少子高齢化によって、身寄りの無い一人暮らしの人が増え社会問題化している。孤独死の増加も新たな課題となっているが、病院でも身元保証人がいない患者の入院受け入れに苦慮している。こうした、家族との縁が薄い一人暮らしの人達を支援する取り組みも行われる様になって来た。単身独居の患者にはどの様な支援が必要で、どういった課題が有るのか。膵臓がんと診断された後、お一人様用の支援サービスを利用しながら仕事と闘病の両立を図っている日本赤十字社医療センターの看護師・筧君江さんに、一般社団法人日本介護事業連合会を通じて話を聞いた。
——どの様な経緯で看護師の道を選ばれたのですか。
筧 高校卒業後に、知人に看護学校を紹介されたのがこの仕事を目指した切っ掛けです。2年間で准看護師の資格を取り、3年間は昼間に病院で実習をしながら定時制で学び、看護師資格を取りました。その後、日本赤十字社医療センターの看護師の募集を知り応募しました。その頃は、資格を生かして働く事で頭が一杯で、それ以外の事はあまり考えていませんでした。当時、病院の近くに好きな雑貨屋さんが在って、そのお店に気軽に寄れるのが嬉しかったのを覚えています。
——長く手術室看護師(オペナース)をされていると伺いました。
筧 最初の配属が手術室で、そのまま長く続ける事になりました。配属当時は、病室で患者の世話等をする看護師のイメージと違うので驚きましたが、直ぐに慣れました。中には、手術室の仕事に慣れず、病床を希望する方もいますが、私は性に合っていたのだと思います。確かに手術中は臨機応変な対応が求められ、勉強も必要で、最初は手際が悪くて周囲に迷惑を掛ける事も有ったと思います。大変な仕事ではありますが、途中2年程の病棟勤務を除いて、ずっと手術室で働いて来ました。
——執刀医によって手術室の雰囲気も変わると思います。気性の荒い先生もいらしたのではないですか。
筧 そうですね。看護師に怒る事は無いですが、自分の思い通りに手術が進まないと、機嫌が悪くなる職人肌の先生もいました。決して、他の先生が失敗した訳ではなく、手術がご自身のイメージ通りに進まないと苛立ちを感じるのかも知れません。私の場合はそういった点も含めて、先生によって手術室の雰囲気が異なるのも興味深く感じていました。先生の癖を理解して、「次はこんな指示が来そうだな」「こんな事を仰るだろう」と考えながら、準備していました。それでスムーズに対応出来ると「今日は90点」「あまり息が合わなかったから50点」等と自己評価する。そうした経験を重ねる内に、オペナースの仕事に遣り甲斐を感じる様になりましたし、先生方からも信頼される様になったのではないかと思います。勿論、相性が有って、医師と看護師の間で呼吸が合わないという事も有ります。そういうところが苦手な看護師もいるかも知れませんが、私の場合はそれぞれの先生の違いに合わせて柔軟に対応する事を目標にしてやって来ましたので、やはり手術室の仕事が向いていたのだと思います。
余命宣告を受け、死後の事が不安に
——現在は闘病と仕事を両立されているとお聞きしました。
筧 今は体調の関係からオペナースの仕事が出来ない為、麻酔科外来に勤務しています。手術で全身麻酔や局所麻酔を受ける予定の患者と面談し、その内容をパソコンで入力する仕事です。ただ、昨年8月から化学療法を受けている為、9月半ばから吐き気と倦怠感が強くなり、休む事が増えました。自宅で療養していますが、横になっていても、怠さと吐き気で全く動けず寝た切りの状態になってしまいます。
——そんな時は出勤するのも大変ですね。勤務時間等はどの様に決めているのですか。
筧 膵臓がんと診断され余命宣告された後に、看護部から「両立支援制度」を教えて貰いました。元々は、メンタルヘルスが原因で休職した人の復職プログラムの一環の制度ですが、私にも適用して頂けました。今は私の主治医と職場の看護師長が話し合って、どの様な働き方が良いのかを決めてくれています。最初は、お金や治療に対する不安等の方が多く、働き方まで頭が回りませんでしたが、今は制度を利用し、体が辛くなる化学療法を受けた翌週は休ませて貰う様にしています。それ迄は有給休暇で対応していましたが、日数に限りも有り、昨年の分は全て使い果たしてしまいましたので、現在は両立支援制度を利用しています。
——ご自身が利用されている「お一人様支援サービス」について教えて下さい。
筧 入院や高齢者施設への入居時に、家族等の身寄りがいない一人暮らしの人に必要な身元保証人の事、財産管理や生活支援、相続、死後対応等の相談に乗ってくれるサービスです。主に、一般社団法人やNPO法人が提供しているサービスでしたが、最近は民間企業の参入も増えている様です。少子高齢化や核家族化の影響も有り、こうした第三者による支援を求める人が多いという事なのでしょう。私は実の家族と疎遠で頼る事が出来ない為、入院時の身元保証人や万一の時の死後対応をお願いしています。又、自分の希望する相続を実現する為に遺言書の作成もサポートして頂きました。
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