挨拶
原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士):今回のテーマは「データで考えるケアミックス」ですが、私は以前、厚生省(当時)の政務次官を務めていた事が有り、厚生行政の中で分析統計というものが如何に難しく、数字が行政にとって大事なものであるかは理解しているつもりです。早80回を数えるこの勉強会で、改めてしっかりと勉強出来る事を最高顧問として心から誇りに思っています。
三ッ林 裕巳氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(衆議院議員、元内閣府副大臣):医療費の抑制や効率的な医療提供の観点からもケアミックスという施設形態には大いに関心が集まっています。有機的な連携の構築等の課題も有ると言われていますが、地域住民・患者の生活を支える視点から実情に応じた地域医療の将来を考える上で、葦沢先生の本日の講演が学びの深いものとなる事を期待しています。
東 国幹氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員):私の地元の北海道も大変な暑さが9月まで続く様になりました。ところが、9月を過ぎると冷え込み始め、高齢者を中心に、急激な気候の変化に対し、如何に健康を保って行くのかが課題となっています。地域によって異なる課題が有りますが、医療と福祉の向上を支えるのは診療報酬です。制度がより良いものになる様、しっかりと汗をかいて行きます。
和田 政宗氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(参議院議員):自民党で来年度予算の概算要求の議論が始まりました。財務省はシーリングといって上限を設けたがるのですが、私達は物価上昇分を反映しなければ実質的な減額になると主張し、激論を交わしました。医療の発展だけではなく、科学技術宇宙政策の面でも、日本で最先端技術が開発され、技術立国としての地位を高められる様、予算を確保して行きます。
伊佐 進一氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員):今年6月に政府の骨太の方針が決定し、その中に予算編成について「経済・物価動向等に配慮する」と書き込まれました。ところが財務省は来年度予算編成で、「事業予算が膨らむのなら、他の局から予算を持って来る様に」と言っています。これでは物価の上昇に配慮している事にならず話が違う。骨太の方針を武器に、必要な予算確保に取り組みます。
尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):10年程前、厚労省の幹部に診療報酬の改定が2年毎というのは頻繁過ぎませんかと尋ねたところ、国の医療政策を導入するという目的もあり、2年毎が寧ろ好ましいという返答がありました。振り返ると、確かに診療報酬改定の度に国の政策が見えて来ます。あれから数回の改定が行われましたが、患者満足度を高める改定になっている事を願います。
講演採録
■適切な医療資源の投入が目的
今年の診療報酬改定で、厚生労働省は「地域包括医療病棟」という制度を新設しました。これは、今後急性期の病院の経営が困難になって行く事を踏まえた上での提案だろうと私は理解しています。
こうした提案に対して、自分達の病院の立ち位置を見ながら、どの様に活用出来るのかという点を、私が所属する東京都健康長寿医療センターのデータ等を紹介しながら説明します。このデータ解析の方法を見て、皆さんの医療機関が地域包括医療病棟を導入する際の参考にして頂ければと思います。
我が国の入院医療制度の現状ですが、2017年の厚生労働省中医協の資料で、一般病床は約89万床となっています。一般病棟が約61万床、この内包括払い方式(DPC/PDPS)の病床は約48万床在ります。つまり診療報酬上、急性期の一般入院基本料に該当する病床の約85%をDPC/PDPSの病床が占めている。という事は、急性期病院では今後、こうした現状に加えて地域包括医療病棟と回復期病棟等を組み合わせてケアミックスを実現して行く必要が有るのだろうと思います。
DPC/PDPS病院の診療報酬は「包括評価部分」と「出来高評価部分」に分かれています。前者には入院基本料や検査・画像診断、投薬・注射、1000点未満の処置等が含まれ、ここに時間や手間を費やしても報酬は増えません。一方、後者には手術や麻酔、放射線治療、1000点以上の処置等が含まれます。要するにDPC病院が利益を出す為には、包括評価部分の日常的な対応を減らし、出来高払いの手術等の数を増やせばいい訳です。更に、包括評価部分の点数には、医療機関別に係数が掛けられます。係数は医療機関の体制や役割、機能によって決められますので、私は係数の中の役割や機能が評価される「機能評価係数Ⅱ」を、“前年度診療の通信簿”と呼んでいます。
又、18年の診療報酬改定で、「個々の患者の状態に応じて適切に医療資源が投入され、より効果的・効率的に質の高い医療が提供される事が望ましい」「患者の状態や医療内容に応じた医療資源の投入がなされないと粗診粗療となる恐れが有る」という考え方が示されました。「医療資源の投入量」とは、看護職員の配置基準で言えば、2対1、7対1、10対1、13対1等の事を指します。つまり患者の重症度、医療・看護必要度に応じて医療資源を投入すべきなのです。
只、当時の7対1と10対1の診療報酬の点数を比較すると、7対1の方が204点高かった。そこで18年の改定では、7対1と10対1の入院料の再編・統合が行われました。具体的には7対1の入院料の区分を1〜3に分け、入院料1から入院料の点数差が少ない2〜3(10対1)へ誘導する様に設定しました。これに対し従来10対1だった病床(入院4)からは2、3への移行が出来ない為、無理に入院料1に移行するという事が起きました。これは、厚労省も想定していない事態でした。厚労省の目的は点数の高い入院料1の病床数を減らす事でしたから、入院料2〜3への移行を促す為、今回は基準を更に厳しくし、一般病棟の重症度、医療・看護必要度の評価項目が見直されました。この意味するところは、救急や手術、がん治療への評価です。これは従来から変わりませんが、急性期の病院、特にDPC病院では、救急、手術、がん治療を行わずに経営は維持出来ません。これが、厚労省の現在の方向性です。
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