SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

外国人労働者の受け入れ拡大で人手不足解消なるか

外国人労働者の受け入れ拡大で人手不足解消なるか

規制緩和も教育など環境は未整備

外国人労働者の受け入れを拡大し、定着を後押しする仕組みが整いつつある。政府は3月15日に外国人技能実習に代わる新制度「育成就労」の新設を盛り込んだ入管難民法と技能実習適正化法の改正案を閣議決定。次いで同29日には、人手不足対策で2019年に創設した「特定技能」の受け入れ上限数や対象分野の拡大も閣議決定した。国立社会保障・人口問題研究所は70年に外国人が1割を占めると推計しており、今後増え続ける外国人労働者との共生が課題となる。

 先ずは、育成就労の説明から入りたい。廃止となる技能実習は国際貢献を掲げていたが、国内の人手不足が深刻化する中、未熟練の外国人を労働者として受け入れて育成する制度に改める。技能移転を通じた国際貢献を掲げて来た技能実習だが、実態は入れ替え可能な安い労働力を確保する手段で、職場移転を制限する等「人権侵害」と国際的に批判されて来た面が有るからだ。技能実習は途上国の外国人が日本で働きながら技能を学ぶ制度で1993年に始まり、最長5年、90職種で受け入れ、約36万人(昨年6月末時点)が就労しているが、1つの区切りを迎える。

 新たに設けられる育成就労の在留期間は原則3年間だ。その間に在留期間は通算5年まで認められ、即戦力人材との位置付けの在留資格「特定技能1号」の水準まで技能を育成する。育成就労、特定技能1号を経て、熟練技能が求められる「特定技能2号」の試験に合格すれば、家族帯同の無期限就労が可能になる。

転籍制限は折衷案で決着

 法案作成の過程で紛糾したのが、同じ仕事の範囲内で職場を変える「転籍」を制限する期間だ。技能実習だと3年は転籍が出来なかったが、育成就労では分野に応じて1〜2年に緩和する。昨年11月にまとまった政府の有識者会議の最終報告書では、1年で転籍が出来ると明記した。

 只、都市部への人材流出を懸念する自民党から異論が続出。技能実習から特定技能1号に移行した約9万5000人を追跡調査したところ、約4割が移行後1カ月以内に都道府県を跨いで移住していたからだ。自民党内からは「このままでは法案提出は認められない」等の強硬意見が相次いだ。この為、例外的な措置として「当分の間は分野によって1年を超える転籍制限を認める経過措置を検討する」とも記していた。

 法務省関係者は「どうしても1年だと自民党や業界団体等の反対が根強く、法案として通りそうもなかった。とは言え、人権擁護の観点から自民党が推す3年は長い。そうなると間を取るしかなかった」と明かす。

 転籍の手続きから悪質なブローカーを排除する為、民間の職業紹介事業者の関与も当面認めない方針も盛り込んだ。転籍をそそのかして高額な手数料を取る懸念が業界団体等から上がっていた為の措置だ。当面は非営利の監理団体を中心とし、技能実習が適正か検査する外国人技能実習機構や公共職業安定所が連携する様にする。

 更に政府は、特定技能に4分野を追加し、2024〜28年度に特定技能全体で最大82万人分の受け入れ枠を設ける方針を決定した。これ迄は①介護(新たな受け入れ見込み数13万5000人)②ビルクリーニング(同3万7000人)③製造業(同17万3300人)④建設(同8万人)⑤造船(同3万6000人)⑥自動車整備(同1万人)⑦航空(同4400人)⑧宿泊(同2万3000人)⑨農業(同7万8000人)⑩漁業(同1万7000人)⑪飲食料品製造業(同13万9000人)⑫外食業(同5万3000人)で認められていたが、新たに①自動車運送業(同2万4500人)②鉄道(同3800人)③林業(1000人)④木材産業(同5000人)が追加された。

 これ迄の受け入れ枠は34万5150人だが、実際には特定技能1号で20万8425人、特定技能2号で37人(何れも昨年末時点)と上限に達していない。それを倍増させるのが、「各業界で人手不足が加速し、外国人労働者が穴埋めしないと事業が継続出来ない」(政府関係者)為だ。

 人手不足が深刻な介護業界の受け入れ枠は5万900人から13万5000人と大幅に増える。ただ、在留者数は2万8400人に止まるものの、日本人のなり手が少なく、外国人に期待を寄せるしかないのが現状だ。

 こうした事を裏付けるデータも有る。三菱UFJ&コンサルティングが国の公表情報から算出したデータによれば、23年の全産業の外国人依存度は33人に1人という。13年は88人に1人だった為、加速度的に依存度を高めており、今後も上昇が見込まれる。

 新たに追加された業種で注目されるのが、鉄道と自動車運送業だろう。地方鉄道ではダイヤの維持の為に必要な運転士が不足している。国土交通省によれば、こうした事業者は全国でも半数に上るという。28年に1万8000人あまりの人手不足が生じるという推計も有る。運転士の他、車両整備や施設の保守点検も例外ではない。ただ、「事故等が起きた場合に、乗客らを適切に避難誘導出来るのか」という不安は付きまとう。にも拘わらず、産経新聞の報道によれば、JR東海や四国は採用予定は無いという。

拡がる都市と地方の格差

トラック、バス、タクシー業界でも「外国人ドライバー」が数多く誕生する可能性が有る。業界が重視するのが、モラル教育だという。運転技術だけでなく、規範意識を含め、日本国内で自動車を運転するのには欠かせない意識だという。特定技能での在留資格取得の為には、日本の運転免許の取得と共に、雇用主が外国人に法令や安全等に関する研修を提供する事も想定しているという。日本バス協会は5年間で累計3000人の外国人運転手の採用を目標としているという。一方で、産経新聞の報道によると、日本交通は現時点で積極的に採用する方向ではないとしている。各社毎に対応に差が出る可能性が高い。

 ところで、受け入れ上限はどの様に決まったのだろうか。昨年末頃に各業界から見込み数を出入国管理庁が中心となって聞き取ったが、その際には100万人を優に超えていたという。ある業界では2倍の数字を要望したが、最終的に1・5倍程度に押さえ込まれたという。法務省関係者は「100万人という数字にインパクトが有り過ぎる為、削り込みをして今の数字に落ち着いた。割と政治的に決まった数字だ」と明かす。

 日本語を教える環境を如何に整備するかも必要だ。日本語能力は仕事だけでなく、日本で長く暮らして行くには必須だからだ。しかし、その環境が整っているとは言い難い。文化庁の調査によれば、全国の市区町村の内4割は日本語教室が無いという。特に地方ほど深刻で、2割程度しかない自治体も有る。自治体間の格差が深刻で、国が支援すべきだという声も有る。

 特定技能以外の在留資格を含めれば、国内で働く外国人労働者は昨年10月時点で約205万人に上る。受け入れ枠を最大82万人に迄広げた事を鑑みれば、今後も外国人労働者は増え続け、且つ、日本の各産業を維持する為には益々不可欠な存在となって行くに違いない。政府関係者は「今後は待遇改善や生活支援等、より細やかな支援策が必要になる。国だけでなく、自治体、民間企業等あらゆるレベルでの取り組みが必要になって行くだろう」と補足する。人口減の救世主になり得るか?

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top