人の痛みを癒やす願いと祈りの結晶
240 四国こどもとおとなの医療センター (香川県善通寺市)
四国4県の各県庁所在地から約2時間以内という交通の要衝に位置する香川県善通寺市に在る独立行政法人国立病院機構四国こどもとおとなの医療センターは、2013年に成人医療を提供していた善通寺病院と、小児・成育医療を担っていた香川小児病院が統合して発足した。
新病院建設当初からホスピタルアートの推進を目標に掲げており、病院の外壁には地元、善通寺に在る樹齢1200年のクスノキをモチーフにしたカラフルな樹木が描かれ、院内にも壁画や絵画作品、家具など様々なアートがちりばめられている。
そもそもホスピタルアートは香川小児病院で09年に始まった。児童思春期病棟では、苛立った患者によって壁が何度も傷付けられ、修復の跡が至る所に残っていた。その壁を綺麗にしようと、病棟の患者や医療スタッフ、ボランティア、画家が協力して壁画を描いたのが取り組みの出発点だ。
壁画を描く事で、病棟が明るく清潔になっただけでなく、思わぬ副産物も得られた。病棟の雰囲気が穏やかになり、壁を傷付ける人も居なくなった。更に取り組みがメディア等に注目される事によって、スタッフの間にも病院の運営に積極的に関わって行こうという意識が生まれた。
こうした事から統合後の新病院でも、香川小児病院でアート制作の中心となっていた写真家の森合音(もり・あいね)さんをアートディレクターに迎え、病院全体でアート活動に取り組む事になった。「地・水・火・風・空」の5つのコンセプトには、院内に自然のエネルギーを取り入れたいという願いが表現されている。「地」は院内のサイン計画、壁画、造形物等、環境のベースとなるものであり、患者に安心感を感じて貰う事を目的としている。「水」は命を育む羊水をイメージし、南側庭園のデザインは母のお腹の中に宿る胎児を表現している。「火」は患者の心に火を灯す様な感動を与えられるデザインを指す。例えば、院内にある小さな扉にはプレゼントが忍ばされており、見つけた人は誰でも持ち帰る事が出来る。「風」は至る所に飾られた絵画で、「祈る」「寄り添う」「待つ」というコンセプトに基づいて全国各地の画家や、美大生らが描いたものである。300点有る絵画は固定される事無く風の様に常に入れ替わっている。「空」は屋上庭園の広がりに象徴される。総本山善通寺や瀬戸内海が見渡せるロケーションやボランティアによって丁寧に育てられている植物は、言葉以外の方法で多くの患者を励ましている。
こうしたホスピタルアートの取り組みは、開院以来途切れる事無く、ボランティアや医療スタッフ、地域の人達との協力で、新たな作品が生み出され続けている。同院のアートは、「痛みの有る所にこそ息づくもの」だという。痛みを和らげ、病を良くしたいという患者の願い、患者の幸せを願う医療スタッフの祈りの結晶としてアートが生まれる。そして、アートは患者だけでなく、家族や医療スタッフら病院全体に関わる人達の痛みを癒やし、病院全体を優しさと祈りで包んで行く。
設計:株式会社山下設計、建築・施工:大成建設株式会社
240_四国こどもとおとなの医療センター
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