使用額が不明である予備費が経済対策の財政支出や事業規模に含めて計算される事には強い違和感を抱く。4・7兆円程度の特定目的予備費の内、実際に使われたのは約2・2兆円に過ぎない。
岸田総理は23年の国会で予備費について「予算の一部として国会で議論する事や、予備費の支出は、憲法、財政法の規定に従って事後に国会の承諾を得る必要が有る事から、財政民主主義に反するものではない」と述べている。違法な行為でない事は当然理解出来る。問題であると指摘するのは手続きではなく財政民主主義の前提が損なわれる事である。特定目的予備費の目的範囲を拡大解釈し予算額を肥大化させ、その使途が事後承認で足りるという論理が正当化されると財政民主主義は成り立たない。予備費は「予見し難い予算の不足に充てるため」に有るものだ。何にでも使える打ち出の小槌ではない。
特定目的予備費の拡大使用と思しき一例を挙げておく。22年国土交通省のこどもみらい住宅支援事業に必要な経費の支出を特定目的予備費から行っている。原油価格・物価高騰等総合緊急対策の一環として、子育て世帯等に対する省エネ住宅の購入等を支援する為、民間団体の事業に300億円を支出している。子育て世帯が住宅を購入する費用を補助する事は予備費の前提である「予期せぬ事態」なのだろうか。エネルギー価格が高騰の影響を受けているのは子育て世帯だけではない。本来、本予算に計上し国会審議を経て支出すべきものである。
予備費の事後承認は予算執行から2年を経過した後に行われている。既に使用済みの公金の使途を議論する事にどれ程の意義が有るというのか。しかも、予算執行した岸田政権は既に存在しない。予備費は、使用目的が限定されるものではない。政府は、予算の事後承認は本来あってはならない事だと改めて認識する必要がある。
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