身体も心も癒す院内アートの力
242 春日部市立医療センター (埼玉県春日部市)
春日部市を中心に埼玉県東部で長年、医療の中核を担ってきた春日部市立病院が老朽化の為、再整備に着工したのは2014年。2年後の16年3月に、1.5倍の延べ床面積を持つ同市立医療センターとして、新たなスタートを切った。
新病院のコンセプトは「やさしい病院」。拠点病院の機能や災害対応を強化すると共に、利用し易く快適な病院の実現を目指した。医療体制では、地域がん診療連携拠点病院として高度ながん治療を提供する為、集中治療室(ICU)を整備し、化学療法室の拡充やPET-CTの導入、緩和ケア病床の新設等を行った。17年6月には手術支援ロボット「ダビンチ」を導入し、23年度からは直腸がんの手術も開始。今後も対象疾患を拡大して行く予定だ。
施設面では、ユニバーサルデザインやバリアフリーを徹底した他、患者向けのラウンジや屋上庭園を配置する等、来院者や職員が安らげる環境の整備にも取り組んだ。病院4階に在るラウンジはアートギャラリーになっており、毎年秋に開催される「春日部市美術展覧会」の入賞作品を定期的に入れ替え、常時展示している。そして、病院内でアートに触れられるのはこのラウンジの一角だけでは無い。新病院の建設に当たりホスピタルアートの導入を図り、院内の至る所で作品を目にする事が出来る様にした。特長は、市ゆかりの芸術家が全面的に協力している事だ。今回、アート導入に際して検討会議の座長を務めたのは、市内在住で、髹漆(きゅうしつ)作家として人間国宝に認定された増村紀一郎氏。コンセプトを「春の日だまり」とし、「からだとこころを癒すアートのたたずまい」をテーマに掲げた。
髹漆は漆工芸の一種。増村氏は1階エントランスホールのガラス面に色漆のシートを貼って「大空の景」という作品を制作した。自然豊かな春日部の四季の風景を、雲で抽象的に表現したという。同じエントランスホールには、春日部市の教育委員を務めるフレスコ画家の金森良泰氏の作品も掲げられている。「金彩華」「銀彩華」というタイトルで、春爛漫の花の絵に、多くの人が未来を想像して元気に歩んで欲しいとの願いを込めた。
又、日本を代表する彫刻家の1人、加藤豊氏の作品「時のやすらぎ」もエントランスホールに飾られており、花を持つ少女と子犬と戯れる少年の姿が来院者の心を和ませている。
そして緩和ケア病棟では、東京藝術大学ガラス造形研究室の教授や学生らが制作したガラス作品をドアガラス等に採用。海や花、春といった自然をイメージした作品が、あまり外出が出来ない患者らの目を楽しませている。この他にも、屋外のエントランス広場やみちの広場のオブジェ、院内の壁に描かれた動物の絵等が、患者や家族に安らぎや希望を与えている。
「春の日だまり」を思わせる温かみに満ちた病院で、身体だけでなく心も癒やし、生きる力や希望を手にして帰って行く。そこには先進医療だけでは得られない安心と安らぎが有る。
設計:(株)昭和設計、建築・施工:大成・正和JV
242_春日部市立医療センター
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