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第197回 厚労省ウォッチング
厚生年金適用拡大へ視界は良好?

第197回 厚労省ウォッチング厚生年金適用拡大へ視界は良好?

2025年の年金制度改革に向け、秋以降に検討を始める改革案が概ね出揃った。中でも最も実現可能性が高いのは厚生年金の加入要件を緩和して対象者を増やす案で、厚生労働省も成立に自信を示す。ただ、公表した緩和策の中で最少の「90万人増」の案に留まる見通しで、同省年金局は「一歩一歩進めるしかない」(幹部)と早くも落とし所を見据えている。

パートら短時間労働者への厚生年金の適用拡大は、16年以降じわじわ進んで来た。現在の加入要件には「従業員101人以上の企業」で「週に20時間以上」働き、「月額賃金8・8万円以上」等の条件が残る。この内、今年10月からは企業規模を「従業員51人以上」へと緩和する事が決まっている。

これに対し、厚労省は7月に公表した年金財政検証で新たな適用拡大案として①「従業員51人以上」の企業規模要件撤廃と5人以上の個人事業所の非適用業種(農林水産業、飲食店等)を解消、②①に加え賃金要件を撤廃、③②に加え「5人未満の個人事業所」も対象、④「週10時間以上働く人」を対象——との4パターンを示し、それぞれの「効果」を試算した。

試算によると、①〜④の効果はそれぞれ①加入者が90万人増え、保険料収入が増す為年金水準も1・0%上昇②200万人増で1・7%上昇③270万人増で3・1%上昇④860万人増で3・6%上昇——というものだ。

厚生年金の保険料は労使折半で、加入者が増えれば企業の負担も増す。この為、以前は企業の抵抗が極めて強かった。只、一方で賃金や労働時間の加入要件はパートらが勤務時間を厚生年金の保険料負担が生じない範囲に抑える誘因となり、近年は人手不足を招いている。背に腹は代えられず、経済界の中でも要件緩和を是認する声は広がっている。

日本年金機構HPより

とは言え、企業の負担増への抵抗は根強く残っている。更に、働く側も保険料負担が生じ、労働時間を増やさないと手取りが減る。横浜市内のスポーツ店で就業時間を調整して働くパートの女性(59)は「少々老後の年金が増える事より、今の手取りが大事」と言う。こうした声を背景に、パートを多く抱える外食業界等は慎重姿勢を崩していない。

厚生年金の適用対象者の増加は、国民年金加入者の減少と裏腹だ。厚生年金を④の「週10時間以上働く人」に迄広げると国民年金加入者は今より4割減の1200万人程度まで減る。労働者は極一部、無職の人や学生ら保険料を負担しない人が多くを占める様になり、制度の抜本的見直しが避けられなくなる。

又、厚生年金を適用拡大するなら健康保険もセットで議論をする必要が生じる。

7月3日の社会保障審議会医療保険部会。健康保険の適用拡大に関し、健康保険組合側からは適用拡大を評価する声が飛び出した。しかし被用者保険への移行が進むと国民年金同様、国保も規模が縮み、保険料を負担しない人の割合が増えて行く。同部会で国保中央会の原勝則・理事長は「保険者機能の発揮が困難になる」と、国保の存立危機への懸念を示した上で「年金とは別に医療保険に関しては将来、一定の歯止めを考える必要が有る」と指摘した。

厚生年金の適用拡大については、国民年金や国保への影響、慎重姿勢を隠さない業界団体の意向も踏まえ、自民党の厚労族幹部は「一気にエイヤで進める話じゃない」と言う。

こうした声に厚労省幹部も「手堅く行くしかない」と認めつつ、「業界団体が反対一色だった10年前は、企業規模の要件撤廃なんて夢の話で隔世の感が有る。今後も手堅くやれば進める事は出来るだろう」と話すが、そんなに甘く、事は進むのだろうか?

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