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未来の会

コロナ2類体制からの復旧始まる ~「コロナ病床」を解放し、早期復帰を目指す~

コロナ2類体制からの復旧始まる ~「コロナ病床」を解放し、早期復帰を目指す~
中島 淳(なかじま・じゅん)1957年千葉県生まれ。82年東京大学医学部医学科卒業。国立療養所東京病院外科、東京大学医学部附属病院(東大病院)胸部外科助手の後、92年米国ワシントン大学にて肺移植を学ぶ。東京大学医学部胸部外科講師、同大学院医学系研究科呼吸器外科学助教授、東大病院呼吸器外科診療科長を経て、2011年東京大学大学院医学系研究科呼吸器外科学教授に就任。15年より東大病院にて脳死ドナーおよび生体ドナー肺移植を開始。18年体外式膜型人工肺(ECMO)長期装着中患者に対する脳死肺移植に成功。19年東大病院副院長、20年同院臓器移植医療センター長を兼務。23年日本赤十字社医療センター院長に就任(現職)。

新型コロナウイルス感染症が感染症法の2類相当から5類に移行した事を受け、医療機関では通常の医療提供体制への転換が始まった。これに並行して、来年に迫る医師の働き方改革に向けた調整が進められている。この4月、日本赤十字社医療センター院長に就任した中島淳氏は、東京大学在籍中には肺移植実施施設の責任者として肺移植の最前線で活躍した他、がん免疫療法の研究実績等を持つ。臓器移植とがん治療の最新動向を含めて話を伺った。


——日本赤十字社医療センター院長に就任されました。病院経営で注力されている事をお聞かせ下さい。

中島 当センターの院長に就任する迄は、東京大学医学部附属病院で副院長を務めていましたので、真っ先に考えたのは、経営面の状況についてでした。前任の本間之夫先生にお尋ねすると、所謂経常利益は黒字という事でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響を心配されていました。当センターでは非常に早い段階から対策を立て、東京都や国の要請に応えて病床を準備し、ダイヤモンド・プリンセス号の患者さんも受け入れて来ました。しかし、コロナ患者さんの救急を受け入れると、感染対策等に手間が掛かり、一般の救急患者さんの受け入れがどうしても減ってしまいます。一般外来も、発熱外来用の場所を確保した事で一部の機能を削ったり、新患も少しずつ抑えたりしなければなりませんでした。こうした事が全て経営に影響を与えていました。これ迄は重症対策として国や東京都から補助金が支給されていましたので、どうにか黒字を保てましたが、今年度はその様な補助金は期待出来ませんので、如何に早くコロナ禍前の状態に戻せるかという事が課題になって来ると思います。

年度内にコロナ禍の事後検証と復帰を目指す

——クラスターの影響も大きかったと思います。

中島 最初の頃はクラスターが起こる度に報道されましたが、その後何処で発生してもおかしくない状況になりました。致し方の無いところも有ったと思います。今やるべき事は、今回の経験やデータを記録として残し、今後の新興感染症に備える事です。2009年に新型インフルエンザが流行った時にも様々なマニュアルが作られましたが、コロナ禍に於いてはそのマニュアルの一部は役に立たなかったそうです。そうした検証も含めて、副院長の池ノ内浩先生をリーダーとするワーキングチームを立ち上げ、今年度中に当センターとしての経緯を纏める予定です。

——新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行された事で、新たな課題は有りますか?

中島 当センターには、コロナ禍前は全部で700床位の病床が有りましたが、5つの病棟を空けてコロナ病床を作りました。数で言えば最大で49の病床を減らし、中等症用の44床、重症用の12床を確保しました。その為、全体の病床数は大幅に減ってしまいました。特に最初の頃は、新型コロナウイルス感染症の危険性がどの程度なのか、どの程度の対策が必要なのかが分かりませんでしたので、最大限の体制を取ったのだと思います。それが、今年の5月8日に5類になる迄続きました。私はそこから徐々に通常の体制に戻すという時期に交代しましたので、今難しさを痛切に感じています。先ず、再編成した病棟を元の状態に戻す必要が有りますが、これがそう単純な事ではありません。診療科毎に検査機器等の設備配置や人員配置に特性が有りますし、特に看護師さんは、ある程度の専門性を必要とするところを無理にシャッフルして移動させましたので、完全に元に戻すには相当の時間が掛かると思います。そうした中でも9月の初めには1病棟を元に戻し、来年度には全体をコロナ禍前の状態に戻したいと思っています。その間はどうしても、患者さんの入院数等は制限せざるを得ません。

臓器移植にはドナーの確保と共に体制にも課題

——東大病院では臓器移植医療センター長を務められていました。海外と比べ日本の臓器移植が進まない現状について、どの様に見られていますか。

中島 日本のドナーが不足している事は確かで、例えば隣の韓国に比べると人口当たり約9分の1です。移植が必要な病気は決して多い訳ではありませんが、移植数が限られている日本は待機者が沢山居ます。肺移植を例に挙げると、世界では年間4000件以上が行われていますが、日本はようやく年間100件を超えたところです。現在、肺移植を希望されている待機者数はその4〜5倍。このペースで行くと、移植を受けられるのは4、5年先になってしまいます。肺移植が必要な病気にも、重篤なものから比較的軽いもの迄有りますが、最も重い肺線維症になると、恐らく待機している5年の間に半分以上の方が亡くなってしまうでしょう。ですから、日本にとってドナーを増やすという事は非常に重要だと思います。

——何故ドナーが増えないのでしょうか?

中島 その理由として、昔から日本人の死生観が挙げられて来ました。「四十九日」と言う様に、亡くなった後も暫くは故人の魂を身近に感じる人が多い中、未だ心臓が動いている内に体から臓器を取るとはとんでもないと考える方が多いのだと。ところが、政府が行ったアンケートによると、4割位の人は臓器を提供しても良いと考えている事が分かっています。これはこの10年間で殆ど変わっていません。つまり、日本人の全体が臓器提供に反対している訳ではなく、かなりの割合の人は臓器提供に肯定的なのです。臓器移植法が09年に改正され、ご家族の同意が有れば必ずしも本人の意思表示カードが無くても、臓器が提供される場合も出て来ました。これにより近年ドナー数は増えて来てはいます。しかし、もう1つの理由として、提供施設側のマンパワー不足の問題で臓器提供が行い難くなっているのではないかと考えています。日本は脳死の定義が非常に厳しく、救急科の医師だけではなく、脳神経外科や脳神経内科のスペシャリストが脳死を判定する必要が有ります。これに関しては国もかなり力を入れていて、ここ3年位はコロナ禍で少し減りましたが、今後は徐々に増えて行くのではないかと期待しています。

——厚生労働省を中心として、臓器提供体制の整備が進められています。

中島 その次に考えられる問題として、移植施設側の体制が有ります。肺移植のドナー数が、仮に来年現在の5倍の500人になったとして、全員を助けられる訳ではありません。これは移植する側の病院のキャパシティの問題です。国内の移植手術が行われている施設の中で、東大病院の移植数は断トツです。それでも心臓、肺、肝臓の移植数が生体移植を含めて年間120例程度です。脳死の場合には1人のドナーから複数の臓器が提供されますので、心臓と肺、肝臓と心臓等、多臓器移植になるケースが多々有ります。時間外や休日はスタッフが足りず、私自身も苦労して来ました。規模が大きい東大病院ですらその様な状況でしたので、このままの体制でドナー数が今の5倍になれば、何処の病院もパンクしてしまうでしょう。移植施設でも、脳死でよく行われる心・肺・肝の3臓器全ての移植が可能な所は多くありません。病院経営的に見ると、移植は収入も多い反面、出費も多いのです。人件費は勿論、医薬品のコストが有ります。臓器移植はDPCに含まれていませんが、保険診療です。肝移植等では輸血や血漿分画製剤を大量に使わざるを得ない事が有りますが、これらの査定率が高い事が要因です。そうした事から、撤退した施設も多いと聞いています。

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