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未来の会

日本の医療の質の改善と向上にコミット
~臨床研修病院の第三者評価受審が「努力義務」へ~

日本の医療の質の改善と向上にコミット~臨床研修病院の第三者評価受審が「努力義務」へ~
福井 次矢(ふくい・つぐや)1951年高知県生まれ。76年京都大学医学部卒業。同年聖路加国際病院内科研修医。80年米コロンビア大学St. Luke's Hospital Center実験心臓病学リサーチフェロー。81年ハーバード大学ケンブリッジ病院内科クリニカルフェロー。84年同公衆衛生大学院卒業。帰国後は国立病院医療センター循環器科厚生技官。88年佐賀医科大学附属病院総合診療部助教授。92年同教授。94年京都大学医学部附属病院総合診療部教授。99年同大大学院医学研究科内科臨床疫学教授。2004年聖路加国際病院副院長。05年同院長。12年聖路加看護大学(現・聖路加国際大学)理事長。16年聖路加国際大学学長。21年東京医科大学茨城医療センター病院長。23年NPO法人卒後臨床研修評価機構理事長に就任。

2004年から始まった新医師臨床研修制度は、日本の医療界に大きな変革をもたらした。卒後臨床研修の必修化に伴い、臨床研修の質を評価する機関としてNPO法人卒後臨床研修評価機構(JCEP)が設立された。確立されたプログラムを基準として有能な医師を育成する事により、医療の質を高めようとする信念には揺るぎが無い。総合診療や診療ガイドラインの普及に努め、聖路加国際病院を一般病院初の特定機能病院に押し上げる等の実績を経て、昨年10月にJCEP理事長に就任した福井次矢氏に思いを尋ねた。


—先生は新医師臨床研修制度の確立に於いて、多大な貢献をされて来ました。

福井 臨床研修を義務化する会議に参加させて頂き、当初の研修プログラムの作成、特に到達目標の作成に深く関わりました。その事も有り、臨床研修制度には強い思い入れが有ります。京都大学に在籍していた頃、国立大学医学部附属病院長会議の下に設置された検討部会の会長として、到達目標や7診療科ローテーションを組み入れた研修プログラムを作りました。その時に考案したプログラムがそのまま採用され、04年から実施されました。必修化以降も、厚生労働省の到達目標とその評価の在り方に関する研究班の代表として調査を続け、我々の提言に基づいて20年の大規模な見直しが行われました。必修化以前と比べると、2年間の研修修了時の医師の臨床能力は明らかに向上しています。

——卒後臨床研修が導入されて以降、大学の医局に大きな変化が生じました。

福井 以前は医学部卒業生の8割が大学病院に残っていましたが、必修化以降は半分以上の研修医が大学以外の病院で研修を受ける様になりました。必修化直後は、大学病院での入局が2年遅れた為、マネジメントが大変だったと思います。現在、研修を終えると8割近くの医師が大学医局に入っている様ですので、その点では以前と大きく変わっていません。やはり、医局に属して大学の関連病院に出向したり、学位を取ったりという医師が多い状況です。

臨床研修を評価する国内唯一の機関

——JCEPの前身である「新医師臨床研修評価に関する研究会」が05年に発足した経緯と目的は?

福井 研修医が受ける臨床研修の質を高める事により国民が受ける医療の質を高めようというのが設立の趣旨です。卒後臨床研修の質を担保する為には、臨床研修病院で行われる研修の内容や構成等を外部の目で評価する必要が有ると考えられた故・髙久史麿先生や故・岩﨑榮先生が中心となり、それに賛同した先生方が発起人という形で研究会が立ち上がりました。

——大学関係者からは批判的な声も聞かれました。

福井 大学側からの反対の声は必修化の議論を始めるべきかどうかが話題になった頃から上がっていました。必修化する方向性がほぼ定まった1997年頃から様々な委員会が立ち上がり、臨床研修の質をどの様にして担保するのかについても話し合いが行われました。既に米国では81年に卒後医学教育認定評議会(ACGME)が設立されていましたので、日本でも何らかの形で第三者が評価を行うべきだという意見は有りました。最終的に賛同された先生方の半分以上は研修病院でリーダーシップを執られている病院長や理事長等でしたが、大学の先生方も沢山おられました。

——先生も設立時のメンバーの1人です。

福井 実は私が米国留学中にハーバード大学の関連病院であるケンブリッジ病院でクリニカルフェローとして勤務していた時期は、ACGMEが設立された直後でした。当時の上司で私の恩師の強い勧めで、ケンブリッジ病院がACGMEの外部評価を受ける場面に立ち合い、サーベイヤーの調査に丸一日付いて回る機会が有りました。サーベイヤーは病院スタッフや指導医だけでなく、レジデントからも研修状況等の詳細な聴取を行い、徹底した調査を行っている印象を受けました。今から思えば大変貴重な経験でした。

——JCEPの事業内容についてお教え下さい。

福井 当機構は臨床研修病院の研修プログラムに関する基準の策定・公表及び評価事業を軸として、これに関わる人材育成事業、研究開発事業、情報収集及び情報提供事業等を行っています。病院機能を評価する機関にはJCIや日本医療機能評価機構が在りますが、臨床研修病院の臨床研修を評価する第三者機関は、国内では当機構しか在りません。

第三者評価の受審を「努力義務」へ引き上げ

——この20年程で研修病院が大分増えました。

福井 現在、国内の臨床研修病院は約1030施設になりました。但し、この中でJCEPの研修プログラムの評価を受けている施設は未だ301施設しか在りません。如何に増やして行けるかについては岩﨑先生とも最後まで議論を交わしていました。増えていない理由は明確で、現時点では第三者評価を受ける事が義務化されていない為です。厚労省は評価を受ける事を「強く推奨」するという立場を明言して来ましたが、この3月に纏められた医道審議会医師分科会医師臨床研修部会の報告書では第三者評価を「努力義務」とするとされました。これは我々の20年弱の活動を通して、第三者評価の意義がより強く認識された結果だと考えています。1ランク扱いが上がる事で、これ迄の2倍、3倍のペースで新規受審病院が増える事を期待しています。

——臨床研修病院の評価・判定方法を教えて下さい。

福井 書面調査と訪問調査から成ります。書面調査では予め定められた評価基準に対して自己評価して頂き、到達目標が達成可能な研修プログラムになっているかを評価します。訪問調査ではサーベイヤーが現地に赴き、評価基準の項目に基づき、研修プログラム通りに臨床研修が実践されているかを評価します。評価基準は厚生労働省の臨床研修省令と医師臨床研修指導ガイドラインを踏襲し、これらにJCEP独自の項目を幾つか加えています。各項目について、「適切」「要検討」「要改善」の3段階で評価し、基本的には「要改善」が20%未満であれば認定証を発行して来ています。

——サーベイヤーは医師で構成するのですか?

福井 医師は必ず入りますが、看護師資格を有する人や事務職、理学療法士等、様々なバックグラウンドを有する方々にお願いしています。1つの機関を3名のサーベイヤーが訪問します。メンバーの組み合わせは毎回異なり、当日初めて顔を合わせる事も少なくありません。

——サーベイヤーの登録数は十分ですか?

福井 当機構は人材育成にも力を入れており、毎年サーベイヤーを養成する講習会を実施していて、現状は十分確保出来ています。毎年50人程度が受講され、現在約450名のサーベイヤーがおられます。


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