正常分娩・産後ケア等の保険点数
本稿は、前々回の論稿(5月号:デジタル実装された次元の異なる少子化対策)、前回の論稿(6月号:正常分娩を保険適用の対象に)の続編である。そこで、今回は、端的に妊婦健診等の産前、正常分娩、産後ケアの保険点数表の各種試案について述べたい。
試案はすでに、産婦人科医の中村薫氏(以下「中村試案」という)、一般社団法人日本助産所会代表理事澁谷貴子氏(以下「助産所会試案」という)、新生児科医の北島博之氏(以下「北島試案」という)といった自然分娩推進協会(代表は産婦人科医の荒堀憲二氏)の会員によって各種のものが、原案として提示された。
いずれも、助産所や継続ケア等に特に着目しつつ、正常分娩のみならず、産前の妊婦健診等、産後のケア等をも含めて一体としての「保険点数」を試みたものである。
中村試案の序文とその内容
中村試案では、その序文(抜粋)として、次のとおりのことが強調されていた。
「はじめに 将来における産科医師の不足・偏在化により妊娠、出産、産後ケアにおいては助産師の役割が大変重要となることが予見される。そのため助産師の労務を保険点数化することが必須であると考えられ、この保険点数原案はそのことを意識して作成した。(中略)さらに助産師による妊娠中・出産・産後に至るまでの継続的ケアは幸せな妊娠・出産・育児につながり、より多くの虐待児や産後うつの減少につながることが期待され、そのため産後ケア継続支援加算も設けている」
保険点数項目
中村試案と助産所会試案の特徴的な保険点数項目を、次に抜粋したい(1点は10円に換算)。
(1)妊婦健診について
・基本健診料—中村250点、助産所会500点
・助産師ケア料—中村620点、助産所会400点
・紹介料
助産所より助産所又は第1次医療機関へ—中村200点、助産所会250点
助産所より第2・3次医療機関へ—中村・助産所会500点
(2)分娩料について
中村試案の「分娩料」を次に引用する。
・分娩料は基本分娩料+助産師介助料+新生児看護料+包括分娩医療費で構成される
・包括分娩医療費とは入院時より分娩後24時間までに施行された分娩に関わる医療費を包括し定額支給とする事である
・正常分娩でもある程度の医療行為は発生するので、それを見越して包括医療費を設定している
1)基本分娩料:2万点
基本分娩料へは以下の加算を認める
A:政令指定都市加算+1万6000点
B:僻地医療加算
人口10万人未満+1万点
人口10万〜30万人未満+6000点
人口30万〜100万人+2000点
2)助産師介助料:8000点
・入院より分娩までが24時間を超える場合、分娩介助料を24時間ごとに4000点加算する。ただし48時間まで8000点を限度とする
・48時間(入院より72時間以上)を超える場合は2次・3次医療機関への搬送が望ましい
3)新生児看護料—3000点
出生当日の新生児看護ケア料
出生翌日からは後述の新生児ケア料を算定
4)包括分娩医療費—6480点(入院より分娩後24時間以内)
・入院時より分娩までが24時間を超えた場合24時間ごとに2100点加算する。上限は4200点(入院より分娩までが72時間以内)とする
・分娩に関わる医療費とは血液検査、超音波検査、CTG、点滴、抗生剤投与、会陰切開縫合術、陣痛促進剤、吸引分娩、臍帯血血液検査、胎盤病理検査、助産院でのクレンメによる会陰処置等を言う(ドプラーによる児心音聴取のみの場合は請求不可)
・助産所での分娩や在宅出産においても上記処置があった場合は包括分娩医療費を請求可能
助産所会試案によれば、1)基本分娩料は5000点・分娩管理料は300点(1時間につき。割増もあり)、政令指定都市加算2500点・僻地加算1000点、2)助産師直接介助料2万5000点、サポート助産師料3000点(1名につき)、3)新生児看護料3000点・褥婦看護料3000点、4)包括分娩医療費6480点、5)(助産所における)超音波450点・CTG200点・点滴100点、クレンメ会陰処置100点、ドップラー100点などとなっている。
(3)入院料について
中村試案では「入院料」については、
「入院に関する保険点数は下記ア)〜オ)を基本とする。妊娠中・産後入院共に医療費は包括医療費とする。
ア)基本入院料:1日につき350点
イ)食事費用:朝食70点、昼食100点、夕食170点
ウ)入院助産師ケア料:1日につき820点
エ)入院新生児ケア料:1日につき840点
オ)包括入院医療費:入院当日・3200点(分娩目的の入院の場合は包括分娩医療費を請求)
入院2〜7日目・1日620点(入院7日目まで)
入院8日目〜・1日420点」
としている。
(4)産後ケア入院料について
中村試案では、「上記(3)の入院料の内、オ)の包括入院医療費を除いたア)〜エ)の点数とし、1カ月間に4日を目安とする」「別途投薬などの医療費が発生した場合は従前の保険点数加算とする」となっている。
(5)助産師産後ケア料について
中村試案では、下記の通りとなっている。
1)助産師のみの場合:助産師ケア料620点(1時間以内。1時間を超える場合310点加算)
2)助産師+医師の場合:助産師ケア料(620点)+医師健診(380点)
3)乳房ケア料:350点
・助産師による乳房ケアで助産ケア料620点は同時に請求可
・内服薬投薬や切開排膿などの医療処置については従前の点数を追加加算可
・時間外割増請求可
助産所会試案では、さらに詳しく、「1)ショートステイ宿泊型:入院1泊2日6500点(入院費・食事代・助産師ケア料・新生児看護料など)、2)デイケア:2500点(食事代・助産師ケア料)、3)ショートデイ:1250点、4)アウトリーチ:800点」などとなっているし、さらに、細かく各種の加算が提案されている。
(6)産後ケア継続支援加算について
中村試案も助産所会試案も、「産後ケア継続支援加算:680点/月。褥婦さんへ助産師による産後ケアが1カ月に1度でも行われた場合は助産師ケア料とは別に1カ月あたり680点を出産翌月より請求可」となっている。
なお、現代的な課題として、「里帰り出産」が多いので、そのフォローが必要であろう。「里帰り出産」の場合であっても、産後ケア継続支援加算を付けられる体制の整備が肝要である。まずは、離れた地域の助産所・診療所の連携、情報の相互提供の体制を築かなければならない。
助産所の再興を目指して
「次元の異なる少子化対策」においても、「出産費用等の保険適用」が唱えられている。その保険適用は、何よりも「助産所分娩」を充実させる方向のものでなければならない。それも、1名又は特定の数名の助産師が関わった場合に加算される「継続ケア」を重視したものである必要がある。「出産費用等の保険適用」を契機に、適切な保険点数を付けると共に、賠償責任保険の整備と嘱託医療機関の配置の諸問題を合わせて解決し、「助産所の再興」を目指していくことが望まれよう。
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