医療界、不正資金提供に一段の締め付けも
東証プライム上場の化学会社・日本ゼオンの子会社であり医療機器メーカーのゼオンメディカルの贈賄事件が波紋を広げた。その概要は、2018年から5年の間に同社が製品を販売した全国42の医療機関・大学と医師37人に対し、現金で約1億2000万円を不正に提供したというもの。実態の無い「市販後調査(PMS)」の謝礼名目等で資金を提供していた。23年の9〜10月に千葉県柏市にある国立がん研究センター東病院の医師に賄賂を贈った事で元社長が逮捕。これを切っ掛けに医療機器業公正取引協議会が今年3〜6月にゼオンメディカルの調査を行い組織的な不正が発覚した。これを社内では販促手法として「みなしPMS」と呼んでいたという。
実は、不正供与であっても民間病院の医師であれば贈収賄罪に当たらない。賄賂を貰った医師37人の内、国公立の医療機関に勤務していたのは5人だが、雇用実態等を踏まえて逮捕されたのはたった1人。その他の医師はお咎め無しである。
本来であれば、医師法に於いて医師が品位を損する様な行為が有った場合、医道の観点から厚生労働大臣は免許取り消し、或いは一定期間の業務停止命令を下すと定めており、医師の収賄はこれに該当する。ところが、医道審議会に於ける処分内容を過去5年に亘り遡ると、収賄で処分を受けたケースは少ない。今回の様に、悪事が発覚しても貰い得になるのが現状だ。公取協は、不当な顧客の誘い込みを規制する景品表示法に抵触する可能性が有るとの見方からゼオンメディカルを悪質と見做して厳重警告した。当局は企業側に対しての締め付けを厳しくしようとしているフシが窺える。一方、厚生労働省としても、自己の利潤を不正に追求する行為、経済的利益を求めた不正行為は、医療と直接関係無い場合でも処分の対象となるとの指針を明確にしている。今後は軽い気持ちで金品を受け取ると痛い目に遭うかも知れない。
問われるセキュリティ対策、被害額10億円超も
7月に世界中の多くのWindowsパソコンを襲った、クラウドストライク製のセキュリティソフトウェアのバグにより生じたシステム障害では、約850万台の端末に影響が出たとされ、医療現場もその例外では無かった。システム障害で電子カルテや会計処理ツール等のデータが消失した場合、病院経営は立ち行かず、大打撃を受けるどころか患者の命に関わる事態も生じる。
今年9月12日に富山大学附属病院で起きた電子カルテシステムの不具合では、待合室は受け付けが出来ない患者で溢れた。病院側はHPでの案内や電話で対処したものの、障害の復旧には約9時間半を要し、当初は原因の特定にも時間が掛かった。幸い入院患者には影響は無く、緊急性の低い手術数件を延期した他、外来診療を中止し、救急車の受け入れを停止する等して事態の収束を待った。最終的に、原因は「システムに関する機器の部品の故障」と判明したが、患者の中には突然の事態に不安を感じた人も多かったと想像出来る。
又、医療現場に対するサイバー攻撃も増加の一途を辿る。22年10月に、身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」への感染によるシステム障害で診療を長期間停止した大阪急性期・総合医療センターでは、診療停止や復旧等に伴う被害額は10億円以上に上ったという。
高度化・複雑化が進む医療現場での相次ぐトラブルを受け厚労省では、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6・0版」を定め、医療機関等に求められる安全管理措置を周知しているが、システム障害、サイバー攻撃とも増加傾向に在る事は否めない。このまま日本の病院のセキュリティ対策が進まない場合、医療界に深刻な経済的損失が発生するリスクは未だ有る。個人情報漏洩による風評被害や法的責任の増大も、長期的な収益減少に繋がる。業務効率の低下や、過重労働への懸念から人材不足を引き起こす事も考えられる。これらの影響を考慮すると、適切なセキュリティ投資をどう講じるかは病院経営者にとって極めて重要な判断となる。
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