早いもので、2023年も残り1カ月。今年を総括する意味で、メンタルヘルスに関する大事な数字を書き留めておこう。
まずは患者数から。厚生労働省が3年に1度行っている患者調査によると、20年時点の精神疾患の推計患者数は614万8000人(外来586万1000人、入院28万8000人)。日本国民の20人に1人が精神疾患で治療中ということになる。
近年の診療間隔の長期化に伴って、この年の患者調査から外来患者数の推計方法が変わった。平均診療間隔の算定上限を14週(98日)まで広げて計算するようになったのだ。このため、過去の数字との単純比較はしにくいが、18年前の02年は推計258万4000人だったので、精神疾患の患者数が異様な伸びをみせていることは間違いない。
なぜこんなことになるのか。「社会の生きづらさが増している」「以前よりも精神科に行きやすくなった」「精神科医が患者をきちんと治していない」「精神疾患の過剰診断が横行している」などなど、様々な要因が考えられる。これらが複合的に絡み合い、異常事態を生じさせているのだ。
11年発表の調査では、精神疾患のために生じる社会的コストは11兆3756億円とされた。この当時の推計患者数は320万人。以後の急増は既に書いた通りなので、社会的コストは更に増大している。精神医療の質の向上は急務であり、国は成果を上げる取り組みや優れた医療機関にもっと金を投じるべきである。
だが、口で言うほど簡単ではない。致命的なのは、精神科は治療成績がさっぱり分からないことだ。患者も家族も困り果てている。そんなブラックボックスに紛れてヤブ精神科医たちが地雷のように散在し、やる気のない診察や過剰診断、妙な投薬を繰り返して精神医療の足を引っ張っている。精神疾患はもはや国民病なのだから、治療成績の出し方を、国を挙げて検討するべきだろう。
ひきこもりの増加も止まらない。22年の内閣府調査では、若年層(15歳から39歳)も、中高年層(40歳から64歳)も、約2%(50人に1人)がひきこもり状態にあり、合計数は146万人に上ることが分かった。この数は、さいたま市や京都市の人口を上回っており、これら政令市の市民全員がひきこもっている光景を想像すれば、尋常ではない状況をイメージできるはずだ。
ひきこもりを長期間続ける人には、うつ病、発達障害、PTSD(複雑性PTSDを含む)、統合失調症、双極性障害などの併存がみられることが少なくない。とはいえ、ひきこもる行為自体は病気ではない。そもそも精神症状は、存在するだけでは病気にならない。その症状のために、本人が強い苦しみを感じていることが診断の必須条件であり、それによって治療的介入が必要な「病気」(ひきこもりの場合は「病的ひきこもり」)として扱われるのだ。
今後、オンラインで完結可能な仕事は増え続け、仮想現実が急速に広がっていく。そのような近未来では、ひきこもりは「治すべきもの」ではなく、「最適なライフスタイル」になるのかもしれない。そう考えると、日本は世界の最先端を走っているともいえる。このチャンスをどう生かすか。柔軟な発想転換こそが、24年も続く世界的な動乱を切り抜けて、新たな時代を創るカギになるのではないだろうか。
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