厚生労働省は2024年度改定分の診療報酬本体の配分方法を決めた。幅広い医療職の賃上げ財源として初・再診料を引き上げる一方、日本医師会の主力、開業医らが経営する診療所に関しては収入の柱となっている生活習慣病関連の報酬にメスを入れ、メリハリを演出した。しかし、抑制出来る医療費は200億円程度と小さい。「しかも未だ決着したとは言えない」(厚労省幹部)という。
24年度の診療報酬改定は6月から反映される。昨年末の予算編成で、技術料に相当する「本体部分」全体は0・88%のプラス改定としたものの、診療所に限っては0・25%分を引き下げる事で決着していた。
動いたのは財務省だった。予め開業医をターゲットとして全国の財務局職員を動員。人海戦術で医療機関の収支を洗った。そして昨年11月、22年度の診療所の経常利益率が平均8・8%(病院5%)に上ると指摘し、利益率の引き下げを強く主張した。
内科等の診療所の大きな収益源は、薬を受け取るのが目的で治療に訪れる、糖尿病等の生活習慣病を抱える患者だ。長く通院する人が多く、診療所はこうした患者を診ると「特定疾患療養管理料」(2250円)を月2回まで算定出来る。更に「外来管理加算」(520円)や、薬を処方した時に得る「特定疾患処方管理加算」(660円)も受け取れる。
そこで厚労省は特定疾患療養管理料を見直し、患者数が多い糖尿病、高血圧、脂質異常症を報酬算定の対象から外した。代わりにこの3疾病を「生活習慣病管理料」(3330円)の対象としたが、同管理料は月1回しか算定出来ず、外来管理加算も特定疾患処方管理加算も得られない。更に同管理料を得るには、「療養計画書」の作成・交付が必要だ。医師の負担は重く、算定数は少ない傾向に有る。
横浜市内の開業医は「高齢の患者さんの多くは糖尿病と高血圧症。最初はピンと来なかったが、収入に相当響きそうな事が分かって来た」と漏らす。
只、財務省は未だ警戒を解いていない。危機感を抱く日医が、生活習慣病管理料の算定に必要な療養計画を大幅に簡素化する様求め、厚労省と折衝している為だ。療養計画書は食事など生活習慣改善に関する指導内容を3カ月毎に作成し、患者と約束を交わす。厚労省幹部は「大幅に簡素化されれば患者1人当たりの医師の負担が減り、管理料を得易くなる。計画書の患者への交付を義務化するかも検討中」と明かす。
医療費抑制の一方で、今回は経済界の「賃上げ」相場を睨み、医療職の処遇改善が命題だった。その結果決まったのが、初診料(30円増の2910円)と再診料(20円増の750円)の一律アップだ。初・再診料の引き上げは消費増税時を除き20年振り。更に賃上げ計画を作成すれば、初診時に60円、再診時に20円加算出来る様にもした。これとは別に、患者の少ない過疎地の医療機関では、規模に応じて初診料を最高640円、再診料を最高80円引き上げられる様にした。
賃上げ計画作成が必要な加算は、全ての医療機関が対応出来るとは限らない。この為、初・再診料そのものを底上げしたという。とは言え、その使い道は医療機関の裁量次第。厚労省はどの程度賃上げに回したかを各医療機関から報告させる意向だが、嘗て同じ事を意図して報酬を上げた介護保険でも、経営者が他に流用し中々職員の賃上げには繋がらなかった。
賃上げと医療費抑制の両立を目指した今回の改定について、武見敬三・厚労相は「全部が難しかった」と振り返った。厚労省幹部は開業医に関わる改定内容を「アメとムチ」と評するが、6月のスタート時に「アメとアメ」へとすり替わっている可能性は残る。
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