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都立病院の独法化2年の成果とは スケールメリット生かし体制強化

都立病院の独法化2年の成果とは スケールメリット生かし体制強化
安藤 立美(あんどう・たつみ)1952年生まれ。75年明治大学法学部卒業。東京都入都。福祉保健局長、財務局長を経て2012年都副知事。17年副知事退任後、都国民健康保険団体連合会理事長、都人材支援事業団理事長等を歴任。22年地方独立行政法人東京都立病院機構理事長。

東京都が、100%出資の地方独立行政法人東京都立病院機構を設置して都立病院やがん検診センター等15の施設を傘下としたのは2022年7月。柔軟な病院運営を実現すると共に、専門性の高い医療人材を確保し、育成するのが目的だった。発足当初から新型コロナウイルス感染症への対応に追われたが、独法化から2年が経過し、病院の経営体質の強化や人材育成は進んでいるのだろうか。東京都職員として保健医療行政や財務に携わり、副知事を務めた経験を買われ、初代理事長に就任した安藤立美氏に、この2年間を振り返っての成果や課題を聞いた。


——理事長に就任した経緯を教えて下さい。

安藤 理事長は都知事が任命します。選定に当たり、大きな組織のマネジメント経験が有り保健医療分野にも知見が有るとして、小池百合子・都知事が判断されたと聞いています。私は都の福祉保健局長や財務局長を務めた後、副知事を5年務めました。その経験が役立つならと引き受けました。都立病院の経営に関わるポストの為、医師が適任だと思われる方もいるでしょうが、当機構は約1万5000人を擁する大きな組織で、地域医療にも関わり各区市町村の状況等も踏まえなければならない。そうした点では行政経験が有った方が良いと思います。経営陣には医師もいますから、行政と医療のエキスパートが一緒に経営をしているというのが現状です。

——独立行政法人化の背景や目的は何ですか。

安藤 都立病院を都が直接経営していると、地方自治法や地方公務員法の制約を受ける事が有ります。医師の働き方改革への対応等、多様な働き方が求められる中で、社会の変化に対応し、機動的、効率的な病院運営の在り方について議論を重ねた結果、地方独立行政法人が相応しいという結論に達しました。小池都知事は、都議会で「現在の制度を改革し、人、物、予算の面から柔軟な病院運営を可能とする取り組みであり、それによって医療提供体制を一層強化する」と独法化の目的を説明しましたが、その言葉に意義は集約されていると思います。

——その柔軟性をどの様に活用していますか。

安藤 人材確保の面では、病院で新たな人事給与制度を構築して、これ迄より柔軟で機動的な人材確保が可能になりました。例えば、都庁が医師や看護師の採用をすると、どうしても予算や職員定数管理の方針の制約を受ける。正に私は都の人事部や財務局で職員定数や予算の管理を行っていた訳ですが、病院は予算や職員定数の縛りを外さなくてはならない事が有ります。そこで、中核となる人材や職種の採用は病院独自で行える様にしました。、都庁の管理下では、年末に人事当局等の査定を受け、翌年度の採用計画を認めて貰わなければならない為、実際に採用に至る迄1年以上のタイムラグが生じていました。しかし、機構になり自分達で採用を行えれば、年度途中でも必要な専門人材を採用出来ます。実際、機構でも救急救命士や造血細胞移植コーディネーター等の専門職を確保しました。

——財政面ではどうでしょう。

安藤 調達制度も変わりました。役所と違い、入札等の契約手続きが柔軟に対応出来る様になりました。医薬品等を本部一括で共同購入すればスケールメリットが出ます。又、一般的な取引価格を調べて価格交渉する事も出来ます。役所は交渉が出来ないので、これにより大きな削減効果も期待出来ます。

統合のスケールメリットを生かす

——病院の運営は変わりましたか?

安藤 機構の発足は、これ迄高度専門的医療を担って来た旧都立病院と地域医療を強みとして来た旧公社病院という文化の異なる2つの医療グループの合併を伴う、都政でも類を見ないプロジェクトでした。相応の生みの苦しみが有るのも正直なところですが、それを上回るスケールメリットを実感しています。例えば、14病院1施設という、大きくて多様な機能を持つフィールドに、約1万5000人の多彩な人材を集約する事になりました。働く人達の側から見れば、色々な患者や症例を見る事で、成長する機会が広がったとも言えますから、こうしたメリットも生かして行きたいと思っています。新型コロナへの対応が続いた時期には、病院間で看護師が応援に赴くという対応が取れましたが、これも大きなグループだからこそ出来た専門人材の効果的な活用の一例です。もう1つ、規模の話をすれば、外部から見た時の存在感が増しました。国立大学病院長会議で行っている診療材料の共同調達に2023年から加えて頂く事が出来、これも新たな経費削減効果に繋がっています。更に、地域医療機能推進機構(JCHO)とも意見交換出来る関係であり、経営に関する情報等を教えて頂いています。日本赤十字社でも、東京都支部とはこれ迄も繋がりが有ったのですが、本社とも医療経営や患者動向の変化といった共通の課題で情報交換が出来る様になりました。

——大学病院も多い東京に於ける都立病院の強みは。

安藤 都立病院は、23区内から多摩地区迄、都内各所に15カ所の拠点が在り、島しょ部とも、第5世代移動通信(5G)等の最新の技術を用いて連携しています。地域と患者にとって実に身近な存在として、行政的医療をはじめとする様々な医療を提供している事が、都民の大きな安心に繋がっています。これが我々の大きな強みであり、使命だと思っています。東京には、特定機能病院を含め数多くの大学病院が在り、患者はがん治療や難病治療等の高度医療を求めて全国からやって来ます。一方で、脳梗塞や心筋梗塞等の救急患者は地元で受け入れています。そう考えると、救急医療に加え、小児科、精神科、産婦人科等の専門医療を身近で提供出来て、医療機能毎に様々な連携を行う事が出来る都立病院は、重要な役割を果たしているのだと思います。


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