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未来の会

第182回 政界サーチ ドラゴンイヤーの政局展望

第182回 政界サーチ ドラゴンイヤーの政局展望

2024年の正月を迎えた。干支は甲辰(きのえたつ)である。60年を一区切りにする十干十二支では41番目に当たる。甲は十干の最初で、厚い殻に守られた状態を表し、物事の始まり等を意味する。辰は「振」に由来するとされ、万物が振動し、活力が旺盛になるという意味だそうだ。辰とは干支の中で唯一、想像上の生き物である竜の事である。霊獣であり、権力の象徴である。何かが起こりそうな、ドラゴンイヤーが始まる。

 東洋人にとって、竜は格別の存在であり、政治、宗教、文化など広範な分野と関わりがある。文献・伝承も豊富で、調べ始めたらきりが無いので、今回はほんの端緒である。

 人類が竜を表現したと見られる最古の物は、現在の中国・内モンゴル自治区、遼寧省西部等で、紀元前4700〜2900年頃に栄えた紅山文化の墳墓から出土している。鉱物を彫った装飾品で「玉竜」と呼ばれている。アルファベットの「C」に似た外形で、タツノオトシゴの様な頭が付いている。紅山文化では、動物を彫った装飾品が多数見つかっており、当時生息していたワニではないかとの説も在るが、神の姿を彫ったとされる装飾品も出ており、畏敬の対象だった事は間違いない。墳墓の副葬品という点を踏まえれば、「竜」と見て差し支えないだろう。

 『史記』『荀子』『淮南字』など著名な中国文献にも竜に関する記述は有るが、興味深いのは「水にすむ虺(き)は500年で蛟(こう)となり、蛟は1000年で竜となり、竜は500年で角竜、1000年で応竜となる」との『述異記』である。竜にも成長に応じて段階が在り、天を舞う応竜になるには3000年の歳月が必要だというのだ。簡単に神獣にはなれないのだ。虺はマムシ、蛟はワニと解釈する古文書も在るが、竜は中国皇帝のシンボルなのだから、その厳しい道程を示唆する『述異記』に惹かれる。

 日本にも、初代の神武天皇は竜の腹から生まれたという神話が在る。面白いのは『魏志倭人伝』である。倭人が入れ墨をしているのは水棲生物の難を避ける為だと記している。当時の中国では、入れ墨を蛟竜除けにしている事から、そう推測したらしい。日本人の入れ墨を水を支配する竜への畏敬と捉えたのである。

辰年は大事件、総選挙多発

 端緒が長くなった。干支に戻そう。中国では辰年は良くない事が起こるとされている。日本はどうかというと、確かに世間を揺るがす大事件が多く起こっている。戊辰戦争(1868年)、日露戦争(1904年)、皇居前でデモ隊と警官隊が衝突した血のメーデー事件(1952年)と血生臭い。政界では、ロッキード事件(1976年)、リクルート事件(1988年)の大疑獄事件が起きている。戦後6回しかない辰年の内、4回は総選挙が行われており、大乱の匂いプンプンである。

 東京五輪(1964年)、青函トンネル・瀬戸大橋開業(1988年)、東京スカイツリー(2012年)等の大規模プロジェクトや、その後の日本アニメやゲームに大きな影響を与えた「ドラゴンクエストⅢ」の発売(1988年)、2000円札発行(2000年)等も辰年だった。今年は7月に20年振りとなる新札が発行される。干支に科学的根拠など無いが、何やら因縁めいていて、気にならないと言えば嘘になる。

 辰年の政界は勿論波乱含みである。岸田文雄首相は4閣僚の交代を余儀なくされ、瀬戸際の政権運営を強いられているし、ロシアのウクライナ侵略、イスラエルとイスラム組織「ハマス」の紛争も泥沼化の様相となっている。正に、内憂外患の状態である。混迷するドラゴンイヤーの秋には岸田首相が再選を望む自民党総裁選が控えており、衆院解散・総選挙絡みの政局が展開される構図だ。

 唯でさえ、難しい政局に「牙」を持った新たなプレイヤーも参戦している。東京地検特捜部である。自民党5派閥の政治団体が政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に過少記載したとする告発状を受けての捜査だが、此処暫く鳴りを潜めていた最強の捜査機関の狙いを巡り、自民党内に不穏な空気が広がっている。

地検特捜部の参戦で政局混迷?

中堅議員が語る。

 「政治資金収支報告の齟齬だけで特捜部が動く筈は無い。修正報告し、後処理をすれば済む話だからね。特捜部は派閥領袖クラスとか現職閣僚の逮捕を目論む組織だが、明確なターゲットは思い浮かばない。とすれば、狙いは国民に人気の無い岸田政権ではないか。世直しと称して、政治介入を好むから。特捜部の狙いは現政権の崩壊と刷新ではないかと、私は疑っている」

 特捜部の動きに呼応する様に、ポスト岸田を目指す陣営の動きも活発化しつつある。真っ先に動いたのは、高市早苗・経済安保相である。ポスト岸田狙い見え見えの勉強会の初会合を開き、党内から「内閣の一員が不謹慎」と批判されると、「担務外の政策を同僚議員と一緒に勉強する事の何が悪いのか、意味が分からん」と猛反発した。因みに、この人は丑年である。思い込んだら止まらない性質らしい。

 昨年の年初、当欄で政局のキーマンとなる「潜水艦」と「ステルス戦闘機」と紹介した二階俊博・元幹事長と菅義偉・前首相も森山裕・総務会長を交えて密談を重ねている。関係者によると、二階元幹事長は手の平をひっくり返す素振りを見せたという。菅前首相も首相批判を繰り返し、石破茂・元幹事長、河野太郎・行革担当相、小泉進次郎・元環境相らとの連携を仄めかしたとされる。非主流派が〝反岸田の会合〟を開くのは当たり前だから、殊更、強調する必要は無いのだが、特捜部の動きが自民党を揺らしている事実は見逃せないだろう。

 特捜部の狙いについて、岸田首相に近い自民党幹部は「政治資金法は抜け穴だらけのザル法だと何度も批判されて来た。物価高で国民が困っている現状を踏まえて、政治家も身を正せという事だろう」とシンプルに分析している。ただ、岸田政権の減税策に猛反発している財務省始め、特捜部を含めた官界の岸田政権離れも、このところ感じているという。「このままでは政権崩壊が始まってしまう」と自民党幹部は気を揉んでいる。

 岸田政権のドラゴンイヤーをじっと見定めているのは、麻生太郎・副総裁だろう。やんちゃなボンボン気質が抜けない御老人だが、政局に聡く、岸田政権の守護神的存在である。派閥内には、ポスト岸田最有力と目される河野行革担当相を抱えており、いざとなれば岸田首相の切り捨ても可能な立場に居る。麻生副総裁は1940年の辰年生まれで、菅前首相や二階元幹事長ら実力者と渡り合える政界ドラゴンの最長老だ。

 岸田首相周辺が語る。「前回の総裁選で、河野さん(行革担当相)の出馬を思い止まらせようと、麻生さんが言った〝今やると短命で終わるぞ〟という言葉が引っ掛かっている。現状は岸田政権の守り神だが、岸田さんで行くとこ迄行ったら、後は河野さんに切り替え、新首相で総選挙と考えているのではないかと。良くも悪くも、麻生さんがどう動くかで、政局が変わりそうな気がする。期待も不安もある。岸田さんも其処は分かっている筈だ」。 

 ドラゴンついでにもう1つ。支持母体である創価学会の池田大作・名誉会長の死去という節目を迎えた公明党である。カリスマ的な名誉会長の死で、集票力も200万票減るとの厳しい予想もされており、党勢立て直しが大きな課題になっている。山口那津男代表は1952年の辰年生まれ。世代交代が囁かれる秋の代表選と共に現在の自公体制の行方も見所となるだろう。

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