大部分の乳児が罹患し、まれに重症化しうるRSウイルス(RSV)感染症の高リスク児に対して、重症化予防のために、月1回注射のモノクローナル抗体製剤パリビズマブ(シナジス®)が用いられてきた。本誌前号で紹介したニルセビマブ(ベイフォータス®)とともに、パリビズマブについても薬のチェック誌で分析した1)。その概略を紹介する。
ランダム割付に偏りの可能性大
パリビズマブは、RSウイルス(RSV)がヒト細胞内に侵入する際に必要なF蛋白質に対するモノクローナル抗体である。2002年に承認され、早産児や先天性心疾患児など高リスク児のRSV感染症の重症化予防に用いられてきた。
パリビズマブの第3相ランダム化比較試験(RCT)は、早産児を対象としたもの(RCT-1と略)と先天性心疾患などを対象としたもの(RCT-2と略)の2件であった。RCT-1では、RSV感染症による入院を55%低下させ、RSV感染による入院日数も少なかったと報告された。
しかし、どちらのRCTでも、割付がパリビズマブに有利であった可能性が高い。例えば上記RCT-1では、RSV感染によらない死亡はプラセボ群500人中5人(1.0%)で、パリビズマブ1002人中2人(0.2%)よりも有意に(p=0.045)に多かった。パリビズマブがRSV感染によらない死亡を減らすことはあり得ないので、この有意の差は、ランダム割付の偏りの可能性が極めて高い。
パリビズマブはRSV抗原検査を陰性化
パリビズマブは、添付文書にも記載されているが、抗原法や培養による検査に干渉し、偽陰性化しうる。ハリビズマブのRCTはいずれもRSV感染の判定を抗原検査で行っている。有害事象としての細気管支炎+肺炎の報告割合はパリビズマブ17.5%とプラセボ群18.6%で有意差はなかった。RSV感染による入院(大部分は細気管支炎または肺炎のはず)のそれぞれ4.8%と10.6%を減じた残りは、パリビズマブ群12.7%対プラセボ群8.0%であり、有意に(p=0.007)パリビズマブ群の方に多かった。つまり、パリビズマブ群でRSV感染による入院が減ったように見えるのは、単にパリビズマブが抗原検査を偽陰性化したためと考えられる。
抗体依存性感染増強の可能性も
RSV感染が重症化しやすいのは生後2カ月以内であり、抗体依存性感染増強による重症化が関係していると考えられている。上記RCT-1では、パリビズマブ群のRSV感染入院児48人中人工呼吸器を要した児は7人で、プラセボ群53人中1人よりも有意に多かった(p=0.026)。全対象者中の割合でもパリビズマブ群に多い傾向があった。入院が減少したのに人工呼吸器を要した重症者が多いのは矛盾しているが、これは検査の偽陰性化に加え、抗体依存性感染増強が関係しているなら説明可能である。
血栓を起こし心疾患を悪化させる
パリビズマブの開発前、血清由来の抗RSV抗体製剤でチアノーゼが増悪し緊急手術や死亡が増加したこと、先天性心疾患児はもともと静脈血栓を起こしやすいことについては、前号でも触れた。RCT-2では死因が報告されていないが、RCT-1ではRSV感染によらない死亡2人のうち1人は肺高血圧症、もう1人はパリビズマブ注射の翌日にうっ血が発現し、注射4日後に突然死した。いずれも血栓が疑われる。
まとめ
RCTの割付の偏りとRSV抗原検査の偽陰性化のため、パリビズマブの効力は証明されておらず、抗体依存性感染増強による重症化と血栓症による死亡が疑われる。高リスク児にも使用すべきでない。
参考文献
1)薬のチェック 2024:24(115):111-113
https://medcheckjp.org/
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