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未来の会

第189回 厚労省ウォッチング

第189回 厚労省ウォッチング

特許が切れ、後発医薬品が出ている先発医薬品(長期収載品)について、患者の自己負担を増やす方針が固まった。後発品の普及を進め医療費削減に結び付けるのが狙いの1つで、長期収載品にメスを入れるのは厚生労働省の長年の課題だった。ただ、後発薬業界は不祥事を機に品薄が続いており、一歩間違うと供給不足に輪を掛けてしまうジレンマを抱えている。

2021年度の国民医療費は45兆359億円とこの20年で4割以上伸びた。薬価は診療報酬改定の度に削減されて来たものの、調剤費は7兆8794億円と17・5%を占める。医療費削減圧力の高まりに加え、岸田文雄・首相が「異次元の少子化対策」の財源の一部を社会保障の歳出カットで賄うと約束した事もあり、周囲から流れは固められていた。慎重だった日本医師会も医師の判断で長期収載品を処方した場合は患者に追加の負担を求めない事を前提に同意した。

今回の方針は、長期収載品と後発品の差額の一定割合を「選定療養」と位置付け、患者の自己負担とするものだ。選定療養とは患者の希望に合わせた公的保険外の「贅沢医療」で、病院の個室料等が該当する。

例えば200円の長期収載品の場合、今の患者負担(3割)は60円。100円の後発品なら自己負担は30円となる。それが今回の改革案では双方の差額100円の25%を追加で払う方向で調整しており、この場合患者の追加負担額は25円で、自己負担額は計85円に膨らむ(選定療養には別途消費税が掛かる)。

厚労省内には「先発品メーカーが収益の上がる特許切れの既存薬に胡座をかいて来た事がイノベーションを阻害して来た」(幹部)との思いが有る。先発品メーカーには経営戦略を「画期的な新薬で儲ける」方向に転換する様促す意向だ。日本の製薬メーカーの競争力が陰る中、政府が6月の骨太の方針で「創薬力の強化」を掲げている事も影響した。

薬価削減を議論する過程で、厚労省は中央社会保険医療協議会(中医協)の専門部会等に4案を示していた。今回の方針に加え、①薬代に「定額負担」を導入、②薬の有効性に応じ自己負担の割合を設定、③市販薬に成分が同じである類似品が在れば自己負担を求める——ものだった。だが実現可能性等が問われ、最終的に長期収載品に斬り込む事で支払い側と診療側の両委員が折れ合った経緯が有る。

長期収載品と後発品は「成分・薬効が同等」とされている。しかし、癲癇等の患者では後発品に切り替えた際に症状が悪化する例が報告されている。効能が異なるケースも有り、中医協では診療側が「処方権を持つ医師の医学的判断の重視」(長島公之・日本医師会常任理事)を主張。支払い側も「『医師の判断の妥当性』の担保が必要」(松本真人・健康保険組合連合会理事)とクギを刺しつつ、これを受け入れた。

ただ、後発薬業界を巡っては、小林化工、日医工、沢井製薬等の製造・品質に関わる不正や問題によって薬の供給不足が生じ、医療現場では診療に支障を来している。長期収載品の自己負担が増えれば後発品を希望する患者は更に膨らむ事が予想され、導入時期を遅らせても品薄が解消されるかは不透明だ。

厚労省は中小がひしめく後発品業界の再編を通じて安定供給を図る事も意図しているが、後発品メーカーにはオーナー企業も多く行政主導による再編は容易ではない。日医関係者は長期収載品を斬って後発品へ切り替えを進める事に関し「医療現場の混乱に拍車を掛ける可能性は否定出来ない」と話す。

厚労省幹部は今回の方針について、「後発品を不安視し、既存薬に拘る人は未だ多い。結局は後発品の品質への信頼を高めて行かないと絵に描いた餅になる」と漏らしている。

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