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未来の会

254 八王子消化器病院(東京都八王子市)

254 八王子消化器病院(東京都八王子市)

アートが引き出す、病に打ち勝つ力
254 八王子消化器病院(東京都八王子市)

消化器外科の世界的権威として知られた中山恒明が、東京都八王子市に医療法人財団聖仁会中山記念胃腸科病院を開設したのは1983年の事だ。中山は65年、東京女子医科大学に消化器病センターを開設し、臨床研修の為の医療練士制度を創設する等、専門医の育成に力を尽くした事でも知られる。そこで学んだ若い医師らは切磋琢磨して知識や技術を身につけ、今も全国各地の第一線で活躍している。病院はその後、医療法人財団中山会八王子消化器病院と名称を改め、2002年には新築移転したが、東京女子医大の関連病院としての役割を担うと共に、消化器の専門病院として多摩地区の医療を支えて来た。

病院でホスピタルアートの取り組みが始まったのは、コロナ禍がようやく落ち着いて来た2022年4月。「ほんの一瞬でも病院にいる事を忘れられ、穏やかな気持ちで時間を過ごせる空間を作りたい」との小池伸定病院長の考えに、地元の東京造形大学の福田秀之教授が賛同し、ゼミの学生らと病院職員で「癒しの壁画」プロジェクトを立ち上げた。

アートを設置したのは地階の放射線科フロアの廊下。以前から「暗くて寂しい」「殺風景で味気無い」との声が上がっていた事から、検査の為に地階を訪れる患者や家族の不安や緊張を少しでも払拭したいとの思いを込めた。プロジェクトでは、参加したゼミ生19人が職員からヒアリングを重ね、どの様なアートを制作するかを話し合った上で、「生命の輝き」「折々の八王子」「八王子の歴史」の3つをテーマ案に選定。更に3グループに分かれて表現方法を検討した。そして、出来上がった3案を病院にプレゼンテーションした結果、ちぎり絵の手法を用いて八王子の四季を描く「折々の八王子」が選ばれた。

壁画には「土手に咲く桜のトンネル」や「病院の窓から見える富士山」など春夏秋冬の4作品が有る。先ず10分の1の大きさの原画を作り、それをパネルに拡大印刷した後、上からちぎった色紙を貼って行くという手法で制作した。色紙を貼り付ける作業には学生だけでなく、病院職員も参加し、プロジェクトの発足から約1年を掛けて作品を完成させた。又、アートの制作費用は広く市民からも募り、多くの募金が寄せられた。

患者の中にはがんで闘病生活を送っている人や緩和ケアを受けている人も多い。この為「緩和ケア委員会」の発案で各病棟の食堂と外来待合室に本棚を置き、「いちょう図書」と名付けた。これも、診察や検査の為の待ち時間を少しでも有意義なものにして貰いたいという思いからだ。

生前の中山は「病気を治すのは患者自身。治療の場では常に自然治癒力を如何に引き出すかを考えなければならない」と説いていた。その教えはホスピタルアートの中にも息づいている。


八王子消化器病院(東京都八王子市)

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