岸田首相は信念とリーダーシップを国民に示せ
能登半島の大地震と羽田空港の航空機衝突事故で明けた2024年。海外ではロシアによるウクライナ侵攻とイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区攻撃の戦火が止まず、台湾統一の野心を隠さない中国が覇権主義的な挑発行動を強めている。国内では自民党安倍派の裏金問題が政権の根幹を揺るがし、岸田文雄・首相の指導力欠如に愛想を尽かした国民世論に政治不信のマグマが渦巻く。日本にとって国内外の激動に翻弄されるばかりの新年となるのか、ピンチをチャンスに変える転機と捉えて「失われた30年」から脱する糸口を掴めるか。
米軍の在庫不足を日本がカバーする秘策
そこで岸田首相に2つ、無理を承知で提案したい。1つは、ウクライナへの武器供与だ。先の大戦の反省から平和国家の道を歩む事を誓った日本として、容易な決断でない事は承知している。毎日新聞と埼玉大学が昨秋実施した郵送世論調査を見ると、日本政府のウクライナ支援については「支援は強化すべきだが、武器供与には反対」との回答が57%を占め、「支援を強化し、武器も供与すべきだ」は8%に止まっている。国民の反戦意識は根強く、日本が戦争に関与する事には激しい抵抗が予想される。
だからこそ、政治リーダーの指導力が問われる場面と言える。ロシアの無法な侵略に苦しむウクライナを救えない国際社会で良いのかと国民に問い掛け、説得する事が出来たなら、岸田首相の評価は大きく好転する筈だ。説得に失敗すれば潔く退陣すれば良い。このまま何もせず、内閣支持率が低迷するジリ貧状態が続けば、今年9月の自民党総裁選で総理・総裁の座から引き摺り下ろされる。昨年の主要7カ国(G7)議長国として民主主義陣営の結束を主導して来た「岸田外交」の正義を掲げ、中露等の権威主義国家による侵略行為を阻止する国際貢献こそ平和国家・日本の果たすべき役割なのだと国民を説得出来るかどうか。そこは岸田首相の政治家としての信念とリーダーシップに懸かっている。
ここ迄書いておいて何なのだが、それが出来るタイプのリーダーだったら、そもそも岸田内閣の支持率は地を這っていないだろう。ただ、岸田政権としては相応の手は打っている。昨年末に防衛装備移転三原則の運用指針を改正し、国内企業がライセンス生産している防衛装備をライセンス元の外国に輸出出来る様にしたのがそれだ。先ずはRTX社とロッキード・マーチン社のライセンスで三菱重工が生産している地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」を米国に輸出する。米側は日本から輸入したミサイルを「現に戦闘が行われていると判断される国」に提供する事は出来ない規定だが、自国で生産したミサイルをウクライナやイスラエルへの支援に回し、米側の在庫不足を日本が補う事で間接的にウクライナへの武器供与をサポートする仕組みだ。
日本企業がライセンス生産している防衛装備は他にも戦闘機(米国)、迫撃砲(英国、フランス)、無反動砲(スウェーデン)、機関銃(ベルギー)等が有り、同じ仕組みで北大西洋条約機構(NATO)諸国によるウクライナへの武器供与もサポート可能となる。日本が戦争に直接関与する形を避ける事で国民感情に配慮しつつ、ウクライナへの「支援疲れ」も指摘される西側陣営を後押しする秘策とも言える。足りない点が有るとすれば、まどろっこしい体裁を取る為、岸田首相の信念とリーダーシップが国民に伝わり難い事だろう。反戦を叫ぶ左派が「誤魔化し」等と批判する事も予想される。昨年のG7広島サミットの成功が政権評価に繋がらなかったのと同様、自らの信念を丁寧に説いて国民に理解を求める努力を怠れば、何時まで経ってもリーダーとしての評価は得られまい。
「石破ワンポイントリリーフ」で4月解散?
もう1つの提案は、自民党の派閥解消だ。安倍派等の主要派閥に支えられて来た岸田首相にそんな事が出来る訳がないと言われれば、その通りと言う外ない。実際、岸田首相の及び腰は明らかだ。派閥の政治資金パーティー収入からのキックバックは岸田派等でも確認されたが、安倍派と二階派ではそれを政治資金収支報告書に記載せず、巨額の裏金作りが常態化していたとされる。岸田首相が本気でこの問題にメスを入れるつもりが有るなら、自らが率いる岸田派の実態解明に率先して取り組み、自民党総裁として全派閥に徹底調査を指示する事も出来た筈だ。しかし、首相は早々に自身の派閥離脱を表明した。本人はけじめを付けたつもりだろうが、多くの国民は「逃げた」と感じた。
安倍派の裏金問題に対する東京地検の捜査がどこ迄広がるのか、本稿執筆時点では予断を許さないが、金額の多寡は別にして安倍派議員の大半が派閥から裏金のキックバックを受けていたのだとすれば、安倍派は勿論の事、自民党としても何らかの形で責任を取る必要が有るだろう。安倍派議員を政府・与党の要職から外して済む話ではない。安倍派抜きの政権運営が持続的に安定する保証も無い。捜査の推移を見ながら、何れかの時点で衆院解散・総選挙を行い、有権者の審判を仰ぐ事で禊とする展開が予想されるが、それで国民は納得するのか。
政治とカネにまつわる問題で言えば、安倍晋三・元首相が「森友・加計学園」問題で窮地に立っていた17年、突如、衆院解散に踏み切って勝利し、その後も問題を有耶無耶にしたまま20年に退陣した事が思い起こされる。「桜を見る会」も含め、スキャンダルの説明責任を果たさなくても「安倍1強」の長期政権を謳歌出来た悪しき前例が安倍派の驕りを生んだのではないか。ここで再び、選挙に勝てば何をしても許されるかの様な先例を残してはならない。
だが、永田町では最短シナリオとして新年度予算成立後の4月解散論が囁かれ始めている。この場合、解散権を行使するのは岸田首相ではない。岸田政権は今年の通常国会で政治資金の規制を強化する法整備を行って御役御免。岸田首相の退陣を受けて自民党は臨時総裁選を実施し、新しい首相の下で総選挙に臨む筋書きである。その際の首相候補として名前が挙がっている1人が、安倍元首相と対立して長らく不遇を託って来た石破茂・元幹事長だ。
安倍元首相が健在なら有り得ない選択肢なのだが、安倍派議員達にとって次の総選挙は当選する事が最優先。ここは一旦、国民的人気の高い石破氏を「選挙の顔」として担ぎ、禊を終えた後は再び政権運営の主導権を握れば良いという「石破ワンポイントリリーフ」論が安倍派内でも言の葉に上る様になって来た。そんな自民党内の空気を感じ取った石破氏は昨年12月のテレビ番組で、岸田首相が党総裁として裏金問題の責任を取るべきだとの考えを示し、新年度予算成立後の総辞職と衆院解散・総選挙の可能性に言及した。石破氏にとって一度は諦めかけた首相の座を射止める千載一遇の好機。嘗て派閥批判を展開した事の有る石破氏だが、番組の司会者から「派閥解消は可能か」と問われて即座に「不可能です」と断じたのは、安倍派等への秋波と受け取られた。
裏を返せば、仮に「石破首相」が誕生したとしても、抜本的な政治改革や自民党改革は望み薄と言わざるを得ない。だとしたら、岸田首相が自ら衆院解散に打って出て政権の存続を勝ち取る策は1つ。石破氏が「不可能」だと言う派閥解消を打ち上げて国民に信を問うしかない。主要派閥を敵に回して孤立するかも知れないが、このまま手をこまぬいていてもジリ貧で退陣に追い込まれるだけ。逆に自身が岸田派の存続に拘る振る舞いでも見せれば、派閥離脱もその場凌ぎのパフォーマンスだったと白状するに等しい。派閥解消を党内に突き付け、抵抗する者には党の公認を与えない位の覚悟を示せば「増税メガネ」の悪評も吹き飛ぶと思うのだが。チャンス到来だ。
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