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未来の会

第184回 政界サーチ 焦点は春の衆院補選、魔の東京15区

第184回 政界サーチ 焦点は春の衆院補選、魔の東京15区

大山鳴動して鼠一匹——。そんな印象が拭い切れない。自民党派閥の「裏金事件」の事である。岸田文雄・首相が引き継いだ名門派閥「宏池会」等は解散に追い込まれ、政治資金規正法も一部は厳格化されるのだろう。だが、一連の事件で逮捕・起訴されたのは小者の国会議員1人だけだ。嫌疑を掛けられた自民党の要職者の多くは次期衆院選に向けて地元行脚を繰り返している。現行法の不備も有ろうが、事件としてはちんまり収まった感じなのだ。「政治とカネ」の闇には切り込めていない。

 政治とカネの問題には、いつもやり切れ無さが付きまとう。30年前もそうだった。金丸信・自民党副総裁(当時)の5億円の闇献金事件である。政治資金規正法違反を認めた金丸副総裁の処分は罰金20万円の略式起訴だった。金額の落差に世論は騒然となり、検察庁の石の表札に黄色いペンキが撒かれる事態になった。東京地検は脱税疑惑で再始動し、金丸副総裁の逮捕に踏み切った。この後、政治改革と選挙制度改革のうねりが起こり、自民党の下野を伴う政界再編が進む。東西冷戦の終焉、バブル経済崩壊とも重なった。首相は短期間で入れ替わり、失われた30年へと繫がって行く。未曾有の都市災害となった阪神・淡路大震災は1995年1月だった。

 そして現在。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、新たな冷戦構造が生まれ、イスラエルとイスラム組織・ハマスとの紛争が世界の混迷に拍車を掛ける中、日本は能登半島地震への対処に追われている。物価上昇に国民は苦しい生活を余儀無くされるが、株価はバブル崩壊後最高値を更新し、裏金事件を契機に政治不信が列島を覆っている。ディテールは異なるが、構成要素を並べると、30年前の映像がダブって見えて来る。

 「外形は似ているが、闇ガネのやり取りが常態化していた30年前と比べてもしょうがない。あの時代は、中選挙区制だったから。同じ選挙区で、異なる派閥の複数の自民党候補がしのぎを削るんだから、カネは飛び交うし、違法・脱法も横行した。今とは全然違う。敢えて、共通項を探せば、あの時も今も時代の転換点という事かな。失われた30年からの脱却という事だろう」

 岸田首相支持の自民党幹部は、大災害も裏金事件も「産みの苦しみ」と捉える事にしている。面の皮が厚いのは昔からだ。政界では、常にそういう気持ちでいないと、心が折れそうになるという事なんだろう。鼠1匹に終わった捜査では、市民グループが裏金疑惑の旧安倍派幹部らを脱税の疑いで東京地検に告発した。国民感情としては当然だろう。やはり、30年前が思い浮かんでしまう。

鍵は連座制と資金法改正の時期

 検察の動向について、自民党内では「地検は政治資金規正法の改正で、議員の連座制が盛り込まれるのかどうかを見定めるつもりなんだろう。法改正が出来なければ、脱税での摘発が動き出すのではないか」との見方が多い。東京地検の捜査の裏には国税庁がいるケースが多い。「地検はずるい。最低でも脱税で取れる(逮捕出来る)との担保を持っているから、巨大な権力にメスを入れられる」(警察庁関係者)等の陰口まで有るが、国民に選ばれた国会議員への捜査には慎重さも求められる。2段構えであったとしても不思議ではない。

 何れにしても、議員の連座制を盛り込んだ政治資金規正法改正案の成立時期が通常国会の焦点の1つであり、春先の政局の節目になりそうだ。国会論戦と共にもう1つの焦点となりそうなのが、「政治とカネ」の問題等で、議員辞職した欠員を補う3つの衆院補選の行方だ。

 選挙日は4月28日と決まっている。補選は必要性が生じると、半年に1度、取りまとめて実施される。今回は昨年9月16日から今年3月15日迄が対象期間で、清和政策研究会(旧安倍派)の元会長で、旧統一教会問題や裏金問題の渦中で死去した細田博之・前衆院議長の島根1区▽裏金問題で辞職した谷川弥一・元衆院議員の長崎3区▽東京都江東区長選を巡る選挙違反(買収)で起訴された柿沢未途・前副法相の東京15区——の3補選が予定されている。3月15日迄に衆院が解散されれば、総選挙に吸収される為、補選は無くなるが、現状で岸田首相が衆院解散に打って出る可能性は低い。事件絡みで辞職した自民党議員(離党者含む)の穴を埋めるという「ヤバい補選」(自民党選挙対策関係者)となる見通しだ。

 取り分け注目されているのが東京15区である。作家の百田尚樹氏が代表を務める「日本保守党」が2月1日に「東京江東支部」を設立し、「候補者擁立を検討している」と表明する等、新たな動きが出ている。東京15区は2019年に統合型リゾート施設(IR)事業を巡る汚職事件で、同区選出の秋元司被告(元副環境相)=1審実刑判決、控訴中=が逮捕・起訴された曰く付きの選挙区。連続する自民党議員の逮捕による出直し選挙となるだけに野党各党も「決戦の地」と位置付け、協力体制の構築を進めている。

 そんな中、辰年生まれの、あのドラゴンレディーの周辺がザワついている。小池百合子・東京都知事である。東京都知事選は今年7月7日に予定されているが、本人は3期目を目指すかどうかを明らかにしていない。元々、初の女性首相就任が目標だから、年女となった今年は期するものが有ると言われている。都内選出の自民党中堅が語る。

 「小池さんは、衆院選の時期に関心が高い。都知事選の後に衆院が解散された場合、都知事をポイして国政へというのはバツが悪い。4月28日なら、その心配は無い。それと、次期首相候補に上川陽子・外相が急浮上して、『何さっ!』と闘争心に火が付いたとも聞いている。衆院選では都民ファーストの会を母体に新党を作って打って出る、一気呵成の頂上作戦を考えている可能性が有る」

 その小池知事が2月2日、首相官邸に岸田首相を訪ねて面談した事から、東京・永田町では「東京15区補選での腹の探り合い、あるいは下ごしらえだろう」との憶測が飛び交った。面談は表向き、子育て支援やエネルギー政策等の意見交換になっているが、「永田町でそんな事を真に受ける人はいない」(政府関係者)のが実情だろう。

 小池知事は衆院解散の時期を、岸田首相は小池知事の国政復帰の野望の真偽を政治家の肌感覚で確かめ合ったと見ていい。もう少し、踏み込んで会食の約束を取り交わしたのかも知れないが、政府関係者は「夜の会食だと目立ち過ぎるから、敢えて官邸で会ったんじゃないか」と解説している。

 東京15区は自民党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、旧希望の党など与野党の陣営が入り乱れる選挙区として知られる。起訴された柿沢被告も元々は野党陣営に所属しており、旧希望の党による野党の混乱を経て、自民党入りした経緯が有る。

 自民党選対関係者が語る。

 「民主党時代からの内紛、野党再編で野党はいつも足下がガタガタ。2代連続で逮捕されたウチの旗色は最悪だが、口先だけで調整力の無い野党も尻すぼみじゃ無いの。小池さんが出て来るのが一番いいんじゃ無いかと言ってる輩までいるし、現状、情け無い状況だ」

 かなり投げ遣りだが、「政治とカネ」の問題の縮図とも言える選挙区。野党はその存在価値を懸けて候補選定に当たると見ていい。もし、ここで自民党の公募候補にでも敗れようものなら、野党は国民から見放されるだろう。

 共産党関係者は「東京15区は次期衆院選の試金石になるだろう。自民党は何とか事件のほとぼりを冷まそうとするのだろうが、そうは行かない。国会論戦で追及の手を緩めず、野党間調整をしっかりやれば当然、議席は手に入る」と意気込みを語る。

〝ポンコツ首相〟ランキング?

野党幹部が面白い切り抜きを手にしていた。「歴代〝ポンコツ総理〟ランキング」と書いてある。ネット投票で、ポンコツ首相の順位を調べたらしい。毎日新聞や共同通信で、僅かだが支持率を持ち直した岸田首相の順位は宇宙人と呼ばれた鳩山由紀夫氏、ピンクスキャンダルで辞任した宇野宗佑氏に次いで、第3位。国民総スカンの森喜朗氏よりひどかった。「アンチ岸田をどうアピールするかが今後の選挙の行方を決めると思うよ」。他力本願では何れ覚束無くなるだろうが、当面は最善手なのかも知れない。

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