髙橋淳氏・政代氏がiPS細胞技術を世界へ発信
中東におけるプレシジョン・メディシン(精密医療)の推進を目的としたカンファレンス・ネットワーキングイベントであるPrecision Med Exhibition & Summit(PMES)が2023年5月23〜24日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ世界貿易センターで開催された。
本イベントはUAEの産業・先端技術省、保健予防省、アブダビ保健局、ドバイ保健局といった主要政府機関がスポンサーとなって開催されているもので、政府、規制当局、医療提供者、研究者を含む関係者等が一堂に会した。
カンファレンスには中東の各分野のエキスパートが集結し、がん、希少疾患、ゲノム薬理学、幹細胞・遺伝子治療に於ける精密医療の臨床応用に焦点を当てた講演が行われた。この中で、日本からの特別ゲストとして、京都大学iPS細胞研究所所長の髙橋淳氏とビジョンケア代表取締役社長の髙橋政代氏が登壇し、それぞれ「iPS細胞を用いたパーキンソン病治療」、「幹細胞による網膜治療」について講演し、大いに注目を集めた。
講演終了後、『集中』ドバイ支局は両氏に独占インタビューを行った。iPS細胞の未来について淳氏は、「iPS細胞を用いた治療が当たり前の世界を目指したい。究極の目標は、簡便な装置で患者自身の細胞から失われた細胞を作製し、自家移植が出来る様な世界を作る事」だと語る。iPS細胞は未だ「第1世代」だと言う同氏。携帯電話の進化の様な技術革新が必要であり、その為には研究の質を高めなければならないと述べる。研究を進める上では法律の壁も有り、研究の為の環境作りには政府の協力が必要だと言う。
又、働き方改革が推し進められる現在の日本について同氏は「医学を担うべき医師に余裕が無くなり、基礎研究が出来ない状況になり、欧米の真似事ばかりする様になれば、日本の医療の質を保つ事が出来なくなる」と懸念する。更に、「医師が人間らしい生活を送りながら医療の質を保ち続ける様にする為には、コメディカルの為に資源を投入し、現場に余裕を作らなければならない」と話す。これからの日本に於いて、医療の質・研究の質を保つ為には、医療システムを根本から見直し、人的リソース、財源の問題等を総合的に考えて行く必要が有る。
眼科領域でのiPS細胞の応用に取り組んで来た政代氏は取材に対し、「治療法が無く失明して行く沢山の患者さんに、早急に我々の治療法を提供して行きたい」と語る。既に臨床に向けた治療法は確立し、今後はこの治療法を広める段階にあると言う。
現在、網膜疾患を抱える患者は世界で約1億8千万人。この内10%が治療対象となり、市場規模は9千8百億ドル以上に上ると言う。同氏は「なるべく多くの病院、外科医へノウハウを提供したい」と意気込みを見せた。一方、医療費抑制下で現状の公的保険では、高度再生医療の治療費を全部支払うのは無理であり、再生医療を広げるには仕組みから変えて行く必要が有ると指摘する。財源の確保が喫緊の課題とした上で、解決策の1つとして、「民間保険の特約として月々数百円を被保険者が負担する事で、イノベーティブな治療が受けられる様になれば良い」と話す。iPS細胞を用いた治療が保険商品として成り立つスキームの構築が求められる。
LEAVE A REPLY