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未来の会

第180回 政界サーチ 減税と解散風 臨時国会の行方

第180回 政界サーチ 減税と解散風 臨時国会の行方

厳しい残暑から一転して、肌寒くなった東京・永田町にまたぞろ解散風が吹いた。内閣改造をやっても経済対策を打ち出しても支持率回復に結び付かない岸田文雄・首相が、遂に「伝家の宝刀」を抜くのではないかとの憶測が背景にある。但し、解散の可能性については、与党内の見方も「先ず、あり得ない」から「可能性は高い」迄バラツキが有り、強風なのか微風なのか判然としない。臨時国会中の解散も有り得るし、来年以降に持ち越し、自民党総裁選前の解散も考えられる。与党内の有力説から展望してみる。

 先ずは、臨時国会冒頭解散を含めた早期解散説である。

 自民党幹部が語る。

 「岸田首相は秋の内閣改造を『自分の最後の内閣にしたい』と言っていたという。これは信頼出来る筋の話だ。つまり、内閣改造後に解散に打って出る覚悟だったという事だ。ところが、自分が思い描いた人事が出来ず、選挙をやるには魅力不足の布陣になった。党内有力者の横槍のせいだと言われている。解散風は前段の〝最後の内閣〟が起点となって吹き、改造後に一旦萎んだが、岸田首相の腹の中では未だ燃えていて、その後、減税など人口に膾炙する発言を続けて、期を窺っている。タイミングが合えば解散に打って出る」

 内閣改造で自分の理想とする布陣を整え、一気に勝負に出ようとしていたとの観測は他にも複数有る。ロシアのウクライナ侵攻を巡る戦乱が続き、政界経済の先行きが不透明な中、早目に2期目への足掛かりを固めるのが得策だという戦略的な見立てが有るからだ。

 岸田首相が打ち出した経済対策や人事という事実の積み上げから早期解散を予見する声も有る。

 岸田首相に近い中堅議員が語る。

 「所謂年収の壁の打破や賃上げした企業の減税制度の強化等、相次いで表明した減税策をどう捉えるかだが、国民や企業へのサービス強化なのだから早期解散の布石と見るのが自然ではないか」

 岸田首相は秋以降、経済対策と合わせて盛んに「減税」を強調している。岸田首相は就任以来、やれ防衛費の増額だ、異次元の少子化対策だと多額の財源が必要な政策を打ち出し、「増税」の匂いをぷんぷんさせて来たが、減税への言及は殆ど無かった。唐突な減税発言には含む所が有るというのだ。

 これに呼応して、自民党の森山裕・総務会長が「税に関する事は国民の審判を仰がなければならないので、どうなって行くのかが非常に大事だ」と発言した事が「早期解散説」に輪を掛けた。

 人事で注目されたのは、内閣改造で、矢田稚子・元国民民主党参院議員を賃金・雇用担当の首相補佐官に起用した事だ。当初から、財界や労働界に波紋を広げた岸田流人事だが、矢田首相補佐官の経歴から、〝維新つぶし〟を感じ取った永田町雀が解散・総選挙への布石と吹聴している。

労組取り込みで関西自民を支援?

 矢田首相補佐官は松下電器産業(現・パナソニック)を経て、2016年の参院選比例区から労組「電機連合」の組織内候補として民進党公認で出馬し、初当選。22年の参院選では国民民主党から立候補して落選している。岸田政権は国民民主党の取り込みを模索しており、政権地盤の強化策の一環なのだが、労組を支持基盤にしている野党陣営へのダメージも狙った巧妙な仕掛けになっている。

 先の自民党中堅が語る。

 「賃上げという大義の為に矢田さんを取り込んだ事で、国民民主党を支援している電機連合や自動車総連等4つの民間産業別労働組合を政権寄りに誘導する事も念頭に有る。国民民主党との連立が出来なくても、産別を上手く取り込めばどうなる。野党はガタガタだ。これを選挙の布石と言わずして何と言う」と自慢げに解説する。

 自民党選対幹部は、もう少し深い見方をしている。

 「パナソニックの活動は関西が中心で、日本維新の会の地盤と重なる。次期衆院選を睨み、維新に押さえ込まれている関西の自民党へのテコ入れには持って来いの策だよね。関西人はカネの話に敏感だから、減税も効果抜群じゃないの」

 維新は元々、菅義偉・前首相らと近い間柄だから、非主流派を押さえ込むのも当然、念頭にあったと見られる。少し、多面展開を期待し過ぎているものの、1つの人事に込めた狙いは確かに巧妙である。懸案だった旧統一教会問題についても、岸田政権は教団の解散命令を出す方向で、解散・総選挙の準備は着々と進められていると見ていいだろう。

 問題は、如何に野党や非主流派を押さえ込む策を講じても、岸田政権の支持率回復には容易に結び付かない事にある。人気が無いのだ。背景に有るのは、防衛費や少子化対策でちら付く将来的な「増税」と現下の異常な物価高だろう。バブル経済崩壊の苦い経験もある。美味い話には裏が有ると感じているのかも知れない。

 早期解散否定派の見解を聞いてみる。

 自民党非主流派の重鎮が語る。

 「旧統一教会への解散命令も減税策も国民の目線を気にしての事だろう。パッと見は良いが、何処か〝取って付けた感〟が有る。防衛、少子化対策で負担をお掛けするかも知れないが、賃上げや減税もきちんとやるから安心して欲しいと、最初から言っていれば少しは信用出来るが、追い込まれて言わされている様な風情だ。解散・総選挙という大舞台にはそぐわない感じだ。重大な決意で臨む風格が無い。つまり、やれないという事」

 かなり突き放した見方だが、国民の信を問うという厳粛な行為には岸田流は何処か物足りない。重鎮は更に突っ込んだ。

 「内閣改造後に解散に打って出るという話は側聞している。でも、岸田首相が描いた内閣改造・自民党人事は出来なかった。邪魔したのは麻生太郎・副総裁や森喜朗・元首相ら主流派の面々だという。身内から押さえ込まれている訳だ。麻生副総裁は派内に総裁候補の1人、河野太郎・デジタル相を抱えているし、森元首相は次は安倍派だと思っているから、早い時期から岸田首相の続投に道筋を付けさせる訳にはいかない。それぞれ事情と思惑が有るんだ。〝オンブお化け〟が邪魔するから、そう簡単に解散は出来ない」

 「思い描いた内閣改造が出来なかった」という事実を巡り、冒頭の自民党幹部は「それでも解散の機会を窺っている」と分析し、非主流派の重鎮は「最早解散出来る状態ではない」と見定めている。同じ事案をどう解釈するかで、正反対の結論が導き出されている。前者は首相の専権事項を尊重する考え方、後者は自民党の結束こそが大事との考え方だから、表裏それぞれに一理有る。

 国民の反応はどうかというと、中小事業者から反対の声が出ていた「インボイス」(適格請求書等保存方式)が始まる直前に岸田首相の政治団体の政治資金収支報告書で10万円の寄付の記載漏れが見つかった事等から、芳しくない。「事務的なミス」と弁明したものの、昨年11月にも収支報告書の不備が指摘されおり、SNS等で手厳しい攻撃を受けた。こんな感じである。

〝増税メガネ〟って誰の事?
X(旧・Twitter)にトレンド入りした「増税メガネ」

「お前が間違えていて国民には複雑なインボイスやれっていうのか」

 「〝ミスでした〟で済むから増税メガネは楽だな」

 苦心惨憺して「減税策」を打ち出したのに、あろうことか「増税メガネ」という不名誉な称号まで頂いてしまったのだ。SNSは表現が誇張されがちだから、実質はもう少し温和なのだろうが、岸田政権歓迎の機運が乏しいのは事実だろう。

 「物価高に円安のダブルパンチだ。安倍さん(晋三・元首相)の遺産であるアベノミクス(金融緩和)の呪縛が解けない限り、せっかくの経済対策も効果は限定されるだろうな。解散風を吹かせながら、やり繰りする岸田流を続けるしかないんだろう」。自民党長老は「臨時国会での解散は7対3で無いだろう」と予測するが……。

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