学生の若い感性で患者に癒やしの時を
243 医学研究所北野病院(大阪府大阪市)
明治・大正時代に日本の繊維業界を牽引した大阪実業界の実力者、田附政次郎からの寄付を基に設立された公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院は、2025年に法人(設立当初は財団法人)設立から100年目を迎える。
北野病院は京都帝国大学(当時)の臨床医学研究用施設として1928年に開院し、戦中戦後の困難を乗り越えながら、急性期総合病院へとして発展して来た。現在のモダンな外観と開放感溢れる院内環境を持つ病院は、旧施設が長年の増築・増床を経て老朽化した事等を鑑み、2001年に新築移転して生まれ変わった姿である。
院内の各フロアには洋画家の故・池畠利一氏の遺族から寄贈された多くの絵画が展示され、芸術の力を取り入れる取り組みも行われている。
北野病院で新たなホスピタルアートのプロジェクトが始まったのは21年。新館完成を機に本館のリノベーションが決まったのが切っ掛けだった。NICU(新生児集中治療室)とGCU(新生児治療回復室)を、患者や付き添いの家族がゆったりとした気持ちで落ち着いて診療を受けられる空間にしようと、施設内の壁面に絵を描く事になった。
NICUとGCUへのホスピタルアートの導入は、京都大学医学部附属病院で先行事例が有り、19年から京都造形芸術大学(当時)の学生らの協力を得て進められた。北野病院の稲垣暢也理事長は、京大病院で病院長を務めており、そうした経験から、今回のリノベーションでも「学生の力を借りたい」と京都芸術大学に依頼したという。一方の大学でも、09年から「Hapii+プロジェクト」として活動を積み重ねており、ホスピタルアートに関心を持つ学生が多く、依頼を快諾。1年生を中心に30人が参加した。
学生は病院関係者とのヒアリングの中で得た「先ずは“生まれてきてありがとう”を伝えたい」という言葉から、子供の誕生の喜びを動物の親子とリボンで表現したデザインを発案。生まれたばかりの乳児を治療の為に母親から引き離し、時には命を救えない事も有るNICUは控えめな図柄にし、回復期に移るGCUでは喜びや期待が感じられるデザインにする等の工夫も凝らした。
完成すると、優しさが溢れる動物親子の絵がスタッフからも好評で、小児科医の秦大資病院長は「働く看護師の表情が見違える程穏やかになった」と言う。又、学生は壁面のデザインだけでなく、医師や看護師が母親に渡す「成長記録シート」とカード等に押すゴム印、家族の「面会カード」のデザインも考案した。治療の為、我が子の成長を実感出来ない家族に、日々の成長を伝えるツールとして活用されている。
リノベーション後もホスピタルアートの取り組みは続いており、23年にも患者の癒やしとなるアートの計画が進んでいる。アートが生み出す癒やしの力も得て、「大阪市民に最新医学の恩恵を与えん」と希望した100年前の田附氏の意思を未来に繋げて行く。
243_医学研究所北野病院
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