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石破首相の弱体化した政権を支え切れるか

石破首相の弱体化した政権を支え切れるか
屋台骨の赤澤亮正経済再生担当大臣が頭角を現す
赤澤亮正(首相官邸HPより)

10月27日に投開票された衆院選で自民党は大敗を喫した。石破茂首相は何とか首班指名迄こぎ着けたが、今後の政権運営は不透明な状況が続く。そんな弱体化した政権を支え屋台骨となるのが、石破首相と同じ鳥取選出の最側近、赤澤亮正経済再生担当大臣だ。霞が関では政策決定プロセスに変化が生じる、とその手腕に注目が集まっている。

 赤澤氏は衆院鳥取2区選出で当選は7回を数える。これ迄財務副大臣や内閣府副大臣、国土交通大臣政務官、衆院環境委員長を歴任した。元々は東京都文京区出身で、筑波大附属駒場高校を経て東京大法学部を卒業。1984年に旧運輸省に入省し、大臣官房総務課企画官や日本郵政公社郵便事業総本部国際本部海外事業部長等を務めた。運輸官僚として、日航ジャンボ機墜落事故や阪神大震災を経験したという。

 2005年9月の所謂郵政選挙で造反組への刺客候補として出馬。初当選を果たした小泉チルドレンで「83会」にも入会した。総裁選でも選挙対策本部の事務総長を務める等石破首相の最側近として知られ、15年に立ち上げた派閥「水月会」の主要メンバーの1人だ。

 今回の組閣人事で経済再生担当大臣を拝命したが、担務は多岐に亘る。新しい資本主義は勿論の事、賃金向上やスタートアップ、全世代型社会保障改革、感染症危機管理、防災庁設置準備、経済財政政策に及ぶ。そんな赤澤氏は就任後の会見で「岸田政権が打ち出した新しい資本主義の方向性は正しい。人への投資を重視し、資本主義のリニューアルを図る方向性は大いに賛同する」と岸田政権を継承するとしつつも、「消費の伸びが未だ緩やかで力強さを欠いている。海外景気の下振れリスク等にも注意が必要だ。経済有っての財政という考え方でデフレ脱却最優先の経済財政運営を行っていきたい」と意気込んだ。

 今後の重点分野は、石破首相が総裁選で公約として掲げた2020年代に最低賃金を全国平均で時給1500円に引き上げ、防災庁を新たに創設する事に加え、地方創生を実現させる事だ。或る省庁の幹部は「特に防災庁創設等喫緊の課題と言えるのか分からない」と指摘する。

 こうした政策を実現する為に赤澤氏の下に「チーム赤澤」が発足したという。中心メンバーは財務、経済産業、外務の各省から選ばれたエース級の官僚たち。財務省からは一松旬前首相秘書官が抜擢された。政府関係者は「具体的な任務はこれから明らかになるだろうが、重要政策について各省との調整等に尽力するのだろう」と推察する。

貧弱な首相官邸機能に不安の声

 石破政権の特徴は首相官邸が弱く、相対的に党が強い構造で、安倍晋三、菅義偉、岸田文雄といった歴代首相とは異なる状況だ。衆院解散時期の決定を森山裕幹事長や小泉進次郎前選対委員長に握られ、組閣人事も岸田前首相や菅副総裁にも配慮しなければならない状況だ。麻生太郎最高顧問の顔色も窺わなければならない。

 案の定というべきか、首相官邸機能は貧弱だ。首相秘書官は8人も配置したが、筆頭は気脈を通じた槌道明宏元防衛審議官を起用した。防衛省出身者が筆頭の政務秘書官になるのは異例で、或る省庁幹部は「槌道氏は石破防衛相時代に大臣秘書官を務めており、首相との仲も深い。石破首相が防衛省内で最終的に孤立したのに最後まで付いて行った人物。しかし、防衛官僚なので霞が関全体に睨みは利かないし、他省庁の政策への理解も深くないだろう。きちんと機能するか不安な面が有る」と指摘する。安倍政権下での今井尚哉政務秘書官や岸田政権下の嶋田隆政務秘書官の様な迫力は無い。

「水月会」元メンバーに冷たい仕打ちか

そこで重みを増すのが赤澤氏の存在だが、懸念される点は多い。石破首相が率いた派閥「水月会」に嘗て所属したメンバーが閣内で起用されるかと思いきや、入閣したのは赤澤氏と平将明デジタル担当大臣のみ。石破首相は「お友達」があまりいないとされ、赤澤氏はその数少ない1人だ。

 政策への理解が深く、調整力が有るとされた田村憲久元厚生労働大臣や齋藤健前経済産業大臣、山下貴司元法務大臣、古川禎久元法務大臣は重用されなかった。或る全国紙記者は「閣僚名簿が発表された後に、水月会の元メンバーで閣僚経験の有る政治家に取材したが相当機嫌が悪く、むすっとしていた。人事に対して不本意な思いが有ったのだろう」と代弁する。

 水月会は2015年9月に設立され、「石破茂を総理大臣にするためのプロジェクトチーム」と称された。1人1人の政策能力の高さが売りで、飲み会より勉強会と「政策集団」として立ち上がった面も有る。石破首相が過去の総裁選で惨敗して派閥から議員グループに変更された影響から、21年9〜12月に掛けて主要なメンバーが抜けた。或る省庁の中堅官僚は「今回の組閣人事は、力は有るが田村氏や齋藤氏の様に途中で水月会を退会した元メンバーに対しては冷たい仕打ちだった様に映る。やはり派閥・グループから出て行かれたという恨みが有るのだろうか」と推察する。

赤澤氏に「権力」集中の構図

 こうした状況を鑑みれば、経済政策中心に「権力」が赤澤氏に集中する構図が生まれそうだ。赤澤氏が国対副委員長時代に付き合いの有る内政系の省幹部は「政策への理解力は高いが、とても細かい問い合わせをする。全て知らなければ気が済まない性格だ」と明かす。事務次官級の幹部は「赤澤氏はどちらかというと抱え込むような性格。田村氏や齋藤氏ら旧知のメンバーも意見があまり言えないような状況らしい」と気を揉む。

 岸田政権は発足当初は「聞く力」を発揮したボトムアップ型の意思決定過程だったが、何時の間にか木原氏を中心とした首相官邸のトップダウンに変化した。その結果、政策効果に乏しく、事務負担ばかりが増えて不評だった1人4万円(所得税3万円、住民税1万円)の定額減税のような政策も登場したのは記憶に新しい。

 安倍政権下では今井秘書官が暗躍し、首相官邸のトップダウンで、幼児教育無償化や働き方改革等反響の有る重要政策を幾つも実行して来た。菅政権は新型コロナウイルスの感染拡大で苦境に喘いだが、ワクチン接種を1日100万回実施すると大号令を掛け、自治体や企業等をフル稼働させ見事に達成した。

 赤澤氏は岸田政権下での木原誠二元官房副長官や安倍政権の今井秘書官の様な存在になるのだろうか。衆院選では自公で過半数を割った為、政策の意思決定過程は首相官邸と与党との関係ばかりでなく、国民民主党を始めとする野党にも左右され易い政治状況も有り、11月に纏められた経済対策は国民民主党が目立ち、実務的には財務省が中心となっていた。

 石破首相は自身の掲げる政策として「石破ビジョン」を公表している。例えば、内需中心の地域分散型、少量多品種・高付加価値型の経済への移行、地方の農林水産業、建設業、観光・サービス業等の潜在力を生かし、都市部から300万人移住の実現を目指す。賃金を適正化し、低所得者や子育て世代への支援で消費を喚起する。こういった内容は極一部でしかないが、前述した重要政策に加え、具体化に向けて動き出すかも知れない。その時に旗を振っているのは、徐々に頭角を現して来た赤澤氏かも知れない。

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