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未来の会

744の自治体が「消滅の可能性」

744の自治体が「消滅の可能性」
人口減対策必須も政府の動きは鈍

全国の消滅可能性自治体を列挙した「増田リポート」の第2弾が4月24日公表された。896自治体が該当すると試算した前回から減り744自治体となった。朝日や毎日、読売など全国紙の1面トップを飾ったが、インパクトは前回程ではない。何故なのだろうか。

 先ずはリポートの詳細を紹介しよう。リポート作成の中心となったのは、前回に引き続き増田寛也・元総務相だ。だが、発表主体が異なる。前回は増田氏が座長を務めた日本創成会議だったが、三村明夫・日本製鉄名誉会長が議長の人口戦略会議に変わった。

 只、試算の根拠となる推計はほぼ変わっていない。2020〜50年の30年で、子供を産む中心世代となる20〜30代の女性の人口が50%以上減少する自治体を、将来的に人口減少が深刻化し、消滅の可能性が有る「消滅可能性自治体」と定義した。

 少子高齢化による人口減少が進んでいるのに消滅可能性自治体が減ったのは、23年12月に公表された国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計を基にしているからだ。この推計は在留資格の緩和等により、日本に住む外国人が23年末時点の341万人から70年には939万人に増え、人口の1割を占めるとしている。在留外国人の増加に伴い、出産適齢期の若い女性も増えるという理屈だ。

 今回の特徴は、20〜30代の女性の出生、死亡だけでなく移住の増減を加味して自治体を9分類した事だ。先ず、消滅可能性自治体は3つに分けた。

 ①出生や死亡の減少率よりも移住による減少が著しい、②①よりも出生や死亡の減少率が高く、移住による減少も著しい、③どちらも同様に著しい——とした。

 消滅可能性自治体の中でも①とされたのは、北海道泊村や青森県東通村、岩手県平泉町、福島県矢祭町、東京都檜原村、石川県珠洲市、奈良県十津川村、和歌山県那智勝浦町、島根県津和野町、山口県上関町、愛媛県伊方町、佐賀県玄海町、長崎県壱岐市、鹿児島県西之表市等176自治体だ。

 ②は北海道函館市・釧路市、青森県青森市・弘前市・六ケ所村、岩手県陸前高田市、宮城県石巻市、秋田県能代市、福島県会津若松市、茨城県日立市、栃木県日光市、埼玉県秩父市、千葉県勝浦市、新潟県小千谷市、石川県輪島市、静岡県下田市、三重県尾鷲市、大阪府門真市、奈良県大和高田市、和歌山県御坊市、広島県安芸高田市、愛媛県宇和島市、鹿児島県枕崎市等545自治体。

 ③は群馬県南牧村、神奈川県箱根町、静岡県熱海市、奈良県吉野町等23自治体が分類された。前回のリポートで消滅可能性自治体とされながらも今回脱却したのは239自治体。新たに該当したのは99自治体に上った。人口戦略会議では必要な対策についても示しており、①は社会減対策が極めて必要とし、②は自然減対策が必要と社会減対策が極めて必要、③は両方の対策が極めて必要と記した。

  今回、増田氏が特に意識したのが、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)への人口流入問題だ。地方の人口を奪う一方で、流入先の首都圏では出生率が上がらないジレンマを抱える。地方の若者を受け入れ、出生率が低い自治体を「ブラックホール型自治体」と名付け、25自治体が該当した。

25の「ブラックホール型自治体」

 その殆どが東京の特別区で、新宿区▽文京区▽台東区▽墨田区▽品川区▽目黒区▽大田区▽世田谷区▽渋谷区▽中野区▽杉並区▽豊島区▽北区▽荒川区▽板橋区▽練馬区が該当した。大阪市や京都市の他、埼玉県蕨市、千葉県浦安市等も入った。ブラックホール型自治体は2分類されたが、何れも自然減対策が極めて必要と指摘された。

 一方で、100年後も若い女性が5割近く残る65自治体を「自立持続可能性自治体」と新たに定義した。宮城県大衡村や茨城県つくばみらい市、埼玉県滑川町、千葉県流山市・印西市、東京都八丈町、神奈川県葉山町、山梨県忍野村、岐阜県美濃加茂市。愛知県大府市、京都府木津川市、大阪府島本町、奈良県葛城市、広島県府中町、福岡県太宰府市、熊本県菊陽町、沖縄県宜野湾市・浦添市・竹富町等だった。特に対策の必要性は示さなかった。

 このリポートでは「(前回の公表後は)若年人口を近隣自治体間で奪い合うかのような状況も見られる。こうしたゼロサムゲームのような取り組みは、(中略)日本全体の人口減少の基調を変えていく効果は乏しい」と指摘し、公表スタイルを変更した意図を明かした。

 今回の人口戦略会議の指摘は新しいものではない。東京への一極集中問題はかねてから指摘されていた。統計からもそれは明らかだ。

 例えば、住民基本台帳に基づく23年の人口移動報告では、首都圏への転入者は転出者を約12万人上回る「転入超過」。一方で、東京の22年の合計特殊出生率は1・04と全国最下位だ。首都圏には、進学や就職を機に若者が集まり、所謂「社会増」がもたらされている一方で、非婚化や晩婚化等の影響で出生数は少なく、自然減が続く状況だ。増田氏はこうした状況を「ブラックホール」と表現した。

前回よりインパクトは弱い

只、前回は「消滅可能性都市」というショッキングなフレーズで多くの注目を集めたが、今回はそれ程でもない。当時の安倍晋三政権が「地方創生」を政権の重要課題として掲げた前回だが、今回は「政府で何か動き出すとは聞いていない」(政府関係者)と寂しい状況だ。

 人口戦略会議は1月に、2100年に人口を8000万人で安定化させる事を目標とする「人口ビジョン2100」を公表している。内閣に司令塔となる「人口戦略推進本部(仮称)」を設置するよう求めているが、動きは乏しい。

 こども家庭庁が支援金制度を創設し少子化対策に乗り出していたり、デジタル行財政改革会議が地方への振興策を検討していたりする等、既に政府が手を打っているという状況もある。只、前回は元厚生労働官僚の山崎史郎氏らが政権中枢まで根回し出来たが、今回はそれが叶わなかった事が大きいだろう。

 人口戦略会議側もやや弱腰な面も見受けられる。前回の公表後、農村を研究する有識者らから「地方のやる気を削いだ上に、実態を見ていない推計だ」との批判を浴びた。今回は消滅可能性自治体の数そのものが減った事に加え、前回、消滅可能性都市と表現していた名称が、都市部だけの課題と誤解を招き兼ねないと自治体側からの反発に配慮し、今回は消滅可能性自治体という名称に変更した。多少の配慮をしたものの、全国町村会は早速、「全国の自治体は人口減少への対応や独自の地域作りに懸命に取り組んでいて、これ迄の努力や取り組みに水を差すものだ」と批判するコメントを発表している。

 とは言え、人口減少に対する取り組みは待ったなしだ。目新しくはないが、人口戦略会議も課題に対する施策の提言を行っている。それによれば、ポイントは幾つか有る。その1つが、若者世代の所得の向上だ。経済的な理由から結婚を諦める人がいる事から、非正規雇用の正規化やフリーターに対する労働法制上の保護、中小企業での賃上げ等を重要課題として挙げる。更に、共働き世帯の子育て環境の充実も必要とする。育休や産休した人のキャリア形成やサポート体制の拡充、長時間労働の是正等も大事だ。男女共に性や妊娠に関する正しい知識の普及や、多様な生き方の選択の保障等もポイントに挙げている。しかし、この様な話は、20年前に議論すべきで、何時の時代も人口減には真剣に取り組めない。これでは子や孫世帯は、たまったものではない。

 

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