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未来の会

新たな地域医療構想で存在感を示す
~持続可能な地域医療提供体制の構築に向けて奮闘~

新たな地域医療構想で存在感を示す~持続可能な地域医療提供体制の構築に向けて奮闘~
望月 泉(もちづき・いずみ)1952年山梨県生まれ。78年東北大学医学部卒業。80年同大学医学部第2外科入局。88年岩手県立中央病院小児外科長。99年同消化器外科長。2006年同副院長。09年東北大学医学部臨床教授。12年岩手県立中央病院院長、全国自治体病院協議会常務理事。18年岩手県八幡平市病院事業管理者、八幡平市立国保西根病院統括院長、全国自治体病院協議会副会長。20年八幡平市立病院統括院長。24年全国自治体病院協議会会長(現職)。岩手県地域医療構想アドバイザーも務める他、24年厚生労働省による「新たな地域医療構想等に関する検討会」に構成員として参画する。

全国自治体病院協議会の新会長に2024年6月、望月泉氏が就任した。岩手県立中央病院の院長時代には累積損失57億円からの黒字転換を成し遂げ、医療の質と経営の質を飛躍的に向上させた実力者である。医師不足、経営難が深刻化する自治体病院の立て直しが期待される。現在も岩手県八幡平市病院事業管理者として地域医療の発展に寄与する同氏に、持続可能な地域医療提供体制の構築に向けた取り組みと、地域医療構想を始めとする様々な医療政策に対する見解を伺った。


——会長就任おめでとうございます。新体制で継続すべき施策、重点的に取り組みたい課題についてお聞かせ下さい。

望月 昨今は、地震を含め大規模な自然災害が各地で頻発していますので、他の地域の会員病院からDMATや看護師を派遣する等、地域を守る為の派遣体制を整備して行きたいと考えています。今年1月の能登半島地震でも会員病院に呼び掛け、能登半島の4つの自治体に看護師を交代で派遣しました。

——派遣する人員はどの様に決定するのですか? 

望月 希望者が多く、倍率がかなり高くなりました。自治体病院の場合は給与が全て等級で定められていますから、派遣に対して金銭的インセンティブを出すという事は有りません。やはり医療を志す人の原点として、困っている人に手を差し伸べたいという強い気持ちが根底に有ると思います。

——会員病院間の交流は普段から行われている? 

望月 各県に在る支部単位での研修会や、全国を7つの地方(ブロック)に分け、ブロック毎に会議を実施しています。今年も5〜9月に7つの「ブロック会議」が開催され、私も本部の事務局長等も全てに出席し、経営強化と各県から出された議題についてディスカッションを行いました。

非採算部門を担いながら経営改善に挑む

——地域医療を守る上での自治体病院の在り方と果たすべき役割について、お考えを聞かせて下さい。

望月 自治体病院は都市部から僻地に至る様々な地域に於いて、行政機関、医療機関、介護施設等と連携し、地域に必要な医療を公平・公正に提供し、住民の生命と健康を守り、地域の健全な発展に貢献する事を使命としています。現在、全国約8000病院の10%に当たる約850病院が自治体病院であり、その半数以上は民間病院では採算が取れない様な地域で最後の砦として医療を担っています。これからの地域医療も、やはり自治体病院が率先して進めて行くべきだと考えています。一方で、都市部では3次救急や周産期医療等の政策医療の拠点にもなっています。そういった面で、やはり自治体病院の役割はかなり大きい。コロナ禍でも、新型コロナウイルス感染者の3〜4割を自治体病院が引き受けました。今は感染者数が減り、支援金や補助金がほぼ無くなり経営は厳しい状況です。こうした状況だからこそ、当協議会として自治体病院の存在意義を強くアピールして行きたいと考えているところです。

——発言力を高めて行くという事ですか。

望月 公立病院ですので表舞台に立ったり大々的に発言したりする様な事は有りませんが、経営状況についてはきちんと伝えるべきであると思います。民間病院からは繰入金が赤字補填になっていると言われる事が有ります。これらは全て自治体ならではの根拠が有る交付な訳ですが、基準内の繰入金で経営が出来る様に、経常収支を黒字にする等、医療収支を改善出来る様な取り組みが必要です。医療の質と経営の質を共に高める事を大きな命題としながら、ベンチマーク分析を実施して、きちんとしたデータを発信して行きたいと考えます。

——一般論として、やはり地方公務員的な発想は強いのでしょうか。

望月 親方日の丸的なところは有るかも知れません。又、事務職員は市役所や県庁から派遣されて2〜4年で本庁に戻ってしまうので、専門性が保てない事が課題です。特に、経営状況を長期的に見て行く様な事務職の場合その影響が大きい為、出来るだけプロパーの職員を増やして行きたい。或いは、一旦は他課に移ったとしても、又病院に戻って来て貰える様な循環作りが必要だと思います。

——厚生労働省が発表した『424病院の再検証』が自治体病院に与えた影響をどう受け止めていますか? 

望月 これは、明らかに急性期ではない病棟が、ミスマッチで「急性期」と報告してしまった事によるものです。翌年からは「回復期」と報告する様に指導すれば済んだものが、再検証の対象となった病院について、あたかも必要無い様な捉われ方をされてしまったのは残念でしたね。そもそも病床機能報告制度では、4つの病棟機能を医療資源の投入量で分けたものの、その境目が曖昧で、大学病院を始めとする特定機能病院の多くが全病棟を高度急性期として報告していました。高度急性期というのはICU、CCU、HCU等、特定の治療室で提供される医療であり、一般病床も全て高度急性期という事は有り得ません。私自身は、急性期・軽度急性期と回復期を合わせたもの・慢性期の3分類が良いのではないかと提案しているところです。

2040年に向けた地域医療構想の議論が激化

——「新たな地域医療構想」の議論が進められています。

望月 厚生労働省によると、40年に生産年齢人口が25年の推計約7300万人から1100万人減少し、約6200万人になると試算されています。労働者人口が減る一方で、85歳以上の高齢者人口が増加し、医療介護の必要数が上昇します。高齢の内、85歳以上の要介護認定率は60%以上、90歳以上では80%以上となります。これ迄の地域医療構想は、団塊世代が25年に75歳になるところから始まり、必要病床の約120万床に向けて病床数を減らして来ました。これについては順調に進みましたが、4つの病棟機能を報告し、必要病床と稼働病床を比較すると言った数合わせが主体となり、それ以上の議論にはあまり発展しませんでした。新たな地域医療構想では入院機能だけではなく、かかりつけ医や在宅医療等の外来機能、医療と介護の連携、医師の偏在対策等を含め、より広い議論を行っています。

——医師の偏在状況と、その対策についての見解をお聞かせ下さい。

望月 医師の偏在は、これ迄も大きな課題と認識されつつも解決するに至りませんでした。しかし武見敬三前厚生労働大臣の肝煎りで、今年の12月迄に医師の偏在対策の概略を示すという閣議決定も有り、新たに議論が開始されました。医師の分布を見ると明らかに西高東低を示し、外来医師多数地域は東北地方では仙台、北海道は札幌のみで、その他は大都市と西日本に偏在しています。医学部を持つ大学が岩手県とほぼ同じ広さの四国に4つ在り、九州も多い地域です。こうした大学の分布が医師の偏在に影響しているものと考えられます。


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