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未来の会

第187回 厚労省ウォッチング 迫る診療報酬改定、改定率巡りぶつかる思惑

第187回 厚労省ウォッチング 迫る診療報酬改定、改定率巡りぶつかる思惑

年末が近付き2024年度診療報酬改定の足音が聞こえる中、厚生労働省内からは「24年度改定は方程式が複雑だ」(幹部)との嘆きが漏れて来る。

 恒例の年末の改定率決定に際し、今回はインフレや賃上げへの対応等プラス改定の要素と、少子化対策予算への配慮等マイナス改定の要素が複雑に入り乱れている為だ。24年度は介護、障害福祉サービス等報酬が加わる「トリプル改定」の年でもあり、新任の武見敬三・厚労相も「とんでもなく難しい」とぼやいている。

財務省は9月27日、財政制度等審議会で一風変わったジャブを打ち出した。全国の診療所の1回当たりの医療費が22年度はコロナ関連の補助金を除外しても7841円に上り、新型コロナウイルス禍の影響が小さい19年度に比べ13%も伸びた、というのだ。

一方、医療関係者は、近年の物価高騰や賃上げを理由に改定率アップを主張している。しかし、19年度以降の「13%増」は、この間の年平均で4・3%増となる。特例のコロナ外来向けの診療報酬上乗せ分も反映されているものの、財務省は診療所の収入の伸びが物価上昇率を上回っていると強調し、診療報酬単価の引き下げの必要性を唱えた。

財務省は更に、コロナ関連の補助金で病院が潤っている、と見て強気に出ている。19年度の病院の経常利益率は0・6%の赤字だったのに、21年度には7・5%の黒字に転じているという訳だ。通常、診療報酬の改定率は介護報酬を上回って来るが、介護施設にコロナ関連の大型補助金は無い。厚労省幹部は「初の逆転も有り得る」と話す。

これに対し、病院3団体は9月15日、23年度の病院経営調査の収支速報を公表。経常利益からコロナ関連補助金を除くと、4〜6月の赤字病院は66・7%に達し、前年同期より5ポイント近く悪化した、等と反論した。9月でコロナ関連の補助金が終わる事に加え、水道光熱費、感染対策費、人件費増等も踏まえ「入院基本料の引き上げが必要」と強く訴えている。

今回はこうした例年の様な医療機関の経営状況を巡る対立に止まらない。

政府は当面3・5兆円を投じる「異次元の少子化対策」の財源として、社会保険料への上乗せを検討する反面、トータルで保険料は上げない、としている。実現するには診療報酬に手を付ける必要も出て来る可能性が有り、その場合中心は薬価の削減になると見られる。

薬価を巡っては、20年度に保険適用された、1人の患者に億単位の費用が掛かる脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ」等、近年は高額な医薬品の承認が相次いでいる。23年度も近く、抗アルツハイマー薬「レカネマブ」が承認され、薬価は100万円単位になると見られている。22年度の概算医療費は過去最高の46兆円に達しており、厚労省幹部は「このままだと保険財政が相当厳しくなる」と漏らす。

が、一方で政府は「創薬」推進を掲げている。健康・医療戦略室の体制を強化。製薬企業を支援し、世界で通用する画期的な新薬の開発に結び付けて国際競争力の向上を図るのが目的だ。

日本の製薬企業の低迷の一因は相次ぐ薬価引き下げによる開発意欲の低下とされ、薬価を大きく引き下げるなら「創薬」の流れに逆行する。海外で使える薬を日本で使えない「ドラッグ・ラグ/ロス」問題の解消も迫られているが、製薬業界は「高い薬価を設定し、維持される仕組みを設けないと外国企業には日本が魅力ある市場に映らない」と主張している。

プラスかそれともマイナスか、方向性が相反する中、診療報酬改定を巡る攻防はこれから本格的な戦いに突入する。注視に値する。

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