少子高齢化による医師不足や医療費の増大が懸念される中、自分の健康を自己管理するセルフケアが求められている。軽度な症状なら、薬局等で検査薬や市販薬を購入して様子を見る事も必要だろう。その為には製薬会社がニーズに合った医薬品を提供する事が必要だ。今年4月、風邪薬の「ルル」や解熱鎮痛薬の「ロキソニンS」等を製造販売している第一三共ヘルスケアの代表取締役社長に、経営企画部門長を長く務めた内田高広氏が就任した。今後、製薬メーカーとしてどの様に社会に貢献して行くのか、内田氏に会社を取り巻く経営環境や、今後の目標、抱負について話を聞いた。
——55歳の若さで社長に就任されました。
内田 今年1月に、当時の社長である吉田勝彦に「次を任せたいと考えている」と打診され、引き受ける旨を即答しました。当社は4社の製薬会社が経営統合した組織です。他にも優秀な社員が大勢いる中で選ばれた事には率直に驚きもしましたが、業績も順調に拡大しており、医療用成分をOTC化するに当たってのスイッチ・ラグの解消といった業界への追い風も有る。この成長のスピードを加速させて行けるタイミングで経営を引き継ぐという点では、強い責任感と共に胸躍る気持ちも有りました。
——どの様な点で推挽されたと感じていますか。
内田 社長就任会見の時に前社長も述べていましたが、第一三共ヘルスケアの発足以来、経営企画部で成長戦略を立案して実行して来たという経歴から、会社の良き伝統や文化を引き継いで行けるという点でしょうか。「あらゆる課題に向き合うバイタリティーに溢れ、社員の声に対する傾聴の姿勢や迅速な意思決定といった経営者に求められる資質を兼ね備えている」等と紹介されましたが、「課題は先延ばしにしない、そうするのであれば理由を明確にし、期限を切って改めて結論を出す」というスタンス等、自分自身で強みだと自負している部分が評価されていたのだと感じました。
——会見では5つの経営方針を表明されました。
内田 第一は、「OTC医薬品で圧倒的なシェアナンバー1企業となる事」です。続いて「機能性スキンケア・オーラルケアの一層の拡大」、「新ブランド、新規事業、新規アライアンスの創出」、他に「科学的根拠に基づいた高付加価値ヘルスケアカンパニー」、「社員が心の底から誇りに思える会社」を掲げています。これらを通じて、誰もが健康であり続けられる社会作りに貢献する事を目指して行きます。
——売上目標を今年度800億円台と掲げました。
内田 売上目標は、正確には827億円ですが、この額は第一三共ヘルスケアが発足した当時と比べて1・6倍、発足時の会計基準で見ると約2倍で、過去最高売上の更新を目指す事になります。1月に発表した売上収益は746億円でしたので、十分達成が可能だと思っていますが、発足から18年掛けてここ迄来たのかと考えると感慨深い数字です。今年は1月に医療用医薬品のみだったカロナールブランドからOTC医薬品「カロナールA」を発売しました。カロナールは解熱鎮痛薬で、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種時に医師から処方された方も多いと思います。3月にはロキソプロフェンナトリウム水和物配合の「ロキソニン総合かぜ薬」を発売しました。同剤は解熱鎮痛薬ですが、風邪を引いた時に解熱や痛み止めとしてよく服用される為、初めて総合風邪薬に配合しました。又、千寿製薬の目薬ブランド「マイティア」の販売権を獲得し、4月から販売開始しています。2024年度では約40億円規模ですが、当社のマーケティング力との相乗効果でブランド価値を更に高め、なるべく早い段階で50億円規模へ拡大させて行きたいと考えています。これだけ新たな製品を次々と出せる事は、当社の強みです。今年度はこの3つの製品をしっかり育成して行く事も重要だと考えています。
——売り上げ目標は、それぞれの事業部毎に決めるのですか。
内田 先ずは事業部毎に、どの様な戦略を立て、目標を掲げるのかを決定して行きます。我が社の経営陣は、殆どの事業に関して把握していますので、事業部から提出される事業戦略に対し、「もう少し上を目指せるんじゃないか」或いは「ちょっと冒険し過ぎじゃないか」といった形で、議論しながら、最終的な数値目標を決めています。戦略と数字はセットなので、数字だけを見て判断する事は有りませんが、目標に対しては慎重に見極めています。高過ぎる目標は社員のモチベーションを下げてしまいますが、私自身はチャレンジングスピリットの塊みたいなところが有りますので、高めに感じられる数字であっても「ここ迄頑張ろう」と鼓舞する様に意識しています。経営側としては、目標はチャレンジし甲斐の有る数字になる様心掛けています。
OTC医薬品の活用でセルフケアを推進
——健康寿命を延伸し、医療制度の維持にも繋がる「セルフケア」にはどの様に取り組みますか?
内田 「自分自身で健康を守り対処する」というセルフケアの考え方は、今後益々重要になるでしょう。製薬業界では、病気の予防や軽度な疾病の治療の為に自分で服薬する「セルフメディケーション」を社会に浸透させるべく取り組んで来ましたが、十分な理解はこれからだと思います。只、コロナ禍で病院を中々受診出来なかったり、OTC医薬品を常備したりという経験をして、少し調子が悪い位であれば、市販の検査薬や薬を使って様子を見るという考え方も根付いて来た様な気がします。これ迄は、ちょっとした体調不良でも念の為に病院で受診するのは当然の事でしたが、人々の意識も変わって来たという事でしょう。最近でも、引き続き気管支や喉に効く風邪薬が購入されている事からも、そうした意識の変化を感じます。
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