相変わらず見殺しにされる患者たち
2023年2月、看護師らによる入院患者虐待が次々と発覚し、逮捕者が続出した東京都八王子市の滝山病院。虐待を裏付ける写真などもSNSで拡散され、精神科病院での人権侵害に鈍感な人々からも「こんな病院が今も存在するとは信じられない」「現代の姥捨て山だ」「一刻も早く廃院にするべきだ」などと驚きや怒りの声が上がった。だが、滝山病院は名を変えて今もある。診療報酬の不正請求を行って保健医療機関指定を取り消されない限り、何事もなかったかのように存続していくのが精神科病院の常なのである。
滝山病院は十分な身体科医療を提供できないのに、身体疾患のある精神疾患患者を次々と受け入れ、ますます衰弱させた疑いもある。想像力や良心までも欠如した医療福祉関係者から「他に行き場がない人」というレッテルを貼られ、この病院に送られた患者の多くは死亡しなければ退院できない状態に置かれてきた。まさにこの世の地獄である。
滝山病院の闇を暴いた弁護士の相原啓介さんは、現状をこう語る。「事件発覚時の理事長や院長が辞めて、中小企業などを再建してきた人物が運営に関わるようになりました。しかし、それで良くなるとは思えないのです。新しい理事長兼院長は80代で精神科医でもありません」
相原さんは事件の発覚前から、滝山病院の入院患者救出に力を注いできた。患者Aさんは入院中に人工透析を受けていたが、救出後に福祉の手厚いサポートを受けて地域で暮らせるようになり、現在は自分で透析クリニックに通っている。この例からも分かるように、患者の心身の状態を悪化させたのは病気そのものではなく、滝山病院の劣悪な環境だったのだ。
事件発覚後、相原さんは患者救出活動を最優先しようとした。「同種の事件を防ぐために制度の見直しは必要ですが、それには何年もかかる。まずやらなければならないのは、劣悪な環境に置かれている入院患者を1日も早く救出すること」。そう考えて、医療機関や福祉事業所などと連携して受け入れ体制を整えた。だが救出活動は停滞し、事件発覚から1年間に入院患者40人が死亡した。この悲劇の元凶は東京都だった。
「弁護士は入院患者からSOSがあれば病院に立ち入れますが、声が届かないと動けません。そこで、東京都などに退院を希望するかどうかの意思確認調査を依頼し、実施してもらいました。都はこの段階では協力的でしたが、なぜか調査結果を我々に伝えず、情報を抱え込んだのです」
都がこの情報を活かして迅速な退院支援に成功したのならばよいが、結果は死屍累々である。「私たちが支援を行っていたら、間違いなくもっと救えていた」と相原さんは断言する。東京都の態度豹変の背景には何があるのだろうか。
こうした悲劇的な展開に対して、市民が抗議の声を上げるのは当然である。一刻も早い患者救出を目的に専門職らが結成した「滝山病院にアクセスする会」は2024年10月、JR 八王子駅の街頭などで署名活動を開始した。滝山病院が受けてきた生活保護法指定医療機関指定の取り消しを八王子市に求める運動で、多くの署名が集まっている。「このままでは滝山病院は変わらない。数多く行ってきた生活保護受給者の受け入れを一度止めて、病院運営の在り方を根底から見直す必要がある」と相原さんは語る。
ジャーナリスト:佐藤 光展
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