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少子高齢化で求められる孤独対策 民間主導の「お一人様」支援を

少子高齢化で求められる孤独対策 民間主導の「お一人様」支援を
栃本 一三郎(とちもと・いちさぶろう)1953年東京都生まれ。85年上智大学大学院文学研究科博士後期課程修了。厚生労働省社会保障研究所(現・国立社会保障人口問題研究所)調査部研究員、研究部主任研究員等を歴任。2022年2月まで上智大学教授。22年4月から放送大学客員教授。

少子高齢化で単身の高齢者が増えている。こうした「お一人様」の高齢者は、身元保証人の不在を理由に、入院や介護施設の入所時に受け入れを断られる恐れが有る。この為、身元保証等の支援を、民間事業者が親族の代理で行う「身元保証等高齢者サポート事業」が普及しつつあるが、一方で事業者が経営破綻や、利用者とのトラブルも有り、利用者を保護する制度の整備も求められている。政策研究大学院大学客員教授や参議院厚生労働委員会調査室客員調査員、厚生省行政官等を経験し、厚生労働省の身元保証制度の調査にも携わり社会保障問題に詳しい、放送大学客員教授の栃本一三郎氏に、高齢者の孤独対策等について話を聞いた。


——今、特に力を入れている研究は?

栃本 これからの日本の在り方と政治です。高齢化と核家族化が同時進行し、2040年には単身世帯は4割、高齢者単身は17・7%に達します。身寄りの無い所謂「お一人様」高齢者は今後も増加する事は確実です。これからの日本の社会を安全・安心に、そして不安感無く、幸福感を持って暮らして行ける様にして行きたいと思っています。その為に変えなければならない制度や仕組み、政治や行政、企業の在り方について、社会政策という観点から考え、実際に少しでも出来るところから変えて行きたいと考えています。その為の処方箋として『高齢期を支える 高齢者が社会を支える時代に向け』を放送大学教育振興会から出版しました。

——現状の保険制度等の法定サービスでは対応に限界が有るのでしょうか?

栃本 介護保険で提供されるサービスは、何から何まで対応出来る訳ではありません。例えば、施設の入所者が墓参りや孫と食事や旅行に行きたくてもそれはサービス外です。日々の生活には介護保険では解決しない事も有り、子供や配偶者が何とかやり過ごしているのです。家族のサポートが有って、介護保険サービスが維持されている。これが実態ですし、絆というものです。逆に身近に家族や親族がいない方だと、日常生活に支障を来す事が多くなりがちです。地域で支えると言うのは簡単ですが、込み入った事は難しい。

——高齢者の中でも、認知症等で判断能力が不十分な人が増加しています。先生の研究にも有る「成年後見制度」の仕組みと課題について教えて下さい。

栃本 この制度は介護保険が00年4月に全面施行された時に合わせて導入されました。中身は大きく分ければ財産管理と身上監護(身上保護)です。現在の制度では、肝心な事柄を決める際、本人の意思とは関係無く判断され、本人の立場から見れば、行為能力の制限です。又、病院や医療関係者にとって、代理権や代行では機能しない事が有る。例えば医的侵襲に代理権は無く、本人に代わって同意は出来ません。後見制度は「本人を守る為に」という理屈ですが、歴史を紐解けば、これ迄も様々な理屈を付けて人の行為能力を制限し、本人に不利益を与えて来た。その可能性がこれからも有るという事です。誰にとっての制度なのか、少しでも残っている意思は尊重されているのか、人間の尊厳は保持されているのか、周りの人の為の制度になってやしないか。これは、金融ジェロントロジー等の世界でも起きつつあります。企業や業界にとって好都合で円滑なシステムの構築によって本人が蔑ろにされるのです。

——その課題を克服する為に何が必要でしょうか。

栃本 本人主体の身元保証等高齢者サポート事業と組み合わせ、連携して行けば、成年後見制度はとても良いものになる。現在のサポート事業が抱える弱点や問題点を解消し、サポート事業の後ろに成年後見制度が控える形になれば、利用者や家族も安心する筈。契約関係では弁護士会の役割が今後大切です。

——一人暮らしだと、入院時や介護施設への入居時に身元保証人を求められて困る事が有ります。

栃本 病院や施設が保証人を求めるのは、金銭の未払いリスクに備えるという現実的な目的も多分に有ります。厚生労働省は18年、身元保証人がいない事だけでは入院・入所を拒む正当な事由・理由にはならないと通知しているのですが、今も多くの施設や病院で保証人を求めているのが実態です。「『保証人がいない事だけをもって』拒むのはダメですよ」と言っているだけですから。因みに我が国では様々な事柄について保証人を求めています。

——身元保証会社を巡る訴訟等も起きています。

栃本 24年に総務省の行政評価局が「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査」の結果を公表しました。それによると、預託金の管理方法が杜撰な事業所や、利用者本人の判断能力が不十分な状態になっても成年後見制度に移行していない事業所が有る。身元保証等高齢者サポート事業に関しては、これ迄も内閣府の消費者委員会や厚労省が調査した事が有り、私も厚労省の調査に参加しました。行政評価局の調査は、国がガイドラインの策定や監督省庁の設置について取り組むべきではないかと提起(通知)するものであり、総じて監督者として各省庁に対する行政評価の視点が強い印象を受けました。サポート事業がどうであるべきか迄は踏み込めないでしょう。切実に必要としているのは市民であり、その視点から、都道府県弁護士会の役割等も含め今後更に議論が必要です。


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