2024年度の診療報酬改定を巡り、入院時食事療養費の取り扱いが焦点の1つに浮上しつつある。同療養費が25年以上据え置かれている事に業を煮やす診療側に対し、支払い側は慎重な姿勢を崩していない。「異次元の少子化対策」の財源捻出に躍起の官邸サイドの思惑も相俟って、厚生労働省が頭を痛める場面も続きそうだ。
昨今の物価・光熱水費・人件費急騰の中で「給食の継続・維持」が極めて困難な状況である——。7月12日、日本病院会等で作る四病院団体協議会(四病協)は加藤勝信・厚労相宛ての要望書を提出し、入院時食事療養費の抜本改革や、それ迄の間の適正水準への引き上げを強く求めた。
入院時食事療養費は公的医療保険からも給付される。「食事による栄養補給は診療の一環」という理屈からだ。「公定価格」は1997年の消費増税(3%から5%)時に20円増の1920円(1日3食分、1食640円)となって以来、変わっていない。但し、「調理費」名目の徴収等で患者の自己負担はアップしており、現在は1食640円に付き、患者が460円を、医療保険が180円を負担している。
日本メディカル給食協会の集計によると、食材費は10年前の13年を100とした場合、22年は107・3迄上昇、病院(150床以上)の給食業者への委託費は15年10月が1日当たり1752円だったのに対し、22年10月は2158円と406円アップして既に公定価格の1920円を上回っているという。
公定価格だけにコスト増分の上乗せは出来ず、病院からは「質の維持が難しい」との悲鳴が上がる。採算が合わず、契約を断って来る給食業者も少なくないという。
病院側が入院時食事療養費の引き上げを求めるのは今に始まった話ではない。しかし、食事はほぼ全入院患者に対する毎日のサービスでもある。引き上げには莫大な財源を要する為、厚生労働省は躊躇し続けて来た。
昨今の物価高を踏まえ、同省内にも入院時食事療養費の引き上げを容認すべきだとの声は有る。ただ、そこに官邸が見据える「少子化対策財源を捻り出す為の医療・介護費削減」が影を落としている。
05年10月、介護施設入居者の食費は介護保険の給付対象から外れ、全額自己負担となった。「在宅で介護を受けている人は食費を全額自己負担している」として、施設入居者を特別扱いすべきでない、というのが厚労省の論理立てだった。
その後、介護施設の食費と整合を取るべく、入院時食事療養費も保険給付対象から外す事を求める声は強まった。だが厚労省は「病院食は治療の一環だ」と反論し、今に到る迄首を縦に振っていない。
それでも支払い側等が訴える「食事は入院していようがしていまいが、必要なもの。保険で給付すべき内容か」との圧力は高まりつつある。診療報酬に関与する政府の審議会のある委員は「治療に密接に関わる特別食のみ保険給付すればいい」と言う。
少子化対策の財源として、財務省は当然こうした声に乗っかって来る。四病協を含む医療団体は「病気や障害で苦しむ方々の為の財源を切り崩してはいけない」との声明を出しているものの、「社会保険料については少子化対策で増す分、別の部分を削ってトントンに」というのが岸田文雄・首相の意向だ。
厚労省幹部は「入院時食事療養費は1日3回、毎日の話。患者の負担が大きくなり過ぎる事には慎重であるべきだが、介護施設の食費との違いをもっと強く打ち出さないといけない」と話す。
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