新政権は医療業界にアンフレンドリーか?
岸田文雄・首相の退陣に伴い自民党総裁選挙に関心が集中しているが、人選以上に目が離せないのが新政権でどの様な政策が展開されるのかだ。岸田政権では、安倍政権、菅政権と続いたアベノミクスが目指した成長重視の経済政策が修正された。岸田首相が就任直後から「新しい資本主義」と称したそれは、どちらかと言えば分配重視だったと言える。
過去の流れを振り返ると、2012年迄の民主党政権をも一環に含む形で、政府の経済政策は市場主義的な「成長重視」と社会民主主義的な「分配重視」が、自民党内の疑似政権交代を経て行われて来た。岸田政権が分配重視とすれば、次の新政権は成長重視。この稿が出る頃には自民党総裁選の行方は決まっているが、有力と言われる総裁選候補の顔触れを見る限り、成長路線に舵を切りそうな印象が強い。
これ迄の成長路線重視の政権と言えば、橋本、小泉、安倍の各政権が思い出されるものの、そこで合言葉の様になっていたのが「規制緩和」だ。事有る毎に日本の岩盤規制として槍玉に挙げられるのが医療・農業・教育等だが、新首相には自民党の支持率回復が至上命題になっている為、これらを改革の名の下に規制緩和を迫る可能性が十分。医療関係者はその事を意識した方が良いだろう。
それに関連して注目を集めそうなのが、厚生労働大臣の交代である。新政権に於いて、厚労相のポストは武見敬三・現大臣の留任は考え難い。武見氏の父親は過去に日本医師会会長として絶対的な権力を握っていた武見太郎氏。大臣就任時に医療界は同分野に明るいとして歓迎の声が上がった一方、業界との関係の近さから無駄の削減に切り込めるか不安視される等「医師会の代弁者になるのではないか」との声も有った程だ。
実際に武見氏は、医師会の政治団体「日本医師連盟」から推薦を受けた事が有り、報告書によると資金管理団体は、過去3年間に医師や関係団体から少なくとも1億円の献金を集めていた。武見氏の大臣としての実績、評価については紙幅の関係上ここでは省くが、少なくとも医療業界にとって“フレンドリー”な大臣であった事は確かである。
誕生する新政権が、規制緩和など改革路線、成長路線を標榜し、且つ厚労大臣に医療業界へのしがらみが全く無い、謂わば〝アンフレンドリー〟な人物が就任した場合、あらゆる場面で業界が押し込められる事が有っても不思議ではない。総裁候補の顔触れを見るだけでも、その事は十分想定出来そうだ。
シスメックス、公取委の調査が強さを際立たせる
独占禁止法で禁じられている「抱き合わせ販売」は、国内のどの業界でも起こり得るもので、医療業界も例外ではない。抱き合わせ販売の定義は「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させる」事。医療業界では、6月に血液検査機器大手のシスメックスが独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会が立ち入り検査した事が話題になった。
シスメックスは血液凝固測定装置を販売する際に自社の試薬の販売を強要したという。だが、こうした装置と消耗品をセット販売する事自体は、公取委は安定的な取引関係の構築や製品の機能確保を目的としている場合、独禁法上の問題にはならないとし、この事は公取委がホームページで相談例として紹介している。ところがシスメックスは、取引先に「他社の試薬は使えない」等と虚偽の説明をして販売。更には、自社の試薬を購入しなければ機器の更新に応じない──等の行為が発覚し、公取委は独禁法の禁じる「抱き合わせ販売」に当たると判断した。セット販売自体は合法であると公取委は強調しているだけに、余程悪質な行為が有った可能性が有る。
不祥事が有りながら、それでもシスメックスの株価動向は悪影響が大きかった様子は無い。或る調査機関が纏めたアナリスト15人による事件後の評価は、「強気買い」が9人、「買い」が6人、「中立」が3人となり、売り推奨は1人もいなかった。皮肉にも、事件が世界トップの実力を示し、業界で優位に立っている事を際立たせる結果に繋がった様である。
LEAVE A REPLY