「ゆりかごから墓場まで」という言葉に象徴される様に、厚生労働行政は幅広い。同様に厚労省で働く職員の職種も多種多様である事は、一般にあまり知られていない。キャリアやノンキャリアだけでない、多様な職種の1つに「人間科学職」が有る。今回は知られざるその職種の実態に迫りたい。
先ずは、人間科学職の詳しい職務内容を説明しよう。起源は旧労働省の「心理職」で、心理学や教育学、社会学等を学んだ専門行政官として、若者や高齢者、障害者、生活困窮者らへのきめ細かい就職支援やキャリアデザイン支援等に取り組むのが主な仕事だ。
職業安定局採用の為、本省にある同局を中心にポストを異動するが、人材開発統括官室や政策統括官室、大臣官房の他、地方の労働局に配属される事も多い。海外の大使館に勤務する事もある。人間科学職のある職員は「事務官では気付き難い心理的な面等を政策的にカバーするのが目的。女性の職員が多く、職務の内容は現場寄りで技官に近い」と述べる。
キャリアパスはどうなっているのだろうか。入省して4年程度すると係長クラスになり、5年程度の勤務を経て課長補佐クラスに昇格する。15年程度の長い課長補佐ポストを終えて40代後半位に室長になれれば、ようやく課長ポストが見えて来る。
前出の職員は「全国のハローワークの元締めである職業安定局総務課の首席職業指導官を経て、人事権を握る人間科学職のボスである障害者雇用対策課長になるのが出世コース。最後は福岡や広島、神奈川など比較的大きな規模の労働局で、審議官級の局長を最後に退職する事が多い」と明↘かす。過去には、北条憲一氏が本省で高齢・障害者雇用開発審議官を務めたが、「レアケース」(省幹部)だという。
現在、人間科学職のボスである障害者雇用対策課長は小野寺徳子氏だ。早稲田大教育学部卒の小野寺氏は、1年間の障害児の集団療育現場の指導員経験を経て、1990年に旧労働省に入省した。山梨労働局職業安定部長や埼玉労働局職業安定部長、職業安定局人道調査室・ハローワークサー↖ビス推進室長、首席職業指導官を経て、2019年7月から現職を務める。
大手紙記者は「障害者雇用の分野に熱心で勢いが有る。アイドル的な存在で現場の人達からも信頼されている」と評価する。日本年金機構の宮腰奏子システム開発部長の様に、人間科学職で入省しながらキャリア職に転換する職員も居るが極まれだ。
現場で地道に働く職員が多い様に思われるが、昨今は厚労省の職員不足を背景に事情が異なっている様だ。ある職員は「本省に新しい部署を作る度に、人間科学職の職員が駆り出されている。大変な部署を押し付けられている様に映る」と漏らす。
派手さは無いものの、厚労行政を支える人間科学職。厚労省のパンフレットには「人や人の集団、社会のあり様に深い関心と洞察力を有す専門家集団」と表現されている。厚労省の忙しい日々の業務に流されず、人や社会に向き合った本来のきめ細やかな仕事を期待したいところである。
LEAVE A REPLY