厚生労働省の事務方トップと言えば事務次官だ。厚労大臣とも執務室が隣合わせで、厚労行政を二人三脚で進めている。近年は1〜2年で交代する事が多い厚労事務次官だが、60歳前後で退官した後も民間分野で活躍するケースも多い。今回は厚労事務次官の「その後」を追った。
先ずは、この連載コーナー当初から登場した鈴木俊彦氏から始めたい。1983年に旧厚生省に入省した鈴木氏は、年金局長や保険局長等を歴任し、2018年〜20年に事務次官を務めた。何処となく体系等が芸能人のマツコ・デラックスに似ている事から、中堅・若手職員には「マツコ」の愛称で知られた。
現在は日本赤十字社副社長に転身。厚労事務次官OBが嘗て社長に就任した事が有り、状況次第では鈴木氏にも大役が回って来るかも知れない。企業・団体の顧問等も引き受けており、東京大学公共政策大学院客員教授の肩書も有る。現役の厚労省幹部に講師役を依頼する事も有り、「忙しい時に断れない仕事を頼まれて困る」(幹部の1人)というぼやきが漏れる。
鈴木氏の同期の樽見英樹氏は、鈴木氏の退官後事務次官を務め、現在は日本年金機構副理事長に収まっている。社会保険庁総務課長や年金管理審議官を歴任した樽見氏は、年金実務に詳しく、ライフワークの1つでもある。不祥事等危機管理対応にも慣れており、「打って付けの役回り」(大手紙記者)だ。ただ、事務次官経験者が副理事長に就任するのは異例と言えるが、幹部の1人は「今後、理事長に昇格するのではないか」との見方を示す。
大島一博・事務次官の前任者で樽見氏の後任、吉田学氏は現在、日本保育協会理事長だ。1984年に旧厚生省に入省した吉田氏は、首相秘書官を務める等、政策全般に詳しい万能型の官僚だった。とりわけ雇用均等・児童家庭局長と子ども家庭局長を歴任。退官後は損保ジャパン顧問に就任していたが、日本保育協会関係者が「こども家庭庁も発足するタイミングだったので、事務次官経験者の吉田氏を引っ張った」と明かす様に現在の役職に。今後、保育行政に影響を及ぼす存在になるかも知れない。
鈴木氏の前任である蒲原基道氏は、社会福祉法人友愛十字会理事長として活躍している。82年に旧厚生省に入省し、障害福祉課長や障害保健福祉部長時代に、ライフワークとしていた地域共生社会の実現に尽力した。退官後は日本生命特別顧問を務める傍ら、地域福祉活動にも精力的に関わる。
ここ迄は厚労行政での経験を生かし、第2の人生を切り開いて来た事務次官経験者を取り上げて来た。次に紹介する二川一男氏は、やや異色の経歴を辿っている。
80年に旧厚生省に入省した二川氏は、医政局経済課長や医政局総務課長、医政局長を歴任する等医療畑が長かった。2015年から2年弱、事務次官を務め、退官すると自らの人脈を頼りに東レ顧問に就任。その後、現在の社外取締役に就いている。厚労省の関連団体や金融機関に再就職するOBが多い中、素材メーカーに転じる元幹部は珍しい。医療系の団体や法人の顧問等も兼務している。
現在は昔の様に多額の退職金を何度も得られる「わたり」や「天下り」は無くなりつつある。寧ろ人生100年時代と言われる中、今迄の経験を生かして活躍する官僚も増えている。
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