前号で紹介した、シンガポールにおけるHIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)認証およびその取得病院について、もう少し説明を続けよう。
HIMSSの活用
HIMSSの掲げるデジタルヘルストランスフォーメーションは、患者ポータル、遠隔医療、予測分析、医療 AI などのツールをエコシステムへ移行することを意味するとしている。そこで中心となるのは患者だが、EHR のより有効な利用を通じた波及効果により、ケアシステムとのやり取りが誰にとってもより良くなると考えられている。
Electronic Medical Record Adoption Model(EMRAM)は、医療機関が電子医療記録の完全な活用に向けて段階的に進む過程を、ステージ0からステージ7まで8段階に分けて評価する。各ステージは医療機関の技術利用の成熟度を示し、ステージ7は紙の記録を完全に排除し、臨床データを電子的に捕捉・分析して患者ケアの質の向上に繋げる高度な実践を示している。後述するNg Teng Fong General Hospital(NTFGH)は、2016年にEMRAMステージ7を獲得し、20年に再評価を受けている。その他のシンガポールの公立病院はステージ6が多いという。
また、HIMSSは23年に高齢化対策として、C-COMM認証をリリースした。これはまさに、後述するシンガポールの医療クラスターにおいて、急性期医療から在宅までをカバーする考え方の電子的なサポートともいえる。具体的には、C-COMM認証は非急性期医療のニーズを満たすために、新たに近代化されたデジタル成熟モデルであり、プライマリケア、バーチャルケア、遠隔医療、母子の健康、メンタルヘルスなど、あらゆるコミュニティベースの環境におけるケア提供のデジタル成熟度を測定するとしている。さらに、デジタル接続された、より安全なケアの生涯にわたる提供、人を中心とした健康エコシステムを構築するための戦略的なロードマップの提供も行う。ちなみにHIMSSのEMRAM6や7といった高いレベルの認証を受けている施設は、中東やインド、インドネシアにも見られ、必ずしも医療の技術レベルとの相関関係はないことにも注意が必要だ。
ここからは、EMRAMのレベル7を取得するNTFGHが所属するクラスターであるNational University Health System(NUHS)の中心的な大学病院のシンガポール国立大学病院について見ておこう。
シンガポール国立大学病院とクラスター
シンガポール国立大学病院(NUH)は1985年に設立され、シンガポール国立大学(NUS)の医学部および歯科学部の主要教育機関、3次病院、臨床研修センター、研究センターとして機能しており、現在1250床を保有する。
NUHSの1つであるAlexandra Hospital(AH) は、シンガポールで初めて急性期とコミュニティケアを統合した病院で、38年に英国軍病院として設立された。現在は326床を保有する病院であり、シンガポールで最も古い住宅地の1つであるクイーンズタウン地区にサービスを提供する。
今回、NUHSに所属するNTFGHとJurong Community Hospital(JCH)を訪問した。
NTFGHの急性期病棟は16階建てで、病床数は700床、その中には高度治療の病床数が42床、ICUの病床数が28床含まれている。また、手術室は18室設けられている。平均在院日数(ALOS)は6日から7日間である。EMRAM認証をシンガポールおよび東南アジアで最初に取得したことから分かるように、シンガポールにおける病院のデジタル化の最先端を走る病院である。
また、外来対応をするクリニックのエリアでは、各フロアに薬局が設置されている。8階建てのビルで、トレーニングセンター、ホール、120の診察室があり、手術前評価を行う。
JCHは12階建てのコミュニティ病院で、リハビリなどの回復期医療が中心である。NTFGHからの紹介が90%、病床は400床を有しており、外来患者向けの診察室は18室、リハビリテーションのためのジムは2つ設けられている。また、モビリティ・パーク、ライフ・ハブ、ヒーリングガーデンが整備されている。平均在院日数(ALOS)は30日である。モビリティ・パークは古い車両などを使って、復帰の訓練を行っている。
ライフ・ハブは、NTFGHとJCHを繋ぐリンクブリッジの2階にある、実物そっくりの3部屋からなる家を模した空間であり、訓練を受けたセラピストの指導の下、患者が自宅環境にスムーズに戻れるよう支援する。
ここでは、実用的なソリューション、支援機器、およびベストプラクティスを通じて高齢者が自宅で、健康かつ自立した生活を送れるようにすることを学べる施設である。臨床上のアドバイスを求めたり、様々なリハビリテーションアイテムの仕様を比較したり、適切なフィッティングのために測定を行ったりすることもできる。写真のような運搬ロボットも使われており、このロボットはエレベータにも乗ることができる。
また、CEOの考えのもと、メンタルとフィジカル両方の充実を従業員と患者ともに行っていく方針がある。音楽療法、健康の日、バスケットボール、バドミントン、水泳などの課外活動、ヨガやズンバの導入、タイガービール視察教育ツアー、健康レシピ表彰、食事教室など、患者や住民とともに様々な取り組みを行っている。
株式会社病院と公的病院
次回は、シンガポールにおける株式会社病院の動向について触れる予定である。株式会社病院とは、民間病院の類型の1つではあるが、日本や韓国のように医療法といった特殊な類型を作っている国は少ないので、一般的には、For profitと言われるタイプの病院で、株主のための利益追求が主眼になるタイプの病院である。日本にいると株式会社の病院というものは非常に数が少ないために、印象が薄いかもしれないが、シンガポールにおいては株式会社病院のウエイトは高い。
具体的には、急性期および専門サービスを提供する11の公立病院があり、うち9つが急性期総合病院、その他産婦人科と小児の専門、精神科病院がある。一方、株式会社病院は8つである。こういったタイプの病院がどのように活躍しているかを見ていきたい。
参考ウェブサイト
https://www.nuh.com.sg/Pages/Home.aspx
https://www.sgh.com.sg
https://www.singhealth.com.sg/
https://corp.nhg.com.sg/Pages/default.aspx
https://www.moh.gov.sg/seeking-healthcare/find-a-medical-facility/types-of-medical-facilities-and-services/
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