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未来の会

第32回「精神医療ダークサイド」最新事情 大麻使用罪で若い前科者を増やすのか

第32回「精神医療ダークサイド」最新事情 大麻使用罪で若い前科者を増やすのか
深刻な市販薬依存の対策は放置

医療用大麻を解禁する国が増えている。国連麻薬委員会が2020年暮れ、薬物分類の中の「特に危険で医療用途がない物質」から大麻を削除すると決めたことが追い風になった。

日本では難治性てんかんの治療を目的に、大麻草由来のカンナビジオールを有効成分とする医薬品エピディオレックスの治験が始まった。大麻取締法の改正案が国会で成立すれば、大麻草由来の医薬品の使用が可能になる。

だが、取り締まり強化の動きもある。改正案には「使用罪」の新設が盛り込まれる見通しなのだ。若者を中心に広がる大麻使用に歯止めをかける狙いのようだが、薬物対策を刑罰でしか考えられない発想は古臭く、かえって有害だ。

今夏、日本大学アメフト部の部員が大麻取締法違反などの疑いで逮捕された。テレビは、この部員の実名や顔写真までも晒した。同時期に札幌で発生したススキノ頭部切断事件の容疑者と同格の扱いである。問題の多いこの大学の経営陣に厳しい目を向けるのは当然だが、若気の至りの学生までも魔女狩りのように痛めつけるメディアには、大麻所持など比較にならないほどの狂気と罪深さを感じる。

国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さんは「警察官が大麻所持で逮捕されても顔写真など晒さない。ところがこの学生は、罪の重さをはるかに超えるデジタルタトゥーをマスメディアによって残されてしまった」と語る。

日本の大麻取締法はGHQの意向でできたのだが、米国のバイデン大統領は22年10月、「大麻の所持を理由に人々を刑務所に送ることで、あまりにも多くの人生を一変させてしまった」などとして、大麻の単純所持で連邦法の有罪判決を受けた人たちに恩赦を与えると発表した。

薬物依存に陥る人の多くは、トラウマや生きづらさを抱えている。そこに目を向けぬまま処罰すると、孤立や生きづらさが更に増して再使用につながる。

大麻は精神依存が指摘されるものの、アルコールやニコチンよりも遥かに有害というわけではない。闇で出回る危険な粗悪品をなくすため、ドイツは24年、嗜好用大麻を合法化して流通の公的管理に乗り出す。「大麻はゲートウェイドラッグになる」との指摘もあるが、それならば酒や市販薬なども同時に規制強化しないと解決しない。

松本さんは「市販薬が若い女性のゲートウェイドラッグになっている。微量なので認められているが、覚せい剤などと同様の成分を含むものもあり、多量に飲めば当然問題が生じる。市販薬の成分には、医者が使用を避けるような古いものも使われていて、もはや良い薬物(合法)、悪い薬物(違法)という区別は意味をなさない。大麻の取り締まりで若い前科者を増やすよりも、やるべきことは他に沢山ある」と指摘する。

今春、千葉県松戸市のマンションから女子高校生2人が飛び降りて死亡した。悩みを抱える2人は多量の市販薬をアルコールで服用したとみられ、自殺の瞬間を動画配信していた。

日本では10代から30代の死因のトップは自殺(40代でもがんに次ぐ2位)である。生きづらい若者たちが集まる場所には、市販薬の包装シートや空箱などが散乱している。次は大麻を使うかもしれない彼らに、刑罰をちらつかせることしかできない社会では、希望など抱けるはずがない。

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