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処理水のトリチウム除去の新手法 海洋放出への理解を広める一助に

処理水のトリチウム除去の新手法 海洋放出への理解を広める一助に

安藤 靜敏(あんどう・しずとし)1965年大阪府生まれ。93年東京理科大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了、博士(工学)。同年電気通信大学文部教官助手。95年東京理科大学理学部応用物理学科嘱託助手等を経て、2010年同大学工学部電気工学科教授。

廃炉が進む東京電力・福島第一原子力発電所で2023年8月から、放射能で汚染された水から放射性物質を取り除いた処理水を海に放出する作業が始まった。しかし、処理水の中には現在の技術では除去が困難なトリチウムが含まれており、国内外からは「放出反対」の声も上がっている。そうした中、放射能除染の研究開発を行う日本企業の株式会社ガブリエルと、東京理科大学の安藤靜敏教授、東京都立産業技術研究センターが、共同研究を行ったトリチウムを除去する方法を発表し、注目を浴びた。新たな手法は処理水に対する根強い不安の声を打ち消すことが出来るのか、研究の成果や今後の展望について安藤教授に話を聞いた。


——処理水からトリチウムを除去する仕組みについて教えてください。

安藤 先ずトリチウム水の中にナノカーボンと珪素の粉末の2つからなる添加物を入れ、均等に混ざる様に50度位で攪拌して、添加物にトリチウムイオンを吸着させます。すると、トリチウムイオンを含む非常に小さな粒子が出来るので、それを別の電解槽に移して、今度は電気分解をします。それによりトリチウムイオンを含む粒子は電極に引き付けられ、安定したトリチウム分子になるので分離・回収が出来る、という仕組みです。電気分解でトリチウムを処理する方法は、これ迄も考えられて来たのですが、その前段階でカーボンと珪素の粉末を加えたのが、私達の工夫です。共同研究をしたガブリエルは、これを汚染水からトリチウムを除去する方法として、日本やアメリカ、イギリス、フランス、ドイツで特許を取得しています。

——先生の専門は本来、原子力ではないのですね。

安藤 東京理科大学の工学部電気工学科に所属しており、材料エレクトロニクス系の分野が専門です。主に半導体材料とエネルギー変換をする材料を扱い、半導体材料の薄膜化やデバイスへの応用、太陽電池の材料の開発といった研究をしています。

——そうした研究の中で、今回のトリチウム除去の方法は、どの様に思い付いたのですか。

安藤 最初は株式会社ガブリエルから、トリチウム除去の方法に関して提案が有りました。そこから色々と調べてみて、私達が着目したのは何かの物質にトリチウムを吸着させるという方法です。その後に電解処理をすれば、電極棒にトリチウムを含んだ物質を吸着させて、分離・除去が出来るかも知れない。トリチウムとは日本語で言うと「三重水素」で、放射性物質には違いないのですが、水素の仲間です。水素と同じ様に酸素と結びついて水になるので、電気分解によるトリチウム除去は以前から研究されて来ました。2018年には、近畿大学と東洋アルミニウムが、熱水処理したアルミニウム粉末を使った多孔質体をフィルターにしてトリチウムを除去するという方法を発表しています。多孔質体とは、炭やスポンジの様に多量の小さな穴を持つ構造を言います。又、京都大学でも酸化マンガンを触媒にして化学反応を起こし、トリチウムを処理するという方法を発表しました。これに対し、私達はカーボンの粉末を使ってみようと考えました。ですから、これ迄の先人の成果を参考にしながら、独自の方法に辿り着いたという訳です。

日本の学会では当初相手にされず

——論文の発表迄、かなり時間が掛かったとか。

安藤 最初は22年に日本原子力学会の『和文論文誌』へ論文を提出しました。その際の回答は「科学的な根拠があまり見られない為、今の段階では不十分で掲載は不可とする」といったもので、私としては「ここがおかしい、ここを直せばいい」といった具体的な指摘が有ると思っていたのですが、どの部分が不十分なのかといった具体的なコメントは有りませんでした。そこで、改めてガブリエルと相談し、一度行った実験を基にして再投稿する事にしました。トリチウム濃度が低い場合と濃い場合を比較、更に何度同じ実験をしても再現性が有るのかといった事も調べ、実験結果にトリチウムが除去されるメカニズムも書き加え、1年後に改めて投稿したのですが、回答は前回と殆ど同じ様なものでした。投稿しても具体的な指摘は貰えない上、「参考文献も読んだ上で審査してくれているのか」と少し疑問に感じた事も有ったので、次は海外の雑誌に投稿する事にしました。


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