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未来の会

最高値更新の株式市場で出遅れる医療関連株

最高値更新の株式市場で出遅れる医療関連株

経済正常化の流れ波及し将来の悲観は不要

日経平均がバブル時に記録した最高値を34年振りに更新すると共に、初の4万円超えの大台乗せを果たす等、株式市場は活況を呈している。一方、植田和男・日銀総裁が衆議院予算委員会で日本経済に関して「インフレ状態にある」と証言した他、物価上昇に後押しされる形で春闘では大企業を中心に給与アップが鮮明になっており、日本経済は失われた30年から好循環を取り戻す動きになって来た。そうした中、医療分野を産業として捉えた場合、この好循環の波に果たして乗っているのであろうか。活況を呈している株式市場との対比で、医療ビジ↘ネスの将来はどうなって行くのかを探ってみた。

医療業界関連株の値動きの特徴

最初に断っておくが、医療分野の中心的な存在である病院や診療所は、医療法第7条7項に於いて、株式会社による運営が禁じられている。医療は公益性が高い為、上場企業は言うに及ばず、商法に定められた株式会社で運営する医療機関は原則として存在出来ない。医療機関の運営は法律上で非営利組織によるものと定められているのである。

しかしながら、医療分野を産業としてみると、↘医薬品も含めて巨大な市場規模となっているのも事実である。法律によって直接的な医療機関の上場企業は無いものの、創薬から卸売迄の医薬品の製造・販売の他、医療機器、医療サプライ用品、治験など多数のジャンルで関連する企業が株式を公開しており、株式市場に於いて関連する銘柄が存在感を大きくする場面も決して少なくない。

例えば最近では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で日本経済全体が混乱した際に、抗インフルエンザ剤「アビガン」を新型コロナ治療へ転用する治験を行った富士フイルム富山化学を系列に持つ↖富士フイルムホールディングスや、人工肺システムのECMOのトップメーカーであるテルモ等が人気化した。アルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」の日本と米国に続く中国の承認で、日本側の開発企業であるエーザイの株価が急騰した事も記憶に新しい。

では、医療に関連した銘柄が、上向いてきた景気の波に乗っているかと言えば、株価を見る限りそうとはとても言い難い。例えば、過去1年の株価動向を見た場合、市場全体の動きを示すTOPIX(東証株価指数)が今年3月迄の過去1年間で、4割を超す上昇を記録したのに対し、業種別株価指数の内、医薬品は1割強の上昇に留まっている。医薬品企業の年間株価上昇率は東証全体のざっと4分の1に過ぎないのだ。

その理由として、大きく2つの事が考えられよう。1つは、医療分野を産業として見た場合、景気による急激な成長が見込み難い点だ。一般的なメーカーなら、景気が上向けば比例して売上高が増加する。しかし、医薬品を例に取れば、景気が良くなったからと言って、薬の服用量を増やす事は無い。逆に景気が悪くなれば、薬の買い控えや受診控え等の需要減から売上高が減少する可能性はあるが、病気自体は景気に関係無く罹患するので、波が少ない。

似た様な動きをする業種では食料品がある。こうしたエッセンシャルな銘柄を株式市場ではディフェンシブ・ストックと呼ぶが、要するに不景気に対して強い代わりに、好景気に於いても劇的な収益向上は見込めない業種なのだ。

この様に産業としての特徴が株価動向に影響を与える訳だが、もう1つの理由としては、医薬品業界を取り巻く環境に不透明感が強い事が挙げられる。具体的には、薬価の毎年改定によるマーケット縮小の恐れ、更には、相次いだジェネリック医薬品に絡む不祥事等である。

ジェネリックに絡む不祥事も暗い影を落とす

薬価改定は当然の事ながら医薬品メーカーの収益を圧迫する。医療費の負担軽減効果をもたらす為、患者にとっては有難いものの、企業からすると巨額を投資して画期的な新薬を開発しても、思う様に費用を回収出来ない事からモチベーションの低下へと繋がり、産業として衰退し兼ねない。

実際の統計を見ると、2021年迄の5年間で日本の医薬品市場の成長率は、年平均0・5%減と主要国で唯一のマイナスとなった。このままでは市場規模は、先に衝撃を与えたGDP (国内総生産)の順位と同じく、26年にはドイツに抜かれて世界4位に転落するとの試算もある。成長性という視点から魅力が無いと映れば、投資家の関心が薄れるのは当然だろう。

又、度重なるジェネリック医薬品に絡んだ不祥事も医療全般に暗い影を落とし、関連企業の株価も冴えない動きとなった。コロナ禍に見舞われた20年、承認書と異なる手順で医薬品を製造した事で小林化工、日医工が業務停止命令を受けたのを始め、ジェネリック医薬品メーカーの行政処分が相次いだ。これが企業単独の影響に留まったのであれば、時間の経過と共に忘れられた事だろう。ところが社会的にも問題が尾を引き、医薬品株の動きを低迷させる要因の1つにもなったのである。

最大手クラスの日医工から製品が供給されない分を、他の企業から補充しようと現場は動いたが、そう簡単な話ではない。代替需要が急増した事で玉突き的に供給不足が生じてしまい市場は大混乱、処方箋を薬局に持参しても、代替品が出されるのは未だいいとして、代替品も含めて在庫が無く他の薬局に回される──といったケースが相次いだ。

需要急増というと経済の世界では特需と称され、株価にとってプラス材料になるが、このケースでは需要が増えた訳ではなく、製造停止による供給不足が要因である。現場に混乱を引き起こすだけで、大きなマイナスの影響を及ぼした。

経済の好循環から陽が差し込む可能性も

以上の様に医療ビジネスは、環境面のマイナス要因から停滞ムードに包まれ、株式市場に於いても伸びを欠く状態に陥ったが、今後の展望は決して暗い訳ではない。生きる上で不可欠故の安定性だけでなく、公的に医療費を抑制しようとも高齢化によって需要が縮小するとは考え難い事が、ビジネスとしての将来性を担保しそうだ。

需要という点で言えば、厚生労働省の統計によると、概算医療費は医科入院、医科入院外、歯科、調剤は何れも、医療費、受診延日数共に増加傾向を示している。財政に占める医療費の割合は年々増えている事から、インフラ整備で財政が投じられた嘗ての建設業界の様に、将来的に医療関連業界は公共事業と同じ位置付けになるかも知れない。

そうした例が最近のニュースでも見受けられた。厚生労働省がジェネリック医薬品の使用割合を、金額ベースで65%以上に引き上げるとする新たな目標を決めたのだ。ジェネリック医薬品の使用割合は23年9月時点で、販売数量が80%余りに達したものの、価格の高い薬の置き換えが進まず、金額ベースでは56・7%に留まっている。供給を是正する為の措置だが、ジェネリック医薬品使用促進を政府が後押しするという事は、暗い話が多かったジェネリック医薬品業界に光が差し込んだと言えそうだ。

医療ビジネスが、常に政府による医療費抑制という逆風に晒されているのは事実である。前述のジェネリック医薬品も同様だ。但し、財政難に伴う公的支出の制限は、経済の好循環によって景気が向上、税収増となって財政が持ち直した場合、弱まる事も考えられる。

医薬品株の出遅れ感が足下の医療ビジネスの厳しさを示唆しているとの見方が有るが、このまま好循環が進んだ場合、これらの株価水準も上向き、医療分野にも陽が差し込む可能性が高い。経済全体が正常化する中で、需要が確実に上向く状況を踏まえれば、医療ビジネスに関して将来展望を悲観する必要は無いと考えられる。

ジェネリックに絡む不祥事も暗い影を落とす

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