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未来の会

第104回「日本の医療を」展望する 世界目線

第104回「日本の医療を」展望する 世界目線

健康経営とウェルネス概念③

健康経営の具体的事例

健康経営は、主に経済産業省からの取り組みと考えられがちである。しかし、その前身の研究もある。従業員の健康管理や健康づくりの推進を通じて、生産性向上や従業員の創造性向上とともに企業イメージ向上等の効果が期待できる等とするNPO法人健康経営研究会は、2006年に発足した。

経済産業省によれば、「『健康経営』とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます」(経済産業省ホームページより)とされる。

経済産業省は、東京証券取引所の上場企業分類の33業種の中から、優れた健康経営を行っている企業を各業種から原則1社ずつ選定する「健康経営銘柄」と、上場企業に限らず、未上場企業、医療法人を含めて健康経営を行っている企業を認定する「健康経営優良法人認定制度」の制度を行っている。「健康経営優良法人認定制度」には、大規模法人部門と中小規模法人部門があり、大規模法人部門の上位500法人は「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位法人は「ブライト500」と呼ばれている。

このように健康経営は、経済産業省から企業へという流れで構築されているが、最近では、企業と健康の関係性は、ESG投資やSDGsといった、さらに大きな枠組みの中でも語られるようになってきている。

具体的には下記のような事例が知られるので、個別に紹介しよう。

健康経営に係る顕彰制度
① ローソン

ローソンでは2013年から、健康診断を受診しない社員とその上司に対して減給している。また、健康診断の結果が良くなかった社員には健康記録アプリ・歩数計の配布、保健師による電話指導、「健康アクションプラン」の作成・配布を行っている。「健康アクションプラン」では、体重・運動量・摂取カロリーの目標値と食事上の注意が記載されている。

② タニタ

タニタは「はかる」を通して人々の健康づくりに貢献していくことを経営理念としている。そこで、強みである自社製品の計測器(体重計・体組成計・歩数計・血圧計など)を使用した「健康の見える化」を社内でも行っている。社員は、各自が計測して集まったデータをパソコンやスマホからいつでも確認することができる。他にもラジオ体操の実施や尿糖測定、体組成測定、食堂での食事サポートなど、多方面から健康経営に力を入れている。

③ 三菱電機

三菱電機では社員が自主的に健康改善をすることを目的とした取り組みとして、MHP21(三菱電機グループヘルスプラン21)を実施している。MHP21は、会社・労働組合・健康保険組合の三者共同で行われていて、社員が病気にならないための1次予防に力を入れている。この中で重要項目として挙げられているのは、「適正体重の維持」「運動の習慣づけ」「禁煙」「歯の手入れ」「ストレス対処能力の向上」である。インセンティブとしては「健康宣言カード」を発行し、各自が自分の健康に関する目標を記載。目標を達成すると表彰される仕組みである。また、個人や事業所の評価の一環に生活習慣評価基準が取り入れられている。こうしたインセンティブの効果もあり、MHP21は素晴らしい成果を上げている。

④ フジクラ

タニタと同様「健康の見える化」をベースとして健康経営を行っている。「企業の競争力はそこで働く社員の良好な健康状態が基盤となる」という考えのもと、健康診断データや各種測定器のデータを一元管理することで従業員の健康状態を把握し、健康状態のレベルを4階層に分け、それぞれのレベルに対して適切なイベントの実施やキャンペーンの提唱を行っている。

経済産業省 健康経営優良法人認定制度
医療関連企業が陥りかねない「不養生」

製薬会社や医療機器の会社が、人命を救ったり、人々をより健康にしたりするために日々働いていることは言うまでもない。しかしこういった会社では、従業員が患者に直接関わって症状を治したり状態を健康にしたりするわけではない。例えば医療分野では、薬剤や機器が医師や看護師といった医療従事者を介して患者を治療する。また健康分野では、薬局での販売行為やアプリなどの機器を通して生活者に働きかける。要するに、製薬会社や医療機器の会社が直接患者に接する機会は必ずしも多くはないのである。

少し話がそれるが、かつては医師でも喫煙者が多く、過量の飲酒者も多かった。しかしながら現在は、病院に勤務したりする前提として、まず自身が健康でなければならないという状況になっている。もちろん自らの健康を意識するようになってきたということなのであろうが、患者の目というプレッシャーの効果もあり、いわゆる「医者の不養生」といった状況はかなり減ってきていると思われる。そこから考えると、製薬会社や医療機器の会社の社員自身は、患者、あるいは生活者からの視線に直接さらされているわけではなく、医師のように日々患者(生活者)に相対してもいない。そのため、自らが生命や健康に関与している組織で働いているとはいっても、何かよほどきっかけがないと、自らも健康になろう、健康であろうという意識になりにくいのではないか。

その意味では、いま国が健康経営という視点を持ち出し、企業の中で「健康に投資する」ことを推進しようとしてきているのは、「不養生」に陥りがちな企業人にとっても、1つのチャンスともいえるのかもしれない。先ほど、企業の社員は直接エンドユーザーである生活者に接する機会が少なく、彼らの視線に直接さらされているわけではないと述べたが、外部の人間が病院に出入りするようなケースを考えてみよう。特に今回のコロナ禍において、感染症対策は非常に重要視されている。そんな中、病院に出入りしている外部の人間が感染症を病んでいてはたまらない。したがって、コロナ禍では病院や介護施設においても面会や訪問ははかなり厳しく制限されていた。

もちろん、感染症に対する意識と現在対象になっているような生活習慣病が同じであるとは言えない。だが、製薬会社や医療機器会社に勤務している人たちが健康に対する意識を持たねばならないという点に関しては同じではなかろうか。

 

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