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第187回 政界サーチ 岸田内閣支持率上昇の何故?

第187回 政界サーチ 岸田内閣支持率上昇の何故?
馬淵澄夫・元国土交通相のX(旧Twitter)より

政局を占う決戦と位置付けられた衆院3補選は自民党全敗、立憲民主党完勝の結果に終わり、岸田文雄・首相は深手を負った筈だったが……。どうも再起不能の深手ではなく、回復可能な痛手で済んだ様だ。党内は「岸田首相ではもう選挙は戦えない」と、不満たらたらな様子なのだが、〝岸田降ろし〟を顕在化させる程のエネルギーは無い。文句は山程有るが、決戦の場は秋の総裁選と見定めて我慢しているのである。

 一方の立憲民主党はどうかというと、指導力が無いと批判されて来た泉健太・代表の「早期交代論」は消えたが、高揚感は感じられず、何だかパッとしない。与野党共に不満のガスは溜まっているが、肝心の点火剤が無く、爆発は出来ない状態の様だ。

補選全敗でも岸田降ろし無し

 だらだら政局と見て取った岸田首相周辺では、補選直後に消滅した筈の〝国会会期末解散論〟が息を吹き返している。政治資金規正法の改正を巡る与野党のもつれと、「政治とカネに対する国民の厳しい視線」をエネルギーに転換し、一気に衆院選に持ち込もうというのである。勿論、自民党内での反対論は根強いのだが、〝自民党総スカン〟の現状で、岸田首相に異を唱えれば寧ろ自身が危うくなるかも知れないとの保身から、有力者らは目立った動きを控えている。

 自民党幹部が語る。

 「党の現状は物言えば唇寒しだな。一部のメディアで岸田内閣の支持率が上昇した事もあって、中々、首相方針に文句は言いにくい感じなんだな。衆院解散・総選挙は立憲など野党も『受けて立つ』という構えだしね」

 この幹部は6月解散の可能性は30%程度と値踏みして、付け加えた。

 「立憲がおかしな事を始めたでしょ。田中角栄・元首相の勉強会。色々と政治的思惑は有るんだろうけど、どうなんだろうね。政治とカネの問題を追及する立場の立憲が、政治とカネの権化とされる田中元首相というのは。泉代表体制のグラつきを感じるね。衆院選本番となれば野党は存外弱いのかも知れない」

 永田町界隈が首を傾げる立憲の勉強会は正式名称を「田中角栄研究会」という。田中元首相は在任中、「コンピュータ付きブルドーザー」等と称された辣腕の政治家だ。吉田茂・元首相に始まる戦後自民党政治の保守本流に位置付けられ、リベラル志向の立憲とは色合いが大分異なる。

 研究会の発足は昨年12月で、初会合には原口一博・元総務相や江田憲司・元代表代行ら20人程が参加した。発起人は馬淵澄夫・元国土交通相である。2003年に初当選して以来、田中元首相の国会議事録を読み込む等、熱心な「角栄ファン」なのだという。研究会の大義名分は「没後30年」の節目に改めて田中元首相の業績を見直し、政治運営の参考にする事だ。

 田中元首相は雪国・新潟出身である。高度成長で潤う太平洋側の諸地域に比べ、立ち遅れた日本海側エリアに政治の光を当て、「国土の均衡ある発展」を目指した。数億円は当たり前という高級マンションが林立する東京圏ばかりが際立つ現状を考えれば、学ぶべき点は確かに有るのかも知れない。

 田中元首相は政権を握る前の若手時代から政策遂行に議員立法を多用した事でも知られる。政府提案ではなく、議員立法で難題に対処して行く、つまり、国会主導型の政治運営は野党勢には大いに参考になるのだろう。

 思い出すのは1990年代の政権交代の時代だ。小沢一郎・衆院議員らが非自民連立政権を樹立した際、小沢氏の右腕とされた平野貞夫・参院議員(当時)らはしきりに田中元首相の再評価を訴えていた。当時、田中元首相をどう評価するかは、戦後政治を捉える上での1つの分水嶺だった。ロッキード事件等「政治とカネ」の問題が絡み、資本主義国家の保守政治の有り様が問われたのだ。

 自民党の派閥の裏金が問題になっている現在との巡り合わせを考えれば、面白い趣向ではあるのだが、自民党幹部らが関心を持っているのは研究会の政局面である。

立憲、角栄研究会の不思議

自民党幹部が語る。「当然なんだろうが、田中元首相の秘蔵っ子として育てられた小沢衆院議員が顧問に就任し、小沢系の立憲議員らも研究会に参加している。次期代表選びや党内の勢力争いが背景に有るのは間違いないだろう。知り合いの立憲の中堅は〝生臭い〟と言ってたしね。何れにしても、立憲も泉代表で安泰という訳ではなさそうだね。選挙前にガタついてくれれば面白いけどな」

 そう言う自民党では、二重外交紛いの珍事が話題をさらった。麻生太郎・副総裁が4月下旬の訪米の際にトランプ・前大統領を訪ね、トランプタワーで会談したのである。自民党ナンバー2の副総裁が大統領選の候補者と会談しても何ら不思議は無いが、バイデン・大統領が国賓待遇で岸田首相をもてなしてから2週間しか経ていない時期で、タイミングが悪かった。

 バイデン大統領とトランプ前大統領は不倶戴天の敵同士である。「ほぼトラ」の米大統領選・前情勢を踏まえ、麻生副総裁がトランプ前大統領から「シンゾー」と親しまれた安倍晋三・元首相の代役とばかりにパイプ作りに動く事自体は米国政府も大目に見ようが、今回はあからさまな「二股外交」と思われても仕方の無いタイミングである。日本の外交筋からも「品位が感じられない。〝もしトラ〟じゃなかったら、修復するのに要らぬ手間暇が掛かる。ただでさえ、懸案事項が沢山有るのに」と苦情の声が漏れた。

 当の麻生副総裁はというと、日米関係の「揺るがぬ重要性」を確認し、中国や北朝鮮の動きが問題になっているアジア情勢や円安ドル高の為替状況など経済政策も含めて1時間ほど通訳無しの英語で協議し、今後も密接な意思疎通を図る事で合意したのだという。

 麻生副総裁は83歳、トランプ前大統領は77歳。高齢者にしか分からない機微が有るのかも知れないが、自民党内には「高齢対決となる米大統領選に触発され、自分も再度の首相就任を目指すつもりじゃないか」等の穿った見方も出ている。

 岸田内閣にも「エッ!」という珍事が発生した。JNN(TBS系)の世論調査で、内閣支持率が7カ月振りに急上昇したのだ。調査は岸田首相が外遊中の5月4、5日に行われた。それによると、支持率は前回から7ポイント上昇し、29・8%で、実に7カ月振りの反発だった。不支持率も前回から7・1ポイント下がり、67・9%となった。長期低迷株の予想外の反発に自民党内では「そんな筈は無いだろ」「嘘だろ、何で」と失礼千万な声が相次いだ。理由ははっきりしないが、政党支持率を見ると、自民党は1・6ポイント下落の23・4%、立憲は4・1ポイント上昇の10・2%になっている。「自民党にお灸を据える為、政治改革での岸田首相のリーダーシップを期待していると見るのが妥当なんだろうな」というのが、与党幹部らの共通認識だという。

 フランス、ブラジル、パラグアイを巡る「地球1周」の外遊から帰国した岸田首相は直ぐ様、首相公邸で党政治刷新本部関係者を呼び付け、政治資金規正法改正の与党案取りまとめに向け、公明党との協議を加速するよう指示を飛ばした。支持率回復はアクシデントかも知れないが、政治改革の成否を握るのは自民党の変革であり、それが出来るのは総裁たる岸田首相しかいない。民意はそこを鋭く読み取っているのだろう。流れは岸田首相に傾きつつあるのかも知れない。何時の時代も世論が政治を動かす。

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