訪問介護の報酬引き下げの代償は?
2024年4月の介護報酬改定で改定率は1・59%と引き上げられたが、訪問介護の基本報酬は約2%の引き下げとなり、一部で物議を醸している。引き下げの理由は、介護事業全体に対して訪問介護事業の収支差率が大幅に高かったからだというが、この事は、65歳以上の高齢者の割合が全人口の3割近くに迫る超高齢社会の我が国にどの様な影響を与えるのだろうか。
端的に訪問介護事業者の収益が減少すると、充分な訪問介護サービス提供が困難となり、家族の介護負担が増加し、在宅介護の崩壊を招く危険性がある。又、訪問介護事業者の収益が減少すれば、職員に適切な報酬が支払われず、介護サービスの質が低下する恐れも否めない。処遇改善が困難となり、更なる人手不足や労働環境の悪化にも繋がり兼ねない。
東京商工リサーチの調査によると、23年は全国で60件以上の訪問介護事業者が人手不足を含む原因で倒産し、00年以降過去最多であった。スタッフの平均年齢は54・4歳と高く、過疎化した地方等では60歳以上も珍しくない。又、22年には1年間で6万人以上が離職、有効求人倍率は15倍以上であり、どの事業者も人材不足に頭を抱えている。
この事は、厚生労働省が掲げる「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続ける事が出来る様、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」地域包括ケアシステム構築の目標と逆行しているとも言える。
家族の介護負担を減らす為の仕組みの筈が、厚労省の算盤の結果、家族の負担増加に繋がり、介護者の精神的・身体的ストレスも大きくなるという本末転倒すら起き兼ねない。介護鬱を訴える在宅介護者は4人に1人という調査結果も報告されている事から、これらの課題を解決する為にも、訪問介護の重要性を十分に認識し、基本報酬を見直す事は必須とも言えるのではないか。
世界的流行の麻疹! 日本での感染増加の可能性
麻疹は、ワクチンを正しく接種すれば防ぐ事が出来る。しかし、世界的に予防接種率は低下し続けた結果、22年の麻疹患者数は21年比で18%増加し、死亡者数は43%増加する事態となった。23年には30万件以上報告され、主な流行地域は東南アジアや地中海東部、アフリカで、全体の約80%を占める。又、ヨーロッパでも患者は30倍以上と急増し、重症化や死亡例も報告されている。
22年の世界全体のワクチン第1期接種率は83%、第2期は74%であり、「12カ月以上伝播を継続した麻疹ウイルスが存在しない」とされる「麻疹排除状態」の維持に必要な95%を大きく下回った。特に低所得国では、第1期接種率は19年から21年に掛けて71%から67%へ低下し、22年には66%と毎年低下し続けている。日本は15年以来麻疹の排除状態にあり、検出されるウイルスも海外由来型のみとはなっているが、新型コロナウイルスによる渡航の解除以降は、海外からの輸入例と、輸入例からの感染事例が再燃している為、各都道府県や国では注意を呼び掛けている。
ワクチン接種率の低下も懸念される。これ迄、第1期接種率は95%以上であったが、21年度は93・5%へ低下。22年度には95・4%へと上昇したが、95%に達していない地域も多い。又、第2期接種率は95%未満であり、90%を下回る地域も複数認められた。この事から、今後日本でも麻疹が流行する可能性は否定出来ないのだ。
麻疹は空気感染する為、ここ数年で根付いた感染症の一般的な予防法である手洗い、マスクでは予防する事が出来ない。仮に空気感染源を捕集するN95マスクを使用したとしても、装着に慣れていない一般の人が、医療従事者の様に長時間使用する事は現実的ではない。
訪日外国人が引きも切らない現在、今後もこの排除状態を維持するにはワクチンの接種率を高める事が必要だが、パンデミックが喉元を過ぎた日本人がその意識を持つ事が出来るかどうか。
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