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未来の会

第110回「日本の医療」を展望する世界目線 シンガポール最新医療事情と医療DX②

第110回「日本の医療」を展望する世界目線 シンガポール最新医療事情と医療DX②
シンガポールの医療制度

シンガポールでは英国式の仕組みが取り入れられており、医師は、一般医(General Practitioner, GP) と専門医(Specialist) に分かれている。初診時には一般医が診察し、必要に応じて公的病院などの専門医を紹介する。ただし、場合により、患者が直接専門医や病院を受診することも可能ではある。

病院の種類は公立病院と私立病院の2種類がある。公立病院は政府が運営し、私立病院は民間企業として位置づけられている。公立病院は待ち時間が長く、私立病院に比べサービスがあまり良くないといわれる。一方、私立病院はコンシェルジュが24時間対応したり、病室がホテルのような作りになっていたりすることもある。また、医療ツーリズムにも積極的に対応している。

民間の専門医は主に私立病院内にクリニックを開業しており、検査や治療、入院、手術が必要な場合は病院の施設を利用する。医師の診察代は専門医のクリニックで支払い、薬代や検査代、入院費などは別途病院へ支払う。

医療費と保険制度について

シンガポールでは日本と同じような健康保険制度はなく、基本的には自己負担となる。シンガポールは競争社会で個人の責任を重視する国柄を象徴しているわけでもないが、1990年に任意加入型の公的保険であるMediShieldが導入され、現在はMediShield Lifeといわれる強制加入の国民皆保険的な仕組みが導入されたが、これは高額な医療、透析、入院費などに適用される。また、一部自己負担もあるため、あまり使い勝手が良くない。例えば、入院や日帰り手術費が1万シンガポールドルを超えた場合、3%の自己負担が発生する。

かつてのMediShieldは年齢制限があり、2012年からは90歳までの適用であった。しかし、15年以降、年齢や健康状態に拘らず、すべてのシンガポール市民と永住者が生涯にわたってMediShield Lifeの適用対象となった。

また、CPFという制度も活用されている。CPF(Central Provident Fund)は、月給から一定額を強制的に積み立てる制度で、①「医療口座(Medisave Account)」、②老後資金のための「特別口座(Special Account)」、③教育費、住宅費に利用できる「普通口座 (Ordinary Account)」の3つの口座に積み立てることになる。月給から積み立てる割合は、年齢によって異なる。55歳になると、「退職口座(Retirement Account)」が開設され、特別口座、普通口座の資金が移管される。シンガポールで医療費が少ない理由は、このような“自助”を基本とした仕組みにより医療費や社会保障に関わる支出が必要最小限にとどめられているからである。

もう少し詳しく述べるとMediShield Lifeはシンガポールの市民および永住者が大きな医療費に対して生涯保護される基本的な健康保険プランであり、公立病院での補助治療や、クーラーのない多人数収容のB2/Cランクの病室での治療に対応している。私立病院やA /B1ランクの病室での治療を希望する場合は、MediShield Lifeの給付では請求額の一部しか賄えない。そのため、CPFによって積み立てられたMediSaveや現金で、差額を支払う必要がある。MediSaveでも賄えない高額な治療費への対応が必要な場合、MediShield Lifeを拡大した民間医療保険である「統合シールドプラン(IPs)」に加入できる。さらにややこしいのは政府補助金である。Medifundという、日本の生活保護より厳しい受給要件の医療補助もあるが、あくまで自己負担部分のサポートになる。そのため、Community Health Assist Scheme (CHAS)という低所得世帯向けの医療費補助制度が19年10月から拡充された。 CHASでは、公立および民間の一般開業医(GP)や歯科医療サービスの利用に際して、補助金を提供する。

尚、02年からは日本の介護保険にあたるElder Shieldも開始された(21年からはCareShield Lifeに改変)。Elder Shieldにおいては、40歳から65歳までMediSaveから保険料を支払う。保険金として拠出される金額は最大4000シンガポールドルと少なく、支給期間も最大で6年間である。日本的に言えば、あまり当てにはできない。また認定基準も厳しい。Elder Shieldの認定基準は「重度障害」で、①入浴 ②着替え ③食事 ④トイレの使用 ⑤歩行 ⑥ベッドと椅子間の移動といった日常生活動作(ADL)のうち、最低3つを自力で行えない状態だとしている。

在星邦人向けの医療状況

シンガポールには日本人医師がいるクリニックや、日本語通訳がいる医療機関が数多くある。後で述べるRaffles Japaneseクリニックが日本語対応病院としては一番大きいものになる。Raffles Japaneseクリニックでは10名以上の日本人医師が治療を提供している。日本とシンガポールは医師免許の互換制度を設けているため、日本人医師も所定の手続きを踏むことで診療を行うことが可能である。但し、その場合は診療対象が日本人の外来患者のみに限定される。01年時点では、約2万5000人の在留邦人に対して日本人医師は13名という状況だったが、16年時点では30人以上にまで増えた。またいかなる専門医であっても、シンガポール人の医師がスーパーバイザーとして付く仕組みになっている。一般医から歯科、専門医まで、日本語で幅広い医療サービスを受けられるため、日本人は安心して受診できる。隣国からシンガポールに健康診断や治療を受けに来る日本人も多いという。

地域医療のクラスター

17年の時点で、シンガポールの国全体では公的急性期病院が9つ、コミュニティ病院が8つあった。これを公的医療提供体制として以下の3つの主要な地域医療クラスターとした。

① シンガポールヘルスサービス(SingHealth):シンガポール最大の病院クラスターで、シンガポール総合病院(SGH)などの主要な病院や、専門の医療センター、地域保健施設を含んでいる。広範囲にわたる医療サービスを提供し、高度な医療研究も行っている。

② ナショナルヘルスケアグループ(NHG):このクラスターには、タン・トック・セン病院(TTSH)などが含まれる。NHGは、地域社会に密接したサービスを提供し、予防医療、一次医療、老年医療などに重点を置いている。

③ ナショナルユニバーシティーヘルスシステム

(NUHS):国立大学病院(NUH)を中心としたクラスターで、一次医療から専門医療まで幅広いサービスを提供している。特に研究と教育に力を入れており、最新の医療技術と治療法の開発に貢献している。

プライマリケア

シンガポールのプライマリケアは、すでに述べたように英国的な要素も入っているが、そもそも自費診療の要素が強いため、患者の選択にはかなり偏りがある。具体的にはシンガポールのプライマリケアには、公立診療所(ポリクリニック)と民間クリニックがある。需要の8割は民間クリニックに偏っている。尚、病院医療ではこの比率が逆になる。ポリクリニックは、シンガポール国民や永住者向けの一次医療を提供する施設で、18年では18カ所ある。ここでは、GP(総合診療医)が勤務しており、予約制で診察を受けることができる。現在、高齢者対策の影響もあり、急速にその数を増やそうとしている。

ポリクリニックでは、一般的な健康相談から、高血圧、糖尿病、高コレステロールなどの慢性疾患の管理まで幅広い診療を行う。予防接種や健康診断も提供されており、シンガポール国民や永住者は、政府補助金を受けてポリクリニックを利用できる。外国人や一部のサービスでは自己負担が必要だが、一般的には手頃な価格で医療を受けることができる。

参考ウェブサイト

https://www.jetro.go.jp/world/reports/2018/02/91a0338b87113e7c.html
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2014/07001564.html

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