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未来の会

財務省が医師偏在対策で地域別報酬を提案

財務省が医師偏在対策で地域別報酬を提案
医師会は「受け入れられない」と猛反発
人口分布が著しく偏在する日本(2020年国勢調査人口速報集計結果より)

都市部に集中する医師の偏在解消を目指す政府の議論が本格化して来た。財務省は4月、診療所の開業規制と地域別に診療報酬を決める事が出来る制度の導入をぶち上げた。厚生労働省は特別の検討チームを発足させ、年末迄に具体策をまとめる意向だ。これ迄規制的な手法には慎重だった同省も、トップの武見敬三・厚労相の考えに沿って方針転換を模索している。

 只、日本医師会は過敏に反応し、反発を強めている。規制で医師の管理を強める政策に対する厚労省内の空気も一様でなく、落着先は見通せない。

 機先を制したのは、武見厚労相だった。4月7日、NHKの討論番組に出演した武見氏は医師の偏在対策を問われ、「規制によって管理する事をやらなければならない段階に入って来た」と指摘し、「地域に於いて医師の数の割り当て(する事も)、本気で考えなきゃならない」と踏み込んだ。

 厚労省によると、人口10万人当たりの診療所数は東京23区が112カ所、政令市が84カ所なのに対し、他の地域は68カ所に止まる。東京23区と、政令市を除く他地域の格差は1・6倍を超えている。東京都内でも、例えば「区中央部」と「西多摩」の間では6倍近い差がある。背景には人口が多く高収入が見込める都市部での開業に多くの医師が傾き、その分過疎地での医師不足を招いている事情が有る。

 こうした現状に具体案を示したのが財務省だ。4月16日の財政制度等審議会の分科会を舞台に、社会保障制度改革等と並んで「医師数の適正化・偏在対策の推進」策を打ち出した。その概要は▽医学部入院定員適正化の速やかな実施▽病院勤務医から開業医へのシフトを促さない診療報酬体系▽診療所偏在是正の為の「地域別1点単価」導入▽医師過剰地域に於ける新規開業規制の導入——だ。

政府と医師会の邂逅生む「地域別1点単価」

 中でも「地域別1点単価」は日医をピリピリさせるに十分な内容だった。医療サービスに支払われる診療報酬は原則として全国一律、1点10円が基本となっている。「誰もがどこでも、一定の自己負担で適切な診療を受けられる」基本理念を裏付ける現行制度の根本でもある。

 これに対し、財務省の提案は医師の多い都市部の点数単価を9円等に引き下げるというものだ。診療報酬を下げると収入減を嫌う医師は都市部を離れ、結果的に地方への分散を促して偏在を防ぐ事が出来る、としている。

 当面は都市部での引き下げを先行し、不要になった分の財源を医師不足対策に充てるという。それでもゆくゆくは医師不足の地域の診療報酬を11点にする等単価を引き上げ、医師を当該地域に引き寄せる事を想定している。

 財務省の提案とあって、当然医療費抑制を意識したものでもある。本丸に手を突っ込まれた格好の日医の反発は強く、松本吉郎・会長は4月17日の記者会見で、「極めて筋の悪い提案だ。断じて受け入れられない」と強硬に反対した。又、武見氏が口にした、地域別に医師数を割り当てる管理手法に対しても「人口減少とか偏在の問題を、医療の枠の中だけで解決するのはなかなか難しい」と述べ、「いきなり強制的な力を働かせる事には慎重になるべきだ」と反論した。

 地域での医師不足は2004年に始まった新臨床研修制度に端を発する。新制度になり医学部の学生は大学卒業後、それ迄の出身大学病院の医局だけでなく、他の病院でも研修出来る様になった。その結果、キャリア形成を目指して情報が多く勤務条件も良い都市部の医局を選ぶ研修医が増えた。皺寄せを受けた地方の大学病院は地域の医療機関に派遣していた若手医師を呼び戻し、各地域での医師不足が顕在化した経緯が有る。

 地方の医師不足、産科、外科など一部特定診療科の医師不足によって急患が医療機関に受け入れて貰えず、たらい回しにされる事態も続発した。死亡事故も発生し、これに懲りた厚労省は「医師の絶対数は足りている」という従来の見解を覆して医学部の定員を増やし、22年の医師数は34・3万人とこの10年で約4万人増えた。又、同省は医学部の定員に地域枠を設けたり、医師の研修制度で都道府県毎に人数を割り当てたりする対策も取って来た。地域医療支援病院の院長になる要件として、「医師少数の地域での勤務」を求める事もしている。

 しかし劇的な効果は無く、16年から20年の間には却って医師の地域偏在が進んだ。武見厚労相は4月15日の衆院決算行政監視委員会で「単に医師の増員によって医師不足が解消出来るかといったらそうではなかった」と振り返り、改めて「規制を含めて、前例に囚われない方法で問題を解決する政治的リーダーシップが必要」と強調した。

 武見氏は省内にタスクフォース(特別チーム)を作る様指示し、大枠の偏在是正策を6月にも閣議決定する政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込んだ上で、年末迄に具体化する考えを表明した。これとは別に同省は3月、地域医療の将来像や医師の偏在是正策を議論する検討会も既に設けている。

  それでも人口に応じて医師数を割り当てるというのは容易ではない。職業選択や居住地の自由は憲法で保障されており、日医は「開業の自由」を掲げて反対する構えだ。

強制的な規制に厚労省内も賛否

厚労省内も賛否が分かれる。或る幹部は、独仏では地域毎や診療科毎に定員を設けていると指摘し、「自由診療でない限り、保険料と税金で生計を立てているのが医師だ。公共の福祉の為ある程度の規制は飲んで貰って然るべきではないか」と言う。が、一方で「大臣の発言は寝耳に水」「実現可能性が極めて低い」といった声も相次ぐ。規制的な手法の導入には省内に根強い慎重論が有り、武見氏の意向がそのまま成案に至るとは限らない。人口減と医学部定員増の影響で医師数は29年頃から「過剰」に転じるとされている。厚労省も定員を減らして行く方向性は確認している。しかし、偏在が解消されていない中で財務省の言う「速やかな医学部入学定員の減員」は難しい、との指摘は少なくない。

 財務省が掲げた「地域別1点単価」の導入に対しても、そもそもの効果に疑問が投げ掛けられている。地方の単価を上げると医師がそちらに向かうというのが財務省の見立てだが、或る厚労省幹部は「患者の自己負担割合がもっと低かった時代なら通用するかも知れないが、今となっては中々難しい」と言う。

 医療保険財政の逼迫が進み、現役世代や一定以上の所得が有る高齢者は医療費の3割を自己負担する様になった。つまり単価を上げると医師の収入は増えるが、同時に患者の負担もアップする様になった。そうなると単価の低い都市部に患者がシフトし、医師も患者の動向を無視出来なくなる、という訳だ。現に、過去には大病院への患者集中を避けるべく病院の報酬を下げた結果、逆に「病院の方が自己負担は軽い」との認識が広まり、逆に診療所から病院に患者が流れる想定外の事態も生じた。

 今年度は医師の働き方改革の新制度がスタートした。政府は働き方改革と合わせ、「医師の偏在対策」と、地域に応じた医療提供体制を再構築する「地域医療構想」を「三位一体の改革」として進めて来た。だが、医師の偏在の是正はこれからだ。厚労省が3月に公表した、働き方改革の影響を調べる医療機関を対象とした調査では、回答した7326施設の内、457施設は診療体制が縮小するとし、132施設は地域の医療提供体制に影響すると答えた。偏在是正を置き去りにした働き方改革の先行により、地域医療は存続の危機に揺れている。

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