医療系大学、防災人材育成に乗り出す
今年元日に列島を揺るがした能登半島地震。長引く避難生活は被災者のストレスとなり、持病の悪化や体調不良を招く原因にもなる。最悪の場合、「災害関連死」に至る事も有り、今一度危機感を持って防災力向上に努める必要が有る。
災害時にも適切な知識を持って動ける医療人材を求める声を受け、医者の卵を擁する医療系大学がこぞって防災人材育成に乗り出し始めた。藤田医科大学(愛知県豊明市)は2023年度から学生全員に防災士カリキュラムの受講を義務付け、既に2000人以上が受講した。無事合格し防災士となった学生らは2月、能登半島地震の被災地に於ける支援活動にも参加。防災士のスキルを生かし、在宅避難者の状況確認や住民の心身のケア等の支援を実施した。
弘前大学(青森県)も「医学×防災」の取り組みを前面に押し出す。防災士に加えて、大学独自資格 「弘前大学災害対応マネージャー」を立ち上げ、医学部学生を中心に取得を促している。24年度からは看護師を目指す学生向けに、複合災害に対応した実践的な知識を学ぶ新たな教育プログラムを開始する。地震や津波だけでなく、東日本大震災時の様な原発事故や新型コロナウイルスの様な感染症等、複数の災害が同時に起きた場合にも対応出来る人材を育成する。
NPO法人日本防災士機構の関係者は「全国的にも防災知識を持った医療人材の需要は高まっています」と指摘する。「避難所開設や復旧・復興等の一般的な災害ボランティアだけでなく、被災者のケアにも携わって貰う事で、避難生活で体調を崩す様な潜在的な患者の早期発見にも繋がります」。
実際に能登半島地震でも、日本医師会災害医療チーム(JMAT)が避難所で心不全患者を早期発見し、心肺機能停止を防いだ事例が多数報告された。日常と違う環境下では、危険な症状を判断し難い為、防災に詳しい医療人に期待が集まる。
但し、被災地に所在する医療機関の努力だけでは被災地医療を賄いきれない。能登半島地震では、看護師等の医療従事者の離職が相次いだ。被災地医療を支える全国的なネットワーク構築が求められる。
医師高齢化で診療所廃業ラッシュ迫る
医療機関の倒産が増加している。帝国データバンクが24年1月迄に実施した「『医療機関』倒産動向」によると、23年の医療機関の倒産は41件と高止まりを続けている。負債総額は253億7200万円と過去10年で最大だったが、その半額以上を1つの大病院が占めていた事は、倒産危機が医療機関の大小を問わない事を示している。そうした中、限られたスタッフで小規模に運営する診療所にとっては、負債を抱えた倒産よりも後継者不足の方が深刻だ。現に、厚生労働省の調査によると、診療所に従事する医師の平均年齢は60歳を超えるという。
政府は小規模医療機関の事業継承を推進している。「持分の定めのない医療法人」に移行すれば、財産権を持たない代わりに、事業継承時の相続税をゼロにする税制優遇措置や低金利の融資を受けられる。23年の税制改正により、移行計画の提出期限は26年12月末まで延長された。自治体や民間では、閉院を考える経営者と開業医を目指す医師を結ぶマッチングサービスも始まり、兵庫県では一部事業を外部に譲り渡す事で、後継者への負担を少なくして円滑な事業承継に繋がった事例も有る。スタッフには個別に面接を実施し、全体で約9割の人員を引き継いだ。
都内で個人クリニックを営む内科医は70歳の誕生日を迎えたのを機に、知り合い経由で後継者探しを始めた。都内は開業ニーズが高く、閉院するクリニックを引き継いでの開業を考える人も少なくないが、希望する条件や医療方針の擦り合わせが難しいと言う。信頼して通ってくれている患者を引き継ぐ事になる為、買い手との話し合いで感じる少しの違和感も見過ごせない。診療の合間にM&Aを進めているが、時間的にも体力的にも限界が有り、「もう少し早くから始めていれば」と後悔を語る。
事業承継は「何か」起こってからでは遅い。通い慣れた患者やスタッフを考えればこその行動が必要だ。
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