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「蓮舫惨敗」が立憲民主党に突き付けた致命的弱点

「蓮舫惨敗」が立憲民主党に突き付けた致命的弱点

「無党派」「若年層」を引き付ける野党の不在と政治の停滞

東京都知事選(7月7日投票)に於ける蓮舫・元参院議員の惨敗は、次期衆院選へ向け「あわよくば政権交代」と意気込んでいた立憲民主党に対し旧民主党以来の弱点を突き付けた。

 3選を果たした小池百合子・知事は強かった。現職が出馬して敗れた前例が無い中で、敢えて立候補した蓮舫氏の挑戦は評価されるべきだ。蓮舫氏は立憲民主党を離党して都知事選に臨んだが、石丸伸二・前広島県安芸高田市長を下回る3位に終わった。旧民主党政権で行政刷新担当相として事業仕分けをリードし、その後、民進党代表も務めた蓮舫氏は、誰が見ても旧民主党系候補であり、その旧民主党の流れを汲む野党第1党が立憲民主党だ。

「悪夢の民主党政権」負の遺産は尚も重く

 立憲民主党の弱点とは何か。それは正に、旧民主党政権の失敗が残した負の遺産だ。あれから12年も経つのに、と思う人もいるかも知れない。だが、旧民主党に期待して裏切られた有権者の側には怒りにも近い不信感が記憶の奥底にベッタリと張り付いている。そして、当時、未成年だった世代には、安倍晋三・元首相が繰り返し発信した「悪夢の民主党政権」の先入観が染み着き、与党に代わる投票先の選択肢として認識されているかどうかも疑わしい。

 都知事選の得票率は小池氏43%・石丸氏24%・蓮舫氏19%だった。

 毎日新聞と社会調査研究センターが投票当日、投票を終えた有権者を対象に実施したインターネット調査の結果を年代別に見ると、【18〜29歳】では小池氏に投票したと答えた割合が37%、石丸氏が32%、蓮舫氏が13%。【30代】は小池氏44%・石丸氏27%・蓮舫氏12%。【40代】は小池氏44%・石丸氏25%・蓮舫氏13%。【50代】は小池氏45%・石丸氏24%・蓮舫氏19%。【60代】は小池氏53%・石丸氏21%・蓮舫氏18%。【70歳以上】は小池氏49%・石丸氏14%・蓮舫氏30%。率直に言って蓮舫氏は50代以下では石丸氏とも勝負になっておらず、70歳以上で何とか2位に浮上する。

 この敗因を蓮舫氏個人に帰する訳には行かない。3氏とも無所属での出馬だったが、前述した通り蓮舫氏を無所属候補と受け止めた人は少なかっただろうし、実際、選挙戦では立憲民主党や共産党の幹部が連日、蓮舫氏の応援に駆け付けた。小池氏も実質的に自民党と公明党の支援を受けたが、両党は表に出ず、裏で組織票をまとめる「ステルス作戦」に徹した。石丸氏は政党の支援を受けず、インターネット上の発信と街頭演説を組み合わせた独自のスタイルで支持を広げた。あたかも既存政党の候補者は蓮舫氏1人の様な構図となった結果、毎日新聞と社会調査研究センターの調査で無党派層の投票先は小池氏に41%、石丸氏に30%と割れ、蓮舫氏に投票したと答えた無党派層は16%に止まった。

 自民党の裏金事件に対する批判は収まっていない。調査に回答した人の内閣支持率は18%、無党派層に限れば8%に落ち込む。一方で、この調査に於ける政党支持率は自民25%・立憲民主7%・日本維新の会4%・公明4%・共産3%・国民民主3%等。「支持政党は無い」と答えた無党派層は49%を占める。立憲民主党が次期衆院選で躍進する為には、この無党派層を味方に付ける他無い。

 しかし、都知事選後に立憲民主党内から聞こえて来るのは①共産党とのリベラル左派連携を続けるか②共産党と手を切って連合との関係を立て直し、国民民主党と連携する旧民主党系の再結集路線か︱︱という選挙協力を巡る積年の路線対立だ。都知事選で連合東京と国民民主党は小池氏支援に回ったが、仮に蓮舫氏が共産党ではなく連合の支援を得ていたら小池氏に勝てたのか。立憲民主党の政党支持率に共産党を足そうが国民民主党を足そうが全体の1割に過ぎない。議論すべきはそこではなく、如何にして国民の信頼を取り戻し、自民党に代わって政権を担当出来る政党として認知されるかだろう。旧民主党政権で内紛を引き起こした当時の党幹事長、小沢一郎・衆院議員がまたぞろ、泉健太・立憲民主党代表を引き摺り下ろす動きを見せているが、内向きの権力闘争が国民を更に遠ざける事にまだ気付かないのか。

「石破首相」なら衆院選後は「自公国」連立?

国民の政治不信は既存の政党全てに向けられている。一昨年の参院選で躍進した日本維新の会は一時、各種世論調査の政党支持率で野党第1党の座を立憲民主党から奪う勢いを示したが、昨年末頃から失速して現在に至る。維新が誘致を主導した2025年大阪・関西万博への批判が高まった事に加え、維新が協力姿勢を示して来た自民党が裏金事件で批判を浴びた余波もあろう。その上更に先の国会の政治改革論議でも自民党に助け船を出して「政権擦り寄り」と指弾された。既存政党と一線を画す改革政党を自任して来た維新も今や既存政党の仲間入りを果たしたに等しく、都知事選で独自候補を立てられなかったのも然もありなんである。

 立憲民主党に話を戻そう。既存政党に政治不信が向けられる中、如何にして無党派層を振り向かせるか。鍵を握るのはやはり若年層だろう。その意味で、蓮舫氏が都知事選で現役世代への支援を重点公約に掲げて「若い人達の負担と不安を取り除きたい」と訴えた方向性は間違っていない。問題は、「立憲民主党の蓮舫氏」が何を訴えても、ターゲットにした若年層の耳に届かなかった点にある。共産党の支援を断っていたら「若い人達」は耳を傾けてくれたのか。今回の都知事選で惨敗したのは蓮舫氏だが、その結果が突き付けたのは、立憲民主党が若年層にそっぽを向かれている現実だ。これを蓮舫氏個人の問題に矮小化したり、党内抗争の口実にしたりしている限り、立憲民主党が幅広い層の有権者から政権交代の期待を集める国民政党に脱皮する事は無いだろう。

 衆院選は都知事選と異なり、政党が国会の多数を競う選挙だ。仮に石丸氏が広島1区から無所属か新党の候補として出馬して岸田文雄・首相を破るセンセーションを巻き起こしたとしても、選挙後の国会では与党か野党の立場を取って議論に参加しなければならない。全国に無所属ブームが広がるかも知れないが、限定的だろう。自民・公明の与党が過半数を割れば、野党を巻き込んだ合従連衡となる。

 永田町ではこの夏、9月の自民党総裁選へ向け、現下の猛暑に負けない熱い駆け引きが繰り広げられている。その中で自民党内から聞こえて来るのは、総裁選後の今秋に衆院解散・総選挙が行われる前提で【A】岸田首相続投なら自公が大幅に過半数割れして維新と連立、【B】石破茂・首相に交代なら自公の負け幅が縮まって国民民主党と連立︱︱という2つのシナリオだ。立憲民主党が政権交代を実現させる為には、単独で過半数を占めるか、衆院の半数に迫るくらいの地滑り的な大勝が必要になる。自民党の裏金事件に対する批判票をある程度集められたとしても、高齢層頼みの支持構造に安住したままでは、そこまでの勝利は難しいと言わざるを得ない。

 都知事選の投票率は60・62%。4年前の55・00%から5ポイント以上増え、60%を超えたのは12年の62・60%以来だ。その中で小池知事は今回、得票率を前回の60%から大きく減らしており、有権者の関心が高まった分の投票が石丸氏に向かったという見方も出来よう。有権者の半分しか投票しない低投票率の国政選挙が続き、投票者の半分=有権者の4分の1に当たる与党岩盤支持層によって支えられて来た「4分の1政権」。

 その不祥事に鉄槌を下すには、真っ当な野党が政権担当能力を示して投票率を上げ、無党派・若年層の支持を勝ち取るしかない。

「誰に投票したか」毎日新聞と社会調査研究センターのインターネット調査より

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