特許が切れて後発薬が出ている先発薬(長期収載品)の一部は10月から患者の自己負担が増える。厚生労働省の思惑は医療費の抑制と新薬の開発支援に向けた財源の捻出に有り、先ずは後発薬との薬価差の4分の1を保険適用外とする。政府・与党は「小さく産んで大きく育てればいい」(厚労族)との腹積もりで、患者負担は近い将来、再び引き上げられる可能性が有る。
後発薬は特許が切れた先発薬の有効成分を使って製造される。国は開発に膨大なお金と時間の掛かる先発薬と差別化し、後発薬の発売時の薬価は先発薬の5割に設定している。そして厚労省や財務省は長年、医療費抑制の観点から後発薬普及の旗を振って来た。
この結果、2005年度に32・5%(数量ベース)だった後発薬の普及率は23年度には80・2%に伸び、政府目標だった8割に達した。只それでも金額ベースでは未だ6割弱。そこで24年度の診療報酬改定では、長期収載品の処方を望む患者の負担を増やす事で先発薬から後発薬へと誘導する手段に出た。
とは言え、長期収載品全てにメスを入れた訳ではない。①後発薬の発売から5年以上経過、又は②後発薬への置き換え率50%以上の薬に限定しており、厚労省は該当する1095品目のリストを公表済み。リストに載っていても、「医療上の必要性が有ると医師が認めた」「在庫が無い」等の場合は例外とする。
この1095品目について厚労省は、保険外治療の枠組みの1つ「選定療養」の対象とする。
日本では保険の利く治療とそうでない治療を組み合わせる混合診療を禁じ、混合診療を受けると保険が利く部分も含めて全額自己負担となる。但し選定療養等の対象は例外で、保険が利く治療と組み合わせた場合でも全額自己負担を求めるのは選定療養の対象分だけに止める仕組みとなっている。
10月以降、選定療養対象の長期収載品を希望する患者には新たに「特別の料金」を求める。通常の自己負担(1〜3割)に先発薬と後発薬の価格差の4分の1を上乗せする。先発薬1錠が120円、後発薬が60円なら差額の60円の4分の1、15円が特別の料金に当たる。3割負担の人なら「120円×3割=36円」に15円が加わり、計51円を払うイメージだ。後発薬が複数有る薬は薬価が最高の後発薬との価格差で計算する。
1095品目の中には、アトピー性皮膚炎等の治療薬ながら、美容目的の使用で問題視される保湿剤「ヒルドイド」等も含まれる。厚労省はこうした先発薬の目的外使用も抑制する考えだ。ヒルドイドを300グラム処方された場合、3割負担の人の窓口での支払いは従来より774円増の2439円となる。
長期収載品を扱う製薬企業120社の内、売り上げに対する長期収載品比率が50%超の企業は約2割、25社有る。高いシェアを保ち続ける薬も少なくない。特許切れ後も長く収益が見込める長期収載品を「先発薬メーカーをだらだらと救済する手段と化し、新薬の開発意欲を削いでいる」(幹部)と捉えて来た厚労省にとり、ここに斬り込む事は長年の悲願だった。
長期収載品の一部を選定療養の対象とする事に対し、医療の現場からは「医薬品の供給が不安定な状況が続いている中では更に混乱を招く」「製薬会社の開発意欲を一層減退させる」といった声が上がっている。しかし厚労省は医師の判断を前提に進める点を強調し、こうした批判を抑え込もうとしている。
「特別の料金」を薬価差の4分の1として新制度をスタートさせる同省だが、事前の審議会等では差額の3分の1や2分の1とする案も示していた。上乗せ分のアップについては、26年度の次期診療報酬改定で打ち出す事も視野に入れている。
LEAVE A REPLY