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児童手当の所得制限の撤廃への議論が本格化

児童手当の所得制限の撤廃への議論が本格化

茂木幹事長の発言は公明党や野党へのリップサービスなのか

今国会に「こどもに関する公的給付の所得制限の撤廃等に係る施策の推進に関する法律案」が提出されている。正確には今国会にも提出されたという表現が相応しい。この法案は今回の提出が5回目となる。政府は一貫して児童手当の所得制限については否定的な姿勢だったからである。

 その様な中で2023年通常国会の衆議院に於いて代表質問に立った自民党の茂木敏充・幹事長が「全ての子供の育ちを支える観点から所得制限を撤廃するべきだ」と発言し国会をどよめかした。茂木幹事長の念頭には岸田文雄・首相が掲げる「異次元の少子化対策」という方針が有った様だ。自民党幹部からは「議論が進んでいないのに勝手に方針を転換するのはおかしいのではないか」という声が上がった。岸田首相は「国会での議論も踏まえつつ、子ども・子育て政策の強化について、具体策の検討を進めて行く」と発言するに留まった。茂木幹事長の独断での発言ではないかという憶測を呼んだが、当の茂木幹事長は「勿論政府側と話しているが首相の明確な答えを聞いた訳ではない」と話した。茂木氏の発言は児童手当の所得制限の撤廃を主張する公明党への配慮であったのかも知れない。

民主党政権時に所得制限は無かった

 そもそも児童手当の所得制限については長い綱引きの歴史が有る。09年の政権交代で民主党が政権を担うと、所得制限の無いこども手当が創設された。野党になった自民党はその事を強く批判した。10年の参院選では、民主党が大敗した事で衆参両院に於いて多数派が異なるねじれ状態となった。政権運営に窮した菅直人政権は僅か2年で所得制限の有る児童手当に戻して現在に至っている。これ迄の経緯からすると自民党に児童手当の所得制限の撤廃を応じさせる事は容易ではない。

 政府は23年2月2日、児童手当について一部の高収入世帯には不支給としている所得制限を撤廃する方向で調整に入った事を当時の小倉將信・少子化・こども政策担当大臣が公明党に伝えた。3月24日には岸田政権が打ち出す「異次元の少子化対策」の中心に子供手当の拡充を据える事が報じられる。児童手当の対象年齢も15歳から18歳まで引き上げる方針を示した。

 自民党としては統一地方選挙での公約に掲げたかったというか、寧ろ、野党の批判材料にされたくなかったという事かも知れない。野党だけではなく公明党迄もが児童手当の所得制限には反対している。財源としては兆単位が必要と見込まれる。

 所得制限を撤廃し全員を本則給付とすると共に支給期間について高校生年代まで延長する。児童手当の多子加算については、子供3人以上の世帯数の割合が特に減少している事や、子供3人以上の世帯はより経済的支援の必要性が高いと考えられる事等を踏まえ、第3子以降月額3万円とする。これらについて、実施主体である地方自治体の事務負担も踏まえて24年若しくは25年に実施出来るよう検討する方針が示された。

 現在は主たる生計者の年収960万円以上、年収1200万円未満の場合は月額5000円の支給となり、年収1200万円以上の場合は支給対象外となっている。これらを改め、主たる生計者の年収に関係無く、第1子・第2子については0歳から3歳迄は月額1万5000円とし、3歳から高校生迄は月額1万円とする。又、第3子以降については0歳から高校生まで全て月額3万円とするとされている。

 この政策は政府が少子化対策の一環として発表した「こども未来戦略方針」の中で28年度迄に取り組む「加速化プラン」とされ年3・5兆円を投じる計画である。岸田首相は会見で「若年人口が急減する30年代に入る迄が少子化傾向を反転出来るかどうかのラストチャンス」と強調し24年10月から開始したい旨を明かしている。

 岸田政権の児童手当の所得制限の撤廃と支給年齢を18歳まで引き上げる方針については与党だけでなく、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組、日本共産党、社民党は満額回答を得た事から6党一致して賛成し支持を表明している。

 世論は概ね歓迎する気配であるが財源に関して不透明である事から批判的な意見も出始めている。現在の児童手当で既に2兆円の財源を要している。今回の政府案での試算は前述の通り3・5兆円になるという。経済同友会の新浪剛史・代表幹事は「児童手当の所得制限の撤廃を決めた事には大反対だ。7人に1人の子供が貧困化しているという状況を考えると、必要な所にもっと厚く対応し、貧困の連鎖が起きない様にすべきだ」と述べている。

 政府が目論む児童手当の所得制限の撤廃の意図は子育て支援ではなく少子化対策である。加速度的に進む少子化を食い止める事が出来れば1・5兆円の投資など安いものだ。

 1994年のエンゼルプランに始まり、これ迄数え切れない程の少子化対策に向けた施策を莫大な資金を投じて講じて来たものの期待した効果は得られていない。都市部に於ける高騰した保育園の賃借料への補助・大規模マンションでの保育園の設置促進・幼稚園に於ける2歳児の受け入れや預かり保育の推進・企業主導型保育事業の地域枠拡充等・家庭的保育の地域コンソーシアムの普及、小規模保育、病児保育等の多様な保育の受け皿の確保・保育補助者から保育士になる為の雇い上げ支援の拡充・保育士の子供の預かり支援の推進・保育士の業務負担軽減の為の支援 ・「保育コンシェルジュ」による保護者の為の出張相談等の支援拡大・地方単独保育施設の利用料支援・災害共済給付の企業主導型保育、認可外保育施設への対象拡大・保育実施に必要な安定財源の確保・男性による育児の促進……。

 これらはほんの一部である。挙げると枚挙に暇が無い。総合的な政策だけでも130以上有る。それでも功を奏しないのが少子化問題である。それは日本だけではない。先進国の多くが少子化問題を抱えている。

 厚労省が公表した2022年人口動態統計(確定数)によると、女性1人当たりの合計特殊出生率は日本が1・26、過去最低となった。21年の世銀統計データによると、韓国が0・81、イタリアが1・25、ドイツが1・58、アメリカが1・66、イギリスが1・56、中国が1・16、フランスが1・83であり、先進国を中心に各国も低下基調にある。諸外国ではイギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン等で児童手当(フランスは家族手当)が支給されているが所得制限は掛けられていない。支給対象はイギリスとスウェーデンは16歳未満、ドイツは18歳未満、フランスは20歳未満となっている。各国とも少子化に歯止めが掛からない中でフランスは保育の充実を図り、更に出産・子育てと就労に関して幅広い選択が出来る様な環境を整備した。併せてN分のN乗方式と呼ばれる家族構成に応じた課税制度を導入し出産数減少を食い止めている。比較的高い出生率を維持しているイギリスやアメリカといった国では、家族政策に不介入が基本と言われる。アメリカには児童手当も育児休暇や公的な保育サービスも無い。

本来、児童手当は児童の為に支給されるもの

童手当の所得制限については総論として撤廃すべきであろう。現在は世帯所得が960万円を境に制限が掛かるが累進課税によって手取りはそう多くない為、決して高所得とは言えない生活だというのが現実であろう。逆に非課税世帯、低所得世帯も実態にそぐわないケースも有る。何億も資産の有る富裕層だから敢えて働いてまで所得を得ようとしていないだけの世帯も無いとは言えない。大量の貯金を持った世帯が少しずつ貯金を切り崩して生活しているだけで実態としては低所得世帯とは言えないというケースも考えられる。

 そもそも児童手当は児童の為に支給されるものである。法案に記されている「こどもに関する公的給付が本来はこども本人に支給されるべきものであるとの観点に立って、こどもの家庭の所得の状況その他の経済的な状況によってその支給が制限されないようにすること」という理念は本質を捉えた正論であると思料するが如何であろうか。

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